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「獣医が足りない」の嘘・・・給料が安いから成り手が居ないだけ

2017-08-10 00:24:00 | 時事/金融危機
 

■ 足りないのは産業動物獣医 ■

加計学園問題の焦点は「獣医が足りない」のか「足りているのか」という点。

安倍政権が国家戦略特区で獣医学部の新設を決定した理由は「獣医が足りない」というもの。

1) 愛媛県知事が四国で獣医師が不足しているとして獣医学部の新設を検討
2) 口蹄疫などが四国で発生した場合に獣医不足で対応が不十分になると懸念
3) 四国の国立大学に獣医学部新設を打診するが断られる
4) 加計学園が愛媛県の呼びかけに応え、獣医学部新設に動き出す

自民党支持者やネトウヨを中心に加戸前愛媛県知事の発言を持って、知事が切実に獣医不足を訴えているのだから、「獣医は足りていない。よって加計学園の獣医学部新設は問題は無い」との主張を展開してます。

しかし、これは問題の本質を全く理解していません。

獣医学部卒業者(国家資格合格者)の多くは下記の進路を選択します。

  A) ペットなどの獣医
  B) 医薬品メーカーの研究員
  C) 食品メーカーの研究員
  D) 産業動物獣医師

今回、足りないとされているのは「産業動物獣医師」です。これは主に家畜を扱う獣医師で、その就職先は次の様な所があります。

 1) 農協や共済(民間)

 2) 畜産試験場/水産試験所/林業試験所(地方公務員)
 3) 食肉衛生検査所(地方公務員)
 4) 家畜保健衛生所(地方公務員)

 5) 検疫所/動物検疫所(国家公務員)
 
 6) 動物園・水族館(公務員/民間)

皆さんが家畜の獣医師としてイメージされる畜産農家の家畜を相手に奮闘される方々は、農協や共済に就職して担当地域の畜産農家の家畜の健康管理に当たります。これは大変な仕事で、夜中に呼び出される事も度々ですし、真夏の厩舎で牛の糞尿にまみれる事も・・。動物の病気は曜日を選びませんから休日に呼び出される事もしばしば。

この様な激務の割りに給料はそれ程高くはありません。理由は零細経営が多い畜産農家に高額な治療費を払う事が出来ないから。ですから、「産業動物」の治療は効率とコストを最優先にします。治療が難しい家畜は殺処分され、安価な治療で助かる家畜だけが治療対象となります。結果的に獣医師に支払われる報酬は低く、よって開業しても儲からないので農協や共済の社員として生計を立てます。

今回、足りないと指摘される地方公務員の獣医ですが、畜産試験場の獣医も激務の様です。本来は「研究者」ですが、研究動物の飼育係の様な雑務まで押し付けられます。ネットの書き込みでは、「年間の完全休日が5日しか取れなかったし、夜中も出勤する事も・・・」なんて悲惨な例も在ります。一方で、給与は他の職員と横並びですから、「やってらんねぇー」となる訳で、各地で求人数を下回る採用数となる様です。

■ 公務員獣医が足りないのは労働市場の需給の不一致 ■

給与の割りに激務の公務員獣医ですが、当然希望者は少ない

1)獣医学部は6年制で授業料も高く、私大では卒業までの授業料が1300万円~1500万円
2)獣医師資格取得者の多くが所得の高い開業獣医を目指す
3)医薬品メーカーや大手食品メーカーの給与も低くは無い
4)農協や共済の給与は上記分野よりも低い
5)公務員獣医の所得も低い

結果的に、獣医学部の卒業生の多くが、公務員獣医や産業動物獣医に成りたがりません。これは「獣医不足」の原因です。

対策は簡単で、報酬を増やせば良い。実際に九州の自治体では公務員獣医の給与を引き上げた所、定員を満たす応募者が集まっています。

■ 獣医師が増えてもペットの獣医の競争が過剰になるだけ ■

産業動物獣医の待遇が現状のままで、獣医学部の卒業生の数だけ増やしたらどうなるでしょう。多くの卒業生はペットの開業獣医を目指しますから、この分野の競争が激化して、ペットの獣医の所得が低下します。

現在でも平均年収が600万円程度の動物病院勤務の獣医ですが、これが400万円に下がったら高い学費の元が取れなくなります。当然獣医学部の志望者が減り、下位の大学では定員割れを起こし経営が成り立たなくなります。

「岩盤規制」と非難される文科省の規制ですが、規制を撤廃した自由な競争がもたらすものは過剰競争による共倒れです。そしてその先に有るのは、大きな資本による寡占。これは小売業で既に顕著で、スーパーなどの大型店への集約で起きています。市場の寡占化は価格決定を寡占業者が握るので、結果的に消費者が不利益を被ります。

具体的には地域の個人経営の動物病院が潰れ、チェーンの動物病院に集約されて行くでしょう。そこでは獣医師達は薄給で働きますが、診察料金は寡占によって高止まりし、利益は経営者が独り占めします。


