「危機の宰相」沢木耕太郎(魁星出版、定価1600円税別)
私の上半期のベストかも。「テロルの決算」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した沢木耕太郎が描く、歴史・政治ノンフィクションにすっかり魅了されました。
背景取材や経済理論も分かりやすく書き込まれており、永田町住人には必読、お薦めの一冊です。
60年安保が最高潮に達したとき、それは現在振り返れば日本の大きな「危機」であったと言えます。その後、安保闘争が下火となり、東京オリンピックを迎え、後の時代に60年代は「黄金時代」と呼ばれるようになりました。
その時代に日本を指導したリーダーが「所得倍増」を掲げた池田隼人首相です。
「危機」を「黄金時代に」変えたこのあまりにも有名な「所得倍増」というスローガンがどうして生まれたのか、沢木氏は、池田隼人のブレーンであるエコノミストの下村治、宏池会事務局長の田村敏雄という2人の人物を登場させることでそこに光を当てていきます。
そして、そこにはともに大蔵省でのエリート官僚の道を歩みながら、大きな挫折を味わった「敗者」である3人の物語が語られています。
私は、いまの社会経済の混迷の最大の要因は、国民が価値を見失ってしまったことにあると思っています。「幸せとは何なのか?」、「豊かさとは何なのか?」その答えが示されないことが人々を迷わせています。
戦後の復興期から高度成長期にかけて、この国と国民は、物質的な豊かさを追い求めてきました。しかし、一定の豊かさを達成した現在、どうして私たちは胸をはって幸せだと言うことができないのか。
「所得倍増」というスローガンが、「危機」の時代に国民に目指すべき方向をしっかりと指し示し時代の転換をもたらしたのです。
いま、私たちはこの国新たなリーダーを選ぼうとしています。新しいリーダーは私たちの守るべき価値、進むべき方向をはたして指し示してくれるのか。後の時代に現在を振り返るといまこの瞬間がわが国にとっての「危機」なのかもしれないのです。
私の上半期のベストかも。「テロルの決算」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した沢木耕太郎が描く、歴史・政治ノンフィクションにすっかり魅了されました。
背景取材や経済理論も分かりやすく書き込まれており、永田町住人には必読、お薦めの一冊です。
60年安保が最高潮に達したとき、それは現在振り返れば日本の大きな「危機」であったと言えます。その後、安保闘争が下火となり、東京オリンピックを迎え、後の時代に60年代は「黄金時代」と呼ばれるようになりました。
その時代に日本を指導したリーダーが「所得倍増」を掲げた池田隼人首相です。
「危機」を「黄金時代に」変えたこのあまりにも有名な「所得倍増」というスローガンがどうして生まれたのか、沢木氏は、池田隼人のブレーンであるエコノミストの下村治、宏池会事務局長の田村敏雄という2人の人物を登場させることでそこに光を当てていきます。
そして、そこにはともに大蔵省でのエリート官僚の道を歩みながら、大きな挫折を味わった「敗者」である3人の物語が語られています。
私は、いまの社会経済の混迷の最大の要因は、国民が価値を見失ってしまったことにあると思っています。「幸せとは何なのか?」、「豊かさとは何なのか?」その答えが示されないことが人々を迷わせています。
戦後の復興期から高度成長期にかけて、この国と国民は、物質的な豊かさを追い求めてきました。しかし、一定の豊かさを達成した現在、どうして私たちは胸をはって幸せだと言うことができないのか。
「所得倍増」というスローガンが、「危機」の時代に国民に目指すべき方向をしっかりと指し示し時代の転換をもたらしたのです。
いま、私たちはこの国新たなリーダーを選ぼうとしています。新しいリーダーは私たちの守るべき価値、進むべき方向をはたして指し示してくれるのか。後の時代に現在を振り返るといまこの瞬間がわが国にとっての「危機」なのかもしれないのです。