知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

不競法2条6項所定の「公然と知られていないもの」

2011-08-07 22:42:11 | 不正競争防止法
事件番号 平成23(ネ)10023
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年07月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 争点2(東衛産業,ディリー産業及び被控訴人は,光通風雨戸製造に関する営業秘密(不競法2条6項)を保有していたか)について
(1) 被控訴人は,本件情報2を含む光通風雨戸を構成するスラット等の部材及び部品の形状には,性能の向上のために様々な工夫が施されており,光通風雨戸の製品から新たにこれらの部材及び部品の図面を起こそうとすれば多大な費用や労力を要するから,これらの部品の形状に関する情報には非公知性があり,営業秘密(不競法2条6項)に該当する旨を主張する。

 しかしながら,市場で流通している製品から容易に取得できる情報は,不競法2条6項所定の「公然と知られていないもの」ということができないところ,本件製造販売契約に関連して東衛産業又はディリー産業から控訴人夢工房に対して交付された図面等は,本件情報2に係る部品に関するものに限られ,かつ,当該部品は,いずれも,光通風雨戸を組み立てるに当たって使用される補助的な部品で,前記2(2)及び(3)にも認定のとおり,一般的な技術的手段を用いれば光通風雨戸の製品自体から再製することが容易なものであるから,本件情報2は,不競法2条6項所定の「公然と知られていないもの」ということはできない

法36条5項2号の判断事例

2011-08-07 18:25:34 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10372
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年07月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(イ) 原告の主張に対する判断
 原告は,法36条5項2号に基づけば,本来,特許請求の範囲には特許を受けるべき発明の構成に欠くことができない事項のすべてを記載すべきであるところ,本件発明1においては「中空に一体成形されたプラスチック板体1に流動体Wを給入および排出可能な給排口2を内空部に連通して形成する」ことが特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項であることが明らかであるのに,本件特許の請求項1には,発明の詳細な説明に繰り返し記載されている「流動体Wを給入および排出可能な給排口2」という最も重要な構成要件が欠けているから,法36条5項2号の要件を満たしていない旨主張する。

 しかし,本件明細書の全体の記載を考慮すれば,本件特許における技術的課題である前記①ないし③の各課題は,それらの課題が発明の完成のために全て必須であるというものではなく,①ないし③の課題それぞれに対応した課題解決のための手段が記載され,それぞれの手段に対応した発明の効果が別個に記載されているから,そのうちの前記②の課題解決のための手段が記載されていないとしても,請求項の記載が他の課題を解決する手段とそれに対応する効果を奏するような構成になっている限り,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。

<判決注> 平成6年法律第116号による改正前の特許法36条・・・の規定は,次のとおりである。
法36条(特許出願)
 ・・・
5項: 第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。
1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。

法36条5項1号の判断事例

2011-08-07 17:19:37 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10372
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年07月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 本件発明1に係る特許出願の法36条5項1号該当性について
(ア) 本件明細書(乙1)の段落【0012】の第1実施例には・・・
 ・・・
 上記記載によれば,本件特許の請求項1の構成要件は全て上記第1施例に記載されていると認められるから,本件発明1は「発明の詳細な説明に記載されたもの」であるということができる。
したがって,本件発明1は法36条5項1号の要件を充足していると認められる。

(イ) 原告の主張に対する判断
 原告は,本件特許の請求項1には,発明の課題解決のために採用した手段である「中空に一体成形されたプラスチック板体1に流動体Wを給入および排出可能な給排口2を内空部に連通して形成する」という記載が存在せず,標示器の安定設置という発明の目的及び効果を達成することができないから,本件発明1は「発明の詳細な説明に記載したもの」とはいえない旨主張する。

 しかし,法36条5項1号の規定は,特許を受けようとする発明が明細書の発明の詳細な説明に記載した発明を超えた部分について記載するものであってはならないという趣旨であって,発明の詳細な説明に記載された全ての目的及び効果について記載しなければならないと規定したものではなく,発明の詳細な説明に記載した発明の一部のみを特許請求の範囲に記載した場合であっても,その請求項の記載が発明として完結している限り,同号違反になるものではないと解するのが相当である。

 そして,前記(1)イのとおり,本件特許の請求項1には,本件特許の技術的課題のうち①及び③の課題を解決する構成が記載されていて,それによって,「極めて軽量になり,運搬時および設置時における現場作業者の負担が大幅に軽減される」こと,及び「保管スペースなどを大幅に削減することができ,その結果経済的負担が低減される」という段落【0016】に記載された効果を奏することができるのであって,本件特許の請求項1の記載は発明として完結しているものと認められる。


<判決注> 平成6年法律第116号による改正前の特許法36条・・・の規定は,次のとおりである。
法36条(特許出願)
 ・・・
5項: 第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。
1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。