功一と珠代
功一は、人の話を聞くのは苦手だった。努力して聞いていても、無意識に表情にでるようで、鉄一に来て貰って、助かったと思っていた。特に功一には「馬鹿な」と思える話を延々と喋っている人には、怒鳴りつけたい気もして、気持ちを抑えるのに苦労していた。よくあんな話を黙って聞いて、相づちを打てるなんて、鉄一は偉い。あれも一種の才能だ。でもこの間の人の話は、参考になった。「てこの原理」を応用した機械を作りたいと言ってきた人がいて、強度の問題もあるが、あれが出来れば、色々な工事も楽になるだろう。
少しの力で、大きな力か。そうか 難しく考えるだけじゃなく、簡単に整理してか。突然昔 解けなかった萩の神社での算学の解答の糸口が出来た。完全に解くまで数日を要したが、解く事を出来た。そして その解答を読み返していると、今抱えている色々な事も、解けていくような気もしてきた。
お香さんの言っていた事はこういう事かと思ったりしていた。功一は、江戸事業の作業場の近くに、庄屋の離れを借りていた。鉄一は、家を買ってもらっていたので、女中もいてご飯も作って貰えるので、一緒に住もうと言ってくれたが、断った。お香さんはそれじゃ 功一さんの家も探すとも言ってくれた。でも直ぐにここの庄屋さんが、離れを使ったらと言ってくれたので、お香様の話を断った。ここは離れといっても広いし、庭も見える。ご飯も運んでくれる。
あの時は一人で、誰にも邪魔されずに考えたいと思ったからだが、今鉄一は、近くの豪農の娘 お照と良く会っている。あの家にも、来た事があるそうだ。今なら邪魔をしないように、どこに出かけになければならない。 お照は体格こそ肉付きがよく、細身のお恵さんとは違うが、どこかお恵さんと似ている。
鉄一はお恵さんが苦手で、もっとお淑やかな娘がいいと言ってたのに。確かに、鉄一の言う事も良く聞いて、鉄一の面倒も見てくれている。お恵さんよりはお淑やかかもしれないが、自分の気持ちは、はっきり言ってる。自分の気持ちを伝えるのが苦手なおとなしい娘は、鉄一には理解できないのだ。そんな娘の方が多いというのに。 鉄一は鉄平さんやお香さんに紹介すると言っていた。でも愚図愚図している。
お照は怒って、私とは遊びなのと怒っているらしい。鉄一はまず親父に会わせるからとなだめ、お照の両親にも会ったそうだ。でもお照は、お香さんに憧れているらしい。私はお香さんに会わせられない娘なのとまだ怒っている。鉄一は、今度お照を連れて江戸の鉄平さんとお香さんに会わせるらしい。その時庄屋の娘の珠代が食事を持ってきた。
功一「何も珠代さんが持ってこなくても、だれかに言ってくれれば取りにいきます。」
珠代「いやみんな忙しそうにしてたから。それに暫く会ってないから、お顔みたくて。」
功一「ちょっと忙しいかったから、庄屋さんにもご無沙汰してます。 そういえば今月の借り賃を払ってなかった。 持って帰って貰えますか」
珠代「お父さんも功一様に話してみたいとこの間いってました。又母屋の方に来てくれませんか。功一様のお父上は大層偉い人で官位も貰ってる人とお父さん言ってました。功一様も大変頭がよくて・・」
功一「そんな事ありませんよ。父上は、私は単なる医者だと言ってますよ」
珠代「でもお母様は、お公家様のお姫様なんでしょう。」
功一「あれは、父上が突然官位を貰ってしまったので、仕方なく公家の養女としたんです。」
珠代「功一様もお公家様のお姫様と・・・」
功一「そんな事ありませんよ。妹は普通の医者と結婚しましたよ。私はもてなくて、どの娘も相手してくれません。」
珠代「私じゃ、女の内に入りませんか」
功一「そんな事いってのじゃありませんよ。」
珠代「帰ります。また お顔見せてくださいね。」
その頃母屋では、離れの功一への食事の膳が消えていると言って大騒ぎしていた。珠代が帰ってくると、功一様への膳が無くなったとみんな探していた。