■ 鳥インフルエンザや口蹄疫に対応する為は素人考え ■


加戸愛媛前知事が獣医学部新設を目指した理由に、宮崎の口蹄疫の感染を見て、四国で同様の事態を招かない様に対策を打ちたいと考えた事は政治家としては当然の発想です。しかし、これは素人の考えです。

1)鳥インフルエンザのウィルスは野鳥が運んで来る
2)口蹄疫のウィルスは、感染しても発症いていない家畜によって感染が広がる
3)口蹄疫にウィルスは、衣服に付着したものでも拡散する

人の新型インフルエンザの水際阻止が不可能な様に、家畜のウィルス性の伝染病の水際阻止も不可能に近い。検疫所の職員を増やした所で、今よりも感染の危険性が低くなるとは思えません。

いつ、どこの畜産農家で鳥インフルエンザや口蹄疫が発生するか分かりませんが、発生が確認されたら迅速な封じ込めによってウィルスの拡散を防ぎます。

口蹄疫の場合・・・

1) 感染の確認された農家の半径5km圏内の農家や家畜市場に移動制限が掛けられる
2) 移動制限=出荷禁止
3) 出荷出来ない産業動物は価値を失い、生かして餌を与えても損失が拡大するだけ
4) 口蹄疫の感染力は強く、同じ農家で飼育されていた家畜は感染しおている可能性が高い
5) 上記理由より感染が確認された農家から半径5Km以内の家畜は殺処分される

宮崎で口蹄疫の感染が拡大した際に多くの牛が殺処分されました。

1) 殺処分はブタは電撃、牛は静脈注射
2) 地域の家畜獣医師(産業動物獣医師)だけでは手が足らず、ペットの獣医も作業に当たる

治療でな無く薬殺を粛々と進める作業ですから、ペットの獣医師でも十分に役割を果たしますが、大型動物に不慣れなペットの獣医師の中には怪我をされたり、或いは恐怖を感じられた方もあったといいます。「こんなのオレ達の仕事じゃない、家畜の獣医が足りないからオレ達が動員されるんだ・・・」こんな意見が出るのも当然です。

しかし、口蹄疫や鳥インフルエンザが常時発生する訳ではありません。発生を想定した公務員獣医を地域に常駐させておくのは効率的ではありません。交通網の発達した現代ですから、手が足りなければ他地域から借りて来れば良い。これは地域間相互のメリットとなります。

■ 四国に獣医学部が無くても困らない? ■

今回、今治市に国家戦力特区で獣医学部新設が決まった背景には、「四国に獣医学部が無い」という点が大いにアピールしています。

「広域的に獣医学部が存在しない」という条件が付け加えられ、ライバルの京都産業大学をレースから退けています。京都の隣県の大阪に獣医学部があるからです。

しかし、農水省の畜産の行政管理区分では、「中国・四国」となっており、この区分では2つの獣医学部が有るので、他地域に比べ遜色在りません。むしろ山陰地方がゼロで問題が有ります。

口蹄疫などの発生によって獣医の手が足りなければ、行政管理のブロック内で人材を手配するはずで、四国で問題が発生すれば中国地方の獣医学部に応援要請があるはずです。さらに近畿圏も近いので、ブロックを越えた支援も在るかも知れません。

■ 獣医学部の数を減らして質の向上を図りたい文科省 ■

実は文科省は、獣医学部を増やすのでは無く、減らそうとしていました。

1)獣医学部の教員の定員は70名と規定されている
2)国立大学では学生一人当たり教員一人の割合
3)教員の不足から、教員数の規定を満たせない大学が多い

4)各大学で得意とするカリキュラムが存在する
5)隣接する獣医学部を連携させる事で、教員数の不足を補いカリキュラムの選択肢を増やせる
6)北海道大学と帯広畜産大学の連携などが始まっている

日本の獣医学は世界的なレベルから大きく後れを取っています。又、生徒一人当たりの教員数も世界レベルより少ない。この問題を解決する為に文科省は獣医学部の統廃合を進めようとしていまいたが、地域から獣医学部が無くなる事に抵抗する政治圧力によって統廃合は実現しませんでした。
そこで、隣接する獣医学部を連携させて、互いに補完させる方向で改革を進めはじめました。

当然、獣医学部の新設はこの流れに逆行するので文科省としては認められません。

■ 質の低下を招くだけの加計学戦の獣医学部新設 ■

加計学園は160名という既存獣医学部最大の定員を設定しています。教員数は規定の70名を揃えた様です。

しかし、教員の平均年齢は高く65歳以上の方が20%も居らっしゃる様です。さらに博士号取得者の割合も他大学に比べ低い。これで十分な教育が出来るのか疑問が呈されています。

今回の問題が無くとも新設大学への志望者は成績下位者が集中するでしょう。ですから加計学戦の獣医学部が獣医学のレベル向上につながるとは考え難い。

一方で、6年生大学の医学部、歯学部、薬学部、獣医学部は国家事業としての支援が厚く国費や地方自治体の補助金も多く支出されます。当然、私学助成金も有る。

ところで加計学園系列の千葉科学大学の薬学部の偏差値をご存じでしょうか?45です。国立や有名私立の薬学部が60後半であるのに対して相当に低い。(これより低い大学もゾロゾロ在りますが・・・35が最低)国家試験の合格率は48%です。

