宮尾登美子さん作「きのね」を読み終わりました。この小説中では、歌舞伎役者「松川玄十郎」と光乃の物語。役者としては一流だが、癇癪持ちで、神経質で、気難しい雪雄を生涯、献身的に支え続けた光乃の一代記です。モデルは十一代市川団十郎と千代夫人だそうで、実際の十一代もまれにみる美貌とすぐれた芸で、歌舞伎の花形役者として「海老様ブーム」を巻き起こした人らしく、最初の妻と離婚した後、女中だった千代さんとの間に一男一女をもうけ、やっと昭和28年に周りの反対を押し切って夫婦になったといういきさつがあったようです。人気者の歌舞伎役者の女中の身で、日陰の存在だった彼女は、長男勇雄(モデルは後の十二代市川団十郎)を一人で便所で産み落としたというエピソードには、ほんとに驚きました。癇癪もちの夫の暴力に耐え、戦中戦後の役者が不遇な時期にも、夫を支え続けた光乃(千代夫人)は、まれにみる忍耐と献身の人だったと思いました。千代夫人の穏やかで謙虚な性質を受け継いだらしく、十二代市川団十郎さんも穏やかで腰の低い人だったそうです。芯の強い女性を描くことに置いて、宮尾登美子さんの右に出る人はいないかもしれません。自伝的要素が強い、櫂、朱夏、仁淀川などの綾子シリーズに加えて、また愛読書が増えました。お薦めです。
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