おじたん。的ぶろぐ生活。

おじたん。である。語るんである。

じいさんは、天国で待ってるかねぇ…。

2009-08-24 20:35:18 | 我思う、故に書くなりよ。
今月は、何かと喪に服す月である…。

いろいろと、日本はこの季節喪に服すのだが、個人的にはJAL123の事故って事が大きい。他にもあって、とある「おばあちゃん」のこと。

おばあちゃんは、全身を癌に冒され、余命いくばくも無かったのだが、頭部への転移が著しく、私はそれを定期的に記録に収めるのが仕事だった。

医者と撮影の趣旨を話すと、快く応じてくれたので、仕事としてはスムーズなものだったが、当初は応じてくれなかったと言う。

「撮ってくれる人がじいさんに似てるから…」

亡くなった後に、担当医から聞いた話では、私が「じいさん」に似てるから…って事で、応じてくれたと聞いた。まぁ、撮影の時もそうした話は聞いていたので、なんとなく判っていたのだけれど、いざ、亡くなられるとね…。

じいさんは、若いのに戦争に取られ、3通目の手紙を最後に消息が途絶えた。
遠い南方で、だいたいあの辺だろう事は判っているらしいが、最後を見た者が誰もおらず、遺骨も戻って来なかったそうだ。

「骨壺に、紙入ってたよ。あんなの、じいさんじゃない。」

遺髪とか、そうした物が帰ってくれば良い方で、紙切れの骨壺だけ…と言う事は多かったそうだ。

「くやしいから、捨ててやったよ。お葬式はしたんだけどね…」

周囲からは立派にお国の為に…と讃えられはしたが、何も、何一つ帰ってきていない。

「じいさんは、天国で待ってるかねぇ…」

返す言葉が無い。待ってるから行ってくれ…とは言えないし、待ってない…とも言えない。

「きっと、待ってるよ。でも、まだ会いに行くのは早いんじゃないの?」
「そうだねぇ。迎えに来てないモンねぇ…」

夏の終わりに、おばあちゃんは亡くなった。

病理解剖の承諾が取れ、担当医から指名を受けた。病理から依頼書が届く前に、担当医から連絡を受けるなんてのは珍しいので、ピンと来てしまった…。

「おばあちゃん、最後だから…。」

担当医も女性なので、おばあちゃんの気持ちは判っていたのだろうと思う。

つらいと言うよりは、やたらとシュールな光景の中にいる事が不思議な感じだったのを覚えている。おばあちゃんとの会話を思い出しながら、おばあちゃんの臓器をステージに載せ、写真に撮り続けている自分…。

「ばあちゃん、やっとじいちゃんに会えるんだな…」

2時間ほどで病理解剖は終わり、技師が最後の身支度を整える時、担当医が…

「あ、すみません、これでお願いします…」

と、担当医は技師に手術で使う縫合用の糸を渡していた。普通ならば、大きく開腹したあとの縫合はタコ糸みたいなゴツイので、割と大雑把に縫合するもんである。技師は面食らっていたが、担当医が説明した。

「これから、天国でおじいちゃんに会うんです。出来るだけきれいにしてあげたいので。」

ばあちゃんとじいちゃんは結婚して5年経っていたが、じいちゃんはほとんど軍にいたので、一緒にいた時間は1年も無かったという。それでも、まだ一緒にいた時間があっただけマシだったとは言っていた。

それならばと、技師も身支度をやり直し始めた。取り出した臓器はほとんどが研究用に保存されるので、お腹は空っぽになる。そのままでは不自然なので、詰め物をして縫合するのだが、だいたいが大雑把なもの。まぁ、数時間経てばお骨になるので、そんなもんだけれど、大雑把だからこそタコ糸でないと…と、言う理由もあるので、丁寧に…となると、そもそもからやり直さなければならない。

ばあちゃんの最後は、とてもきれいになったんである…。まぁ、決められた通りの解剖なので、大きな傷は致し方無いが、じいちゃんもこれなら許してくれるんじゃなかろうか。ちなみに、普通に整えても、汚い…ってワケでは無い。ちゃんと敬意を払って、最後まで整えるのは普通。白装束で見えなきゃいいだろ…って事では無い。病気のせいで、ゆがんでしまった顔の表情も、解剖医が穏やかに整えていた。病変部は保存のため取り去ってしまうが、技師と相談して巧く整えていたのである。

…最後のお別れは一同の礼で終わる。

「ばあちゃん、天国のじいちゃんによろしくね。」

ばあちゃんの手元に、じいちゃんのお骨が戻ってきていたら、ばあちゃんの人生はひょっとしたら変わっていたかもしれない…と、思ったんだな。

死んでしまった事は、戦争だから、お国のためだから、致し方ないとは言っていた。だけれど、亡くなった人が帰ってこない事は、納得がいくものでは無い。

戦没者の遺骨は、国として責任を持って帰す事を行うべきだし、行っても来たんだろう。だが、未だ多くの遺骨が遙か彼方に残されたままである。最近では専ら、情報が集まらないと収集に赴かないと言う感じらしいが、タイムリミットが迫っている…。

そうした情報を持ち得る人の寿命が来てしまうのだ。今こそ、積極的に動かなければ、永遠に帰国すら出来なくなってしまうのである。地勢的に、政治的にムズカシイ場合もあるだろうが、今が最後のチャンスなのではないか…。

そうした、ムズカシイ事は役人に任せ、私の様な失業者でヒマしている人間を掻き集め、収集事業を積極的に行うってのはどうだろう? あちこちに慰霊碑立てるのも良い事かも知れないが、遺骨を日本に帰す事が何よりも先じゃないだろうか?
まだまだ、日本人が訪れる事を望んでいる遺骨は多いと聞く。

ヒマだからこそ、閑人だからこそ出来る恩返しってのがあっても悪くはないと思うのだが、そうした話も聞いた事がない…。年金や医療の問題も…な現在だが、国家としての責任の1つをしっかりと果たす事も大事じゃないだろうか?

そうした動きを目にしない、耳にしないのも変な話だが、どこぞの誰かが利権でももっているんだろうか? そうでないなら、ヒマな日本人集めてやらせるべき事だと思う。それくらい、政府はカネ出せ…。けちけちするな。

あの戦いで、日本に戻れなかった人々を、日本帰す事をマニフェストに載せている政党はあるだろうか? 忙しい人はそれでいい。ヒマなヤツを集めて、雇用を作り出すのも立派な策じゃねえのかな。多くの御霊は喜んでくれるんじゃないだろうか。

…ちょっと調べなきゃだな…。ヒマなんだから…。

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