獣医学部志望者ですからレベルは高いと思われますが、それでも国家試験の合格率は既存獣医学部に比べれば低迷すると予想されます。

■ 外国人生徒受け入れ ■

実は加計学園の獣医学部は、外国人生徒の受け入れを大きく宣伝しています。授業も英語で行われる様ですし、アジアからの留学生に相当期待しているのでしょう。

一件、何ら問題が無さそうな外国人留学生受け入れですが、獣医学部には国からの補助金や地方自治体からの補助金も多額に投入されています。要は国として獣医師を育成しているのに、卒業生の多くが出身国に帰ってしまう・・。

「獣医師の国際交流や、国際的な共同研究の基礎が出来る」とプラスに解釈する事も出来ますが、はたして税金を納める国民や自治体の住民はこれを良しとするのか?

(これは実は加計学戦だけの問題では無く、下位の大学の多くが少子化の中で今後、外国人留学生の比率を高めて行くと思われます。そこに私学助成金が投入され、将来的には教育国債による大学無償化まで話題に上る始末・・・。)

■ 客観的に考えて・・・時代に逆行していないか? ■

私は安倍政権に否定的な記事を多く書いていますが、決して個人的に安倍首相を嫌っている訳では在りません。むしろ小泉氏などよりも好感が持てます。

しかし、安倍政権の政策を合理性の観点で考えた場合、リフレ政策など疑問点も多い。国家戦略特区で加計学園の獣医学部新設を認めた事も。合理性に欠けると考えています。

確かに日本の獣医学教育は欧米に後れを取っていますが・・・それは大学を新設して競争原理を働かせるだけで解決する問題ではありません。

TPPやEUとの貿易自由化交渉によって、価格の安い畜産物が輸入される一方で、畜産農家の経営は苦しくなり、高齢で零細の畜産農家が廃業して行きます。

好むと好まないに関わらず、国際的な自由競争の過程で畜産農家は減少し、産業獣医師の不足も自然に解消されて行くでしょう。

一方、生物科学や医療分野での専門性の高い獣医師のニーズは高まりますから、文科省としても旧態依然とした獣医学部を良しとしている訳ではありません。事実、獣医学部の連携とう形で、新しい時代への対応を模索しています。

加計学園同様に獣医学部新設に名乗りを上げていた京都産業大学ですが、京都大学のIPS細胞研究との連携を目玉としていました。京大のIPS細胞研究所がどれだけ本気だったのかは分かりませんが、こちらの方あ計画が具体的で筋が良い様に思えます。

■ 大学経営の綱渡りに利用していたとするならば・・・最低だ ■

獣医学部新設の是非について、なるべく客観的に考察してみましたが、ここは陰謀論ブログですから、それらしい妄想も最後に一つ。

実は加計学園の経営があまり良いとは言えないという噂もネットではチラホラ。銀行の返済期限を乗り切る為に、獣医学部新設を名目とした融資が必要だった・・そんな噂もチラリ。

加計学園は52億円程の借り入れ金が有る様ですが、この利息返済が迫っています。一方で獣医学部施設の建設費は文科省の定める最低基準の6倍にも達します。これ、一般的な医療系や獣医学系の大学建設の2倍程度で不自然に高い。

今治市は建設費の半分に当たる96億円を補助金として交付する様ですが、文科省の定めた獣医学系大学の建築費の最低基準の6倍にも達する。これを不審に思わ無い方がオカシイ。

実は加計学園獣医学問題は、森友学園問題と同様に「補助金詐欺ビジネス」であり、だまし取った金の一部が政治家に流れると同時に、補助金が加計学園の借金返済に使われる予定だった・・・こんな図式が陰謀論的にはしっくりと来ます。

借金返済の期日から逆算して開学時期が決まり、無理なスケジュールを押し通す為に国家戦略特区でゴリ押しした。加計学園側も文科省の認可が下りる前から建設に着工して、目標とする開学時期に間に合わせ様としていますが、これは「認可在りき」を前提としたフライングです。100%認可される確信があったのでしょう。

ところが、文科省の審議会は昨日、認可の判断を保留にしました。これだけ疑惑が深まるお、世間の目を気にしておいそれとは認可出来ないでしょう。

仮に認可が下りなければ、加計学園は森友学園同様に経営状態が一気に悪化します。今治市との間で泥沼の訴訟問題になる可能性も有ります。

さらに、今治市では行政訴訟も今後起こされるでしょう。今治市議の多くが賄賂を受け取っていたとの情報も散見されますので、裁判の過程でここら辺も明らかになる事でしょう。


お天道様は全てお見通しだ・・・って事になるのでしょうか?
こんな世の中、たまには正義が遂行されても良さそうですが、そんな事を期待するのは負け組のルサンチマンって所でしょうか。