人だすけ、世だすけ、けんすけのブログ

愛知13区(安城市・刈谷市・碧南市、知立市、高浜市)
衆議院議員 おおにし健介

「国家の罠」~外務省のラスプーチンと呼ばれて

2005年06月30日 | Weblog
 昔から、あまりにも世間での評判が高いと、何となく興味が失せてしまう。音楽や映画はまだしも本については特にベストセラーの類は、何かのきっかけがないと積極的には手にとることはない。
 一方で、信頼できる人が二人以上「おもしろい」と薦めてくれた本は、なるべく読むようにしている。
 「国家の罠」(佐藤優著、新潮社刊)を読んだ。私は、一時期、外務省に居たことがあるので、興味はあったが、評判になっていたので、何となく読む気がしなかったのだが、二人以上の人から推薦をされたので読むことにした。
 たしかに面白い。
 ムネオの手下、外務省のラスプーチンと呼ばれた佐藤主任分析官の手記である。
 よく知っている人こそいなかったが、聞き覚えのある外務省の人間の名前が出てきたり、思わずうなずいてしまうような外務省の仕事ぶりやロシア語スクール内部事情等も興味深かったのはたしかだが、意外なことに最も面白かった部分は、克明に描写された検察の捜査、取調べの実態であった。
 この本を読んだ人の中には「国益を第一に考え、検察権力に屈することなく、信念を貫いた佐藤さんは国士だ。」という感想を持つ人が多いかもしれない。
 しかし、私は、正直に言うと、最後まで佐藤という人を好きになれなかった。
 彼が身を賭して守ろうとしたもの、彼の言う国益というのは、本当にそれだけの価値があるものなのだろうか、そういう気がしてならない。東郷やその他自分のことしか考えない輩は論外であり、佐藤さんは彼らに比べればすっと偉いと思うが、国益と言う言葉や検察権力との闘いに酔ってしまっているのではないかと考えてしまう。
 むしろ、この本の中の登場人物では、自らの職務に忠実に、粘り強く取り組む西村検事の姿に心打たれた。とても人間的で、悩みつつもどこまでも自ら与えられた使命に忠実に取り組む姿勢と佐藤氏との間に芽生える不思議な友情には感動すら覚えた。
 一方で、その気になれば、どんな罪だって作ることができる検察の権力には背筋が凍る思いを抱いた。
 「国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです。」という西村検事の言葉は、この本の核となるフレーズであり、とても印象的な場面だ。
 しかし、日本をハイエク型新自由主義と排外主義的なナショナリズムへと転換するその歴史的必然性こそがこの国策捜査だったのだという著者が被告人最終陳述でも著者が述べている結論は、なるほどと思える部分があるもののストンと胸に落ちない部分もある。
 内容はもちろん、文章、論理構成ともしっかりとしており、読み応えのあるものだった。私からもご一読をお薦めしたい一冊である。

「改革の技術 鳥取県知事・片山善博の挑戦」

2005年06月28日 | Weblog
 仕事を通じて日頃からお世話になっている毎日新聞政治部の田中成之記者の書いた「改革の技術 鳥取県知事・片山善博の挑戦」(岩波書店)を読んだ。
 鳥取支局に配属となった著者が改革派知事として名高い片山鳥取県知事の県政運営を間近に取材しまとめたものである。
 まず、鳥取支局時代の仕事を本と言う形にして残した田中記者に拍手を送りたい。
 役人時代に親しい先輩から、どんなに自分が関心が持てない職務、退屈な部署に配属になってもそこにいる間に何か形になるものを残すように心がけるとよいと教えられた。
 後任に向けた所掌事務のマニュアルでも、小論文でも何でもよい。そこに自分がいて仕事をしていた足跡をしっかりと残すことが重要である。ところが、忙しければ忙しいでそんな暇はないし、暇なら暇ですっかり腑抜けになってしまい、分かってはいるけどなかなか実行できないものである。
 本書は、「改革の技術」と銘打たれている。石原東京都知事、田中長野県知事といった強烈な個性を持った政治家ではなく、増田岩手県知事、片山鳥取県知事といった官僚出身の知事は、改革の手法とも言うべきセオリーに従って、ひとつひとつ布石を打っている。そういう意味で、それは、改革の技術であり、技術である以上、他の知事もそれを学ぶことができると著者は主張する。
 例えば、片山知事の県政運営の基本方針の一つである「情報公開」というのは一つの改革の技術と言えるだろう。しかし、本書を読み進めると、片山知事の改革が単なる技術を超えた片山善博という傑出した政治家なしには実現し得なかったことを実感するのが本書の面白いところである。
 本書で私が感心したのは、取り上げているひとつひとつの政策や条例案について、背景や内容を的確に把握して、図表やグラフを織り交ぜて分かりやすく解説していることである。
 新聞記者は、特に政治部記者は、事実関係の推移や背景にある人間関係等にとらわれるあまりに、個々の政策の中身をおろそかにしてしまう傾向があるように思う。この点、本書は、条例案や政策の中身もきっちりとフォローしていることで、より一層知事のそれぞれの場面でとった行動の意味が良く理解できて、読み物としても読み応えがあるもに仕上がっている。
 著者は、片山知事の改革が成功した理由をいくつか指摘しているが、その中で興味深かったのが、山陰地方におけるローカルニュース枠の大きさである。つまり、知事の声が直接有権者に届いたことが改革の後押しになったのである。
 地方自治に感心のある方には、ぜひお薦めしたい一冊である。