■縄文人のDNA■
春になるとにわかに血が騒ぎます。
何がって、「潮干狩りに行かなくちゃ・・・」って。
縄文人のDNAが、春の風に呼び起こされます。
以前、住んでいた浦安は、昭和30年代までは漁村でした。
当時の人々は、アサリ採りとノリの養殖で、生計を立てていました。
今ではディズニーランドやマンション群が立ち並ぶスマートな街ですが、
春になると多くの浦安っ子が、クマデとバケツを持って
自転車で海を目指します。
京葉線を新浦安から市川塩浜方面を向かうと、
車窓にいきなり海の景色が広がります。
そこが、浦安の潮干狩りのメッカ、「三番瀬」です。
■東京湾内奥の最後の自然の楽園■
三番瀬は東京湾内奥の最後の自然の楽園です。
見た目は、地味な遠浅の海ですが、
海底には無数のゴカイやアサリなどの底生生物で満ち溢れています。
水深1mから3m程度の海底は酸素と日光がも豊富です。
流入する河川は、生活廃水として 大量の有機物を供給します。
それらの有機物をゴカイやアサリがエサとして分解し、水を浄化します。
さらに、魚や渡り鳥のエサとなって、生態系を支えています。
海が健康な営みを続ける為には、三番瀬の様な遠浅の海が不可欠なのです。
間近にマンションが迫る都会の海ですが、実はとても豊かな自然が息づいています。
■天然のアサリが手に入る、数少ない場所■
皆さんも富津や木更津、あるいは船橋三番瀬公園で潮干狩りを楽しんだ事があるでしょう。
しかし、そういった観光潮干狩り場にいるアサリは、
業者が北朝鮮や中国から輸入したアサリを観光用に撒いたものです。
ですから、アサリは沢山居て、観光客を失望させる事はありません。
アサリが撒かれた所さえ見つければ、まさに栗拾状態でアサリが採れます。
しかし、天然のアサリは違います。
一見同じ様に見える砂地ですが、砂が細かい所があったり、
石ころだらけの所があったり、
潮が引いた後も水気が多い所があったり色々です。
その様な砂地の、アサリの生息に適した場所にしかアサリは居ません。
さらには、栗拾いのような密度では生息していません。
ですから、天然のアサリ採りは、アサリを見つける楽しみとスリルに溢れています。
東京湾広しと言えども、アサリが沢山発生する場所は限られています。
遠浅の海で、潮の流れが重要になります。
浦安沖と三番瀬はその様な、条件を満たす数少ない場所です。
江戸時代には稚貝を浦安で採って、木更津などに売り、
大きく育った貝を、浦安の漁師が買い取って、江戸に売りに行きました。
東京湾の浅瀬が次々と埋め立てられた現在、
浦安の三番瀬は、天然のアサリが採れる非常に貴重な場所になっています。
■雨が降っても、潮干狩り■
潮干狩りは「潮」が大事です。
月と太陽が反対側にある新月か満月の前後だけ、
引き潮の時に、大きく海底が現れます。
普段は現れる事のない沖合いの海底も、大潮の日には姿を現します。
本日は生憎の雨模様ですが、
潮が引くと、どこからとも無く浦安っ子が現れて、貝堀にせいを出しています。
実は、アサリは沖合いにはあまり居ません。
アサリは岸に近い、少しドブ臭い、有機物が豊富な海底を好みます。
沖合いのサラサラな砂地のにはバカガイ(アオヤギ)や、シオフキ、
マテガイといった貝が生息します。
3年ほど前は、バカガイが大発生していて、採り放題だったのですが、
今年はほとんど居ません。
自然の不思議な所は、人為的な環境とは別に、大発生と減少を繰り返す事です。
■逃げる貝を追いかけるマテガイ採りは止められない■
マテガイという貝をご存知でしょうか?
稀に魚屋に出回る事もある、葉巻の様な形をした貝です。
イタリアのレストランでも見かけたので、イタリアでも食べる様です。
こんな形の貝ですが、れっきとしたアサリと同じ二枚貝の仲間です。
アサリを横方向だけ10倍くらい引き伸ばした所を想像していただくと良いかと・・。
このマテガイ、砂の中に1m以上の深い穴を掘って住んでいます。
潮が引くと、この穴の中深くに潜ってしまいますから、
砂地で見かける事はありません。
ところが、この穴に潮を振り掛けると・・・・あら不思議??
何と、マテガイが穴から飛び出して来るんです。
人の気配を察知すると、素早く穴の中に引っ込んでしまいます。
この貝を「マテー」とばかりに速攻で引っこ抜くから、マテガイと呼ばれるとか?
とにかく根気勝負のアサリ採りと違って、
モグラ叩き様で、マテガイ採りは反射神経が命。
ゲーム感覚で、子供も大人も、夢中になって「マテー!!」って。
穴に潮を降りかけて、しばらく待つと・・・・
ビュー・ビューと穴から海水が湧き出して来ます。
突然、マテガイが飛び出して来ます。
人の気配を察知すると、一瞬で引っ込んでしまいます。
その早い事・・・。
すかさず殻の上部とつまんで、ねじる様に引き抜きます。
結構な力で穴の中にもぐろうとします。
無理に引き抜くと、身が途中でちぎれてしまいます。
マテガイ採りは子供も意外な戦力となります。
親はもっぱら穴に潮を掛けて回り、子供は引っこ抜いて回ると
小一時間でも小さなバケツ一杯取れます。
■アサリの天敵、ツメタガイ■
潮干狩りをしていると色々な生物を見つけます。
ヒトデやイトマキヒオトデ。
カニやクラゲ。
今日、見つけたのは、ツメタカイです。
巻貝は肉食性の貝が多いのですが、ツメタガイはアサリの天敵。
大きさは小さなミカン程ですが、大きな足で二枚貝を包み込み、
カラに小さな穴を開けて、中身を食べてしまいます。
これは、シオフキというハマグリに似た二枚貝を砂の中で襲っている所を見つけました。
生きているツメタガイを見るのは私も始めてです。
■江戸前のナマコ発見■
またまた変な生き物を発見。
ナマコです。
3年前はこいつも大発生して、食用にオジサン達が持って帰っていましたが、
今年はこの一匹だけでした。
貴重な江戸前のナマコです。
ナマコの横はバイガイの貝殻でしょうか?
■ 本日も大漁なり ■
8時半から11時半まで、3時間ほど、
一人で黙々と採り続けた結果です。
今年は何故か赤貝が豊漁でした。
アサリはゴールデンウィークで採り尽くされた感じもありますが、
それでも、残ったアサリを上手く見つければこの通り。
まだまだ潮は引いていましたが、これ以上採ると食べ切れません。
潮干狩りは「採り過ぎない」事が極意。
資源保護の観点からも、「ホドホド」が一番。
マテガイはバター焼きと佃煮に。
アサリは味噌汁に。
赤貝は刺身で、美味しく頂きました
三番瀬、今年もありがとう。
かつては全然違う風景が広がっていた事と思います。
ただ、今回の地震で液状化の境界線を辿ると、かつての砂浜を見事にトレースできるようです。40年以上の時を経ても、土地の記憶は失われないようです。
数少ない戦前の記憶の一つが叔父、叔母に連れられて
行った、確か葛西橋です。戦後は滝四小34年生の
ころ、学校で京成に乗って浦安に潮干狩りに行きました。