珠代「何探しているの?」
作蔵「お嬢様、旦那様が探してましたよ。離れの功一様の膳が無くなっているんです。持っていこうとそこに置いていたのに」
珠代「それならついでがあったから私持っていきました。」
珠代は父の明彦の部屋に行った。
珠代「お父様、私の事探してましたか」
明彦「丁度いい縁談の話があった。」
珠代「私、誰とも結婚しません。」
明彦「お前 離れの功一様を好きなようだが、身分違いだ、片山家は名字も貰っている家だ。しかし功一様は従四位の名医のご長男だ。相手になるまい。妾程度にしかなるまい。」
珠代「私は結婚しませんと言ってるだけです。えっ、功一様の妾ですって。私、なれるかしら。」
明彦「何冗談いってるんだ。お前はもう19だ。降るようにあった縁談も減ってきた。どうする気だ。」
珠代は頭を下げて、「お父様。功一様に私を妾にしてくれるように頼んで下さい。女中代わりでもいいから。好きなように使ってくださいと頼んでみてください。お願いします。私 気が変になりそうなの。もう功一様が離れに来て私の心に入った来た。もう今、心の中には功一様しかいないの。もうすぐ本当に変になるわ。功一様と言い続けそう。 功一様から言われたら、何でもしそうで恐いの。私の心はもう功一様の手の中にあるの。」
明彦「大変な人を離れに泊めてしまった。頭よくて、いい青年と思ったけど。分かった。頼んでみよう。断れたら、おとなしくお嫁にいくか。」
珠代「功一様の事で頭が一杯なの。功一様の事しか話し出来ないの。寝言で功一様と言ってるみたいなの。いっそのこと岡場所が似合いかしろ。目を潰して、売ってくれない。功一様の面影を浮かべながら抱かれるの。そしてすぐ野垂れ死ぬから厄介払いになるでしょ。尼にもなれないし、どうしたらいい。」
明彦「分かったよ。 頼んでみる。おとなしく待ってなさい。本当に妾や女中扱いされてもいいんだね。」
珠代「お側にいられるなら、私は本望です。」
明彦「今 功一様は居られたか?」
珠代「私が今膳を持っていきました。お給仕したかったけど出来なかった。・・・」
明彦は離れに行った。功一に今上がってもいいかと聞いていた。
功一「今 今月の借り賃をお支払いに伺おうとしてました。遅れまして申し訳ありません。」
明彦「借り賃?そんなものどうでもいいんですが。いや功一様 少し頭の変な女がいるのです。お父上は名医でしょう。功一様も多少医学の心得がお持ちでしょう。見てやって下さい。」
功一「いや私は医術はまったくわかりません。江戸の医院でもつれて行った方がいいですよ。」
明彦「いや功一様しか治療できないと思います。 実は珠代の事なんです。どうぞ妾でも女中でもいいからお側においてやって下さい。このままでは、あれはおかしくなります。親が言うじゃないけど、好きなように使ってください。すぐ来させます。女中でもなんでもいいです。お側においてやって下さい。」
功一「片山家のお嬢さんにそんな事させられません。」
明彦「珠代は気が狂ってしまいます。お願いします。」
などと言い合っている時に、心配そうに珠代が覗いて、上がってきて、頭を下げた。
珠代「お側に置いてください。私の頭も、心も功一様で、一杯です。助けてください。」
功一「もう 側にいるだけですよ。私が、夜中に襲ってしりませんよ。 それと功一様と言わないでください。功一さんで十分です。」
珠代が功一の離れに来て、面倒を見る事になった。功一が帰ってくるまで寝ないし、遅くなると迎えにも行ったし、雨が降ると傘を持って来たりしていた。功一は仕方がないので、早く帰るようになった。珠代は功一をすることを見ている。功一は珠代の寝室を、自分の寝室から遠い部屋にしようとすると珠代が泣き出したので、珠代は同じ部屋と言ったが、宥めて、隣の部屋にした。珠代は暫く我慢していたが、ある晩枕元に来て功一に頼んだ。
