詩を書きたい。どんなものでもいいから。不意にポテトチップスが食べたくなったというのに似ている。といって、それがそんなに好きなわけではない。なんとなく。これがあると昼間から缶ビールが飲める。
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ポテトチップスをぽりぽり、缶ビールをちびりちびり。食べる。飲む。次々に手が出る。あんな感覚。手に取っていれば安心している。どこの製品がおいしいということはない。
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詩を書きたい。出来上がったのを食べるのではない。これから書きたい。だから、ジャガ芋が必要になる。
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詩はことばのポテトチップス。切ってスライスにして揚げる。人様に食べさせるものではない。そんなのは書けない。作って白いお皿に載せる。眺める。そこまで。
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詩になる。ジャガ芋だけではなく、薩摩芋も玉葱も苦瓜も人参も南瓜もピーマンも。フライにすれば味が出る。おいしくなる。そうか、だったら、正確には詩はフライの油だ。
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「音威子府村(おといねっぷ)の虹は」
北海道音威子府村の/トイレ休憩所の/裏山に/虹が架かった/バスから降りてくる人が/口々に/わあわあわあ/きれいきれいきれい/と同じ台詞を重ねた/次々に次々に同じように/比較的小さい虹なのに/半円形の見事な完全虹だった/虹の両足を見た/しっかり地に着いていた/七色があざやかだった/あれだけ称賛を浴びれば/虹は本気で虹を架けただけあったはず/するとすぐさまそれが/にこにこ笑っている眉になった/もう片方は?/二つあれば大笑いになってしまっただろう/北海道音威子府村の/小糠雨の日の/裏山に掛かった虹は/さすがだった/美しい完全形にしては/慎ましく控え目だった/