知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法3条2項の趣旨

2008-04-09 07:47:00 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10243
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年03月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『(イ) 法が,同条2項所定の場合に登録をすることができるとした趣旨は,①当該商標が,本来であれば,自他商品の識別力を持たないとされる標章であっても,特定人が当該商標をその業務に係る商品に使用した結果,当該商標から,商品の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に,広く知られるに至った場合には,登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しいといえること,②当該商標の使用によって,商品の出所であると認識された事業者による独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者等に,当該商標を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失したとして差し支えないことにあるものと解される。

 したがって,本願商標について自他商品の識別力を有するに至ったか否かを検討するに当たって,使用に係る商標及び商品の性質・態様,本願商標との類否,使用した期間・地域,当該商品の販売数量・程度,宣伝広告の程度・方法などの諸事情を総合考慮して判断すべきことは不可欠であるといえる。』

審判の手続及び効力における性質と審決に記載すべき理由

2008-04-09 07:05:10 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10243
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年03月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『1 審決の理由不備の有無について
当裁判所は,審決書には,本願商標が法3条1項5号に該当するとの理由は記載されているが(その判断内容にも誤りはないものと解する。),本願商標に自他商品識別機能がなく法3条2項に該当しないとの理由は,実質的に記載されていないものと判断する
したがって,審決は,理由不備の違法があるものとして,取り消されるべきものと解する(原告は,「AJ」の文字が「ARMANI JEANS」の欧文字とは別に,シャツ及びマフラーに大きく単独で表示されているものがあるにもかかわらず,審決においてそれらを看過している旨主張しているが,それは審決における法3条2項の判断に関する理由不備をも指摘するものと理解される。)。

その理由は,以下のとおりである。

(1) 審判手続は,特許,商標等のそれぞれの専門知識を有する複数の審判官が,特許法等が規定する特定の事件について,裁判手続に準じた厳格な手続よって審理を行い,判断をするものであって,いわゆる準司法手続の一つである。
 審判体において審判手続を経て得られた最終判断は,審決として示される。審決は,行政処分として対世的な効力を有すると同時に,高等裁判所の判決等によらなければ取り消されることがないという点で判決類似の効力を有する。
 審決は,このような点に鑑み,文書によって「結論」を記載することが求められている外,結論に至る判断の論理過程を「理由」として記載すると定められている。また,審決に対する訴えは,地方裁判所の審級が省略され,知的財産高等裁判所が第一審としての管轄を有するという特別な手続的観点からの手当がされている(特許法157条2項,商標法56条,63条)。

 上記のような審判の手続及び効力における性質に照らすならば,審決に記載すべき理由は,①当該事件の適用に関係する法律の根拠及びその解釈,②当事者が提出し,又は職権で調査した証拠に基づいて認定した事実,③認定した事実を法律に適用した場合の論理過程及び判断結果等を過不足なく記載することが不可欠である。』

『(ウ) 「AJ」の使用例に関しては,具体的使用態様の詳細はさておき,少なくとも,審判手続(甲55以降は当審において提出)において,証拠が提出されている。すなわち,・・・に関する証拠が提出されている。

しかし,審決書には,「AJ」が「ARMANI JEANS」の欧文字と共に使用されている点を形式的に挙げて,本願商標の使用に当たらないとしているのみで,「AJ」が使用されている商品等に関する証拠の評価,具体的な使用状況等に関する事実認定,法律を事実に適用した判断過程は何ら記載されておらず,本件の審判手続において,法3条2項に着目した審理を実施した形跡もない。』


数値限定の技術的意義と臨界的意義

2008-04-09 06:37:42 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10298
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年03月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

『イ 審決が上記周知技術として引用するところによれば,鉄心の断面が長円形状のものを用いたソレノイドにおいても,コイル巻数,コイル一巻きの巻数の平均長さ,コイル巻線の断面積,鉄心の断面積を等しくすれば,短幅や吸引力を等しくすることができることについては周知技術であると認められる。

 しかし,本願発明は,上記のとおりコイルにおける短軸側の巻外径Wを一定にした場合に,固定鉄心及び可動鉄心の断面形状は円よりも長円または略長方形にしたほうが同じ鉄心断面積であっても吸引力が大きくなる点に注目し,その観点から相違点1に係るd=(0.4~0.8)Wとの式を求めたものであるから,この点に関し上記引用例には記載も示唆もされていないことからして,上記周知技術の内容から本願発明の相違点1に係る構成を容易に想到できたとすることはできないというべきである。
・・・
 したがって,本願発明は,長円にした際に,単に吸引力を発揮することを目的としたものではなく,コイルの巻外径Wが一定であることを前提として,かつ同じ鉄心断面積であっても円よりも吸引力が大きくなるようにしたものであり,単に鉄心の断面形状を円から長円にしたものではなく,また①d=(0.4~0.8)Wとの点,②1.3≦a/b≦3.0との点のいずれの数値限定についても,既に検討したとおりそれなりの技術的意義を有するものであるから,単に臨界的意義を見出すことができないとのみすることは妥当ではない。』

『(2) 上記2で検討したとおり,本願発明は,「・・・」(特許請求の範囲)ことを特徴とするものである。
 すなわち,・・・を特定するものである。

 そして,このような構成とすることにより,コイル巻外径Wが一定のもとで,鉄心断面積を変更せずに,投下コストを増大させることなく吸引力を増大させたものである。上記「d=(0.4~0.8)Wの関係」の数値はコイル巻外径Wが一定のもとで鉄心断面積を変更しないことを規定するためのものであり,また「1.3≦a/b≦3.0」の数値はコイル巻外径Wが一定のもとで鉄心断面積を変更しないことを前提に投下コストを増大させることなく吸引力を増大させる範囲を定めるための数値であり,これらは,その数値範囲の内外における臨界的現象から数値を規定したものではない

 したがって,上記「1.3≦a/b≦3.0」の数値限定について臨界的意義を見出せないとし,また「ソレノイドの断面形状としての長円であれば,かかる数値限定の範囲に属する長円は普通に実施されているというべきものであり,その数値限定の範囲が格別のものともいえない」(審決5頁13行~15行)として,相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到できたとする審決の判断は誤りというべきである。』