私もこの部屋で寝たい。珠代は功一の横で寝るようになり、やがて抱きついて寝るようになった。そして功一もいつか抱くようになっていった。珠代は嬉しかったが、抱かれるがそれで終わりなのである。私が嫌いなんだろうかとも気が塞いでいた。
実は功一は、次平とおゆきに手紙を出して、珠代と結婚したいと伝えていた。功一も若い男で我慢していた。珠代が祝福される事を確認したかった。事業部門に功一が忘れていた書き物を届けた時に、珍しくお香が来ていた。お香は誰かに珠代の事を聞いて呼んだ。
「功一さんの奥様ですね。お香です。宜しく そうだ お昼を一緒に食べましょう。」といって駕籠を呼んで、料理屋につれていった。珠代は、吃驚しながら駕籠の中で思っていた。「お香様といったら、ここらでは有名な人だし、ここで一番偉い人だ。私が功一さんの奥様だって。みんなの手前言っただけだ。きっとそうだ。」料理店は、高級として知られている料理店で、お父様も滅多に行けないけど、素晴らしい料理が出る店だと誉めていた。しかし珠代は緊張しており、料理どころではなかった。やがてお香は、言った。
お香「珠代さんと言うのよね。次平先生は、今忙しいので、結婚式はもう少し先になりそうなの。来月にも出来るでしょう。私の主人が代わりに珠代さんのご両親に挨拶に行く事になりそうなの。功一さんから聞いてるでしょ。」
珠代は吃驚して声も出なかった。
珠代「いえ 私 何も聞いてません。」
お香「変ね。あっそうか。あれは、薬種問屋内の便か、次平先生は普通の飛脚に、功一さんへの手紙頼んでいるのかも知れない。主人は今日鉄一にご両親の都合聞きにいくようと言っていた。鉄一の婚礼も同時に上げるの。鉄一は早くと、お照さんにつつかれているけど、次平先生はお忙しいからそう何度も往復できないの。鉄一ももう一緒に暮らしているから、形だけだけど、結局私の所は、似たような女が三人いるの。珠代さんはおゆきさんの感じがしてお淑やかだけど。」
珠代「おゆき様というのは、功一さんのお母様の事ですか?」
お香「そう次平先生と一緒に来ますよ。 主人が珠代さんのお父上と、新居の相談もしたいと言っているらしい。それと赤ちゃんはまだよね。鉄一は来月なら、お腹が出てくると焦ってるけど。私の所は誰も気にしないけど、お照さんのご両親が気にして、仮祝言をもうすぐして、お照さんの親戚への披露だけ済ませるの。鉄一は愚図のくせに、そんな事だけはちゃんとやってるの。二度もやるなんて面倒よね。日が決まったら、鉄一が言うと思う。出てね。」
珠代が泣き出して
珠代「私 功一さんに嫌われているかもしれないのです。側において貰ってうれしいけど、手も出して貰えないのです。いつも側に寝てるのに軽く抱いてもらうだけなんです。」
お香「鉄一みたいなものも困るけど、それは辛いね。でも珠代さんも何もしないの。」
珠代「えっ 私からですか?」
お香「功一さんは、次平先生からの手紙待っていたと思うわ。珠代さんが歓迎されると知ってからと思っていたかもしれないでしょう。今日は鉄一が功一さんもつれても、一緒に珠代さんのご両親に都合を聞きにいくと思う。今日はご在宅?」
珠代「居てました。家を出る前、父に会いました。今日は調べ物があると言ってました。」
お香「もうそろそろ行っていると思う。ご両親は、功一さんの事反対してるの?」
珠代「いえ そんな事ありませんし、私がさせません。」
お香「今晩は珠代さんが功一さんに強く抱きつくのよ。寝間着の紐を緩くして。」
珠代「そんな事したら見えてしまいます。」
お香「功一さんに見られていやなの。」
珠代「いやじゃないけど、恥ずかしい。」
お香「好きな人に見られて何が恥ずかしいの。私も私の娘も嫁も裸になって抱きついているし、相手も裸にして抱き合っているわ。私の家は特別かもしれないけど。頑張ってね。主人には、結納は早く済ませるように言うわ。」
