知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法104条の3第1項の抗弁と無効審判における未確定の訂正

2011-08-10 06:47:07 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)16895
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成23年07月28日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

1 被告は,前記第2の3(1)及び(2)の[被告の主張]のとおり,本件発明は新規性ないし進歩性を欠く(争点1,2)と主張して,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると主張する。
 しかしながら,本件特許については,その無効審判事件において本件訂正の請求がされており,同訂正はいまだ確定していない状況にある。このような場合において,特許法104条の3第1項所定の「当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」とは,当該特許についての訂正審判請求又は訂正請求に係る訂正が将来認められ,訂正の効力が確定したときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。

 したがって,原告は,被告が,訂正前の特許請求の範囲の請求項について無効理由があると主張するのに対し,
① 当該請求項について訂正審判請求又は訂正請求をしたこと,
② 当該訂正が特許法126条又は134条の2所定の訂正要件を充たすこと,
③ 当該訂正により,当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること,
④ 被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属すること,を主張立証することができ,被告は,これに対し,
⑤ 訂正後の請求項に係る特許につき無効事由があること
を主張立証することができる
というべきである。
 本件においても,原告及び被告は本件訂正に関し,同趣旨の主張をしており,前記第2の1のとおり,原告が本件訂正請求をしていること(上記①)及び被告製品が本件訂正後の請求項1の技術的範囲に属すること(上記④)については,これを認めることができる。
 そこで,以下において,上記②,③及び⑤の点について判断する。
 ・・・

新規事項の追加を認定した事例

2011-08-10 06:10:03 | 特許法17条の2
平成23(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権
行政訴訟 平成23年07月27日 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 飯村敏明


1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)につい
 ・・・
 すなわち,請求項1に係る本件補正は,
「ネジ嵌合する容器の蓋であって,前記する蓋の上面に適度な幅と深さの溝穴を,前記した蓋の一方側端部から中心部を経て対向側端部に至るように溝穴を設けた構成を特徴とする溝穴付き蓋。」を
「ネジ嵌合する容器の蓋であって,前記する蓋の上面を厚くし,この上面の一方の側端部から中心部を経て対向側端部に至るように直線状に略板状体等が嵌め込める溝穴を設け,この溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状溝穴として設けたことを特徴とする溝穴付き蓋。」とするものである。
 ところで,
 別紙実施例図面のとおり,願書に最初に添付した本願明細書・・・には,所定の幅と深さの溝穴6を直線状に設ける実施例が記載されるほか,幅が異なる二つの溝穴6,6aを十字状に交差させる実施例が図示されているが,同図面からは,直線状の溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状の溝穴とする技術は,開示又は示唆はされておらず,また,
 本願明細書の段落【0016】における「上面4に設ける溝孔6,6aの幅や深さはもとより,さらに異なる幅のものを2本以上設けても構わない」と記載されているが,
同記載からは,上記段差状の溝穴を設ける技術は,開示又は示唆はされていない。したがって,本件補正により付加された事項である「直線状の溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状の溝穴とすること」は,願書に最初に添付した本願明細書に記載されておらず,当業者にとって自明の事項ともいえないというべきである。

 以上のとおりであり,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないと判断した審決に誤りはない。
 この点について,原告は,「幅の異なる溝穴においてわずかに高低があること」を「段差状」と表記したのであるから,このような構成を付加して,補正をすることは許されるべきである旨主張する。しかし,補正後の特許請求の範囲(請求項1)には,「この溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状溝穴として」と明確に記載されている以上,付加した技術事項は明白であって,原告の主張は前提を欠き,採用の限りでない。