知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

実施可能要件を満たさないとした事例

2013-05-19 22:32:10 | 特許法36条4項
事件番号 平成24(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件 
裁判年月日 平成25年02月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗,古谷健二郎
特許法36条4項

1 実施可能要件の判断
(1) 請求項7に係る本願発明は,(a)ウリジン,ウリジン塩,リン酸ウリジン又はアシル化ウリジン化合物,及び,(b)コリン又はコリン塩,の2成分を組み合わせた組成物が人の脳シチジンレベルを上昇させるという薬理作用を示す経口投与用医薬についての発明である。
 そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したといえるためには,薬理試験の結果等により,当該有効成分がその属性を有していることを実証するか,又は合理的に説明する必要がある

本願明細書には,例2として,アレチネズミに前記(a)成分であるウリジンを単独で経口投与した場合に,脳におけるシチジンのレベルが上昇したことが記載されているものの,(a)成分と(b)成分を組み合わせて使用した場合に,脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験の結果は示されておらず,(b)成分単独で脳のシチジンレベルが上昇したことを示す実験結果も示されていない。また,(b)成分であるコリン又はコリン塩を(a)成分と併用して投与した場合,又は(b)成分単独で投与した場合に,脳のシチジンレベルを上昇させるという技術常識が本願発明の優先日前に存在したと推認できるような記載は本願明細書にはない。

 そうすると,詳細な説明には,本願発明の有効成分である(a)及び(b)の2成分の組合せが脳シチジンレベルを上昇させるという属性が記載されていないので,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したということはできない。したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に規定する要件を満たさない。この趣旨を説示する審決の判断に誤りはない。

阻害要因を認めた事例

2013-05-19 20:51:54 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10198
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
特許法29条2項 阻害要因

イ 引用発明の吊り下げ部について
 他方,引用発明は,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体については,開口以外の部分についてシールすることが記載されていないだけでなく,そもそも,不要の構成と理解される。また,仮にその不要の構成が残されているとしても,フィルム及びガセット折込体のコーナの部分は内袋の直方体の上面上に沿うとされているから,吊り下げのために,不要な構成をあえて残し,さらに直方体の上面に沿わない構成として,吊り下げ用の空間を形成することは,引用発明における阻害要因となる。

一致点を含む相違点の認定を審決の結論に影響を与えないとした事例

2013-05-19 20:44:50 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10198
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
特許法29条2項 相違点の認定

ア 本件審決の認定した相違点1のうち,「合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する」,「側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ」,「柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり」の部分は,本件審決の認定した一致点と文言上重複している

イ しかし,一致点と重複する上記記載は,それぞれ「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の各構成を修飾する字句の一部に含まれるものであって,それぞれ,本件発明の課題との関係において,「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の構成を特定する技術的にまとまりのある一体不可分の事項である。
このように,技術的にまとまりのある一体不可分の事項である以上,対比すべき構成に,結果として,一致点が含まれること自体,誤りとはいえない。そして,認定された相違点1について,引き続いて行われる相違点の判断が適切に行われている限り,審決の結論に影響を与えるものとはいえない

公然実施について、知り得る状況で実施されていれば足りるとした事例

2013-05-19 20:33:23 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)10693
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松川充康,網田圭亮
特許法29条1項2号

ウ 原告は,一般人が「ナイトロテック処理」との表示を見たとしても,同処理の内容を具体的に認識することはできないと主張するが,公然実施について,当該発明の内容を現実に認識したことまでは必要ではなく,知り得る状況で実施されていれば足りると解すべきであり,また,その判断の基準は一般人ではなく当業者と解すべきである。そして,これを前提とした場合にその要件を満たすことは上記のとおりであるから,原告の主張には理由がない。