上の空でご飯を食べて、家に帰った。家の中は、出入りが多く騒がしかった。離れに行こうとすると、旦那様が探してました。早く来てください。明彦は、なんか慌てていた。
明彦「珠代 なぜもっと早く言わないんだ。鉄平旦那のご子息が来て、父が結納を持っていきたいと申しております。ご都合もあるでしょうが、なるべく早くと申しておりますと言ってこられた。婚礼の場所などについても父が相談したいと言っております。そんな偉い人たちとどうしたらいいのだ。功一さんはし残した仕事を片づけて、今日は早く帰りますといって又出かけられた。色々と作法について、思いつく人々には、聞きに行かせている。」
珠代「私も今日、しかもお香様から聞いたばかりです。私も夢の中にいます。功一さんが、次平先生に手紙を出していたようです。私には何にも言われなかった。お香様は、次平先生が都合がつき次第、江戸に出てこられると言われていました。」
功一は機嫌よく帰ってきた。珠代は、お父様が待っていますといって、二人で明彦の部屋に行った。
功一「私宛の飛脚がようやく今仕事場に届きました。鉄平さんへの飛脚は薬種問屋の特殊便で早いのを父も忘れていたようで、ご連絡が遅くなりました。」
明彦「もうそんな事はどうでもいいですが、作法は特別なのでしょうか?」
功一「作法?」
明彦「鉄平旦那が来られるそうで、なんか用意しておく物はありませんか?」
功一「鉄平おじさんは何も気にしませんよ。普段通りでいいですよ。」
明彦「普通の結納で良いんですか?」
功一「いいですよ。鉄平おじさんは婚礼についても相談したいと言ってるそうです。何か必要なら、その時に鉄平おじさんが手配しますよ。」実はもっと早く私から申しあげるべきだったのですが、父からの返事が遅れていて。父は、単に都合がつく時期を探していただけのようです。婚礼が遅くなったか、まだ子どもは出来てないかと聞いてきました。先におめでとうと言ってくれればいいのに。済みませんでした。」
明彦「珠代を、しかるべき所に養女に出さなくて大丈夫ですか?」
功一「母との婚礼の時は、父が突然官位を賜ったからですよ。私は無位無官です。それに今は激動の時代です。」
明彦は、ようやく落ち着いたようだ。すると急に娘が心配になった。奥様にして頂けるとは思わなかった。でもあの娘が苦労しないか。
珠代は、そんな事により、夜が待ち遠しかった。お香様に言われたように今日はしっかり抱いて頂けるかもしれない。もう恥ずかしいとは思わなかった。裸で抱きつきたかったがはしたない娘と思われない程度に寝間着の紐を少しだけ緩めて、功一の横に入っていった。功一は、話をせずにごめんねと言って強く抱いてくれた。珠代は強く抱き返した。少しだけ緩めたと思った紐は全部ほどけてしまっていた。それも知らず動いたので、前がほとんどあいた状態になっていた。そのまま珠代は功一に抱きついていた。珠代は身体を功一に押しつけて、もう夢の中にいる気持ちだった。いつのまにか、功一のものが珠代の中に入っていた。功一はあまりうごかない内に、珠代の中に暖かいものを出していた。珠代は、始めてだったが、痛いとも感じず、胸を身体を功一に押しつけていた。珠代の中の功一は又大きくなっていた。功一は少しだけ動いていたが珠代は離れられるとまた身体を功一に押しつけようとして、動いていた。何回も繰り返していると、また暖かいものが身体の中で感じた。珠代は夢の中で功一にもっと抱きついたように思ったが、もう記憶は定かでなかった。
功一は簡単に言っていたが、婚礼は大げさなものになった。お香の物産問屋が新しく作っていた迎賓用の屋敷で行われた。次平は固辞していたが、福岡藩や松江藩からの使者も着た。功一のための屋敷も江戸事業部門の近くで用意されていた。功一は固辞したが、明彦は、嫁入り道具を用意して、この屋敷に入れた。
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