ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

アンファン・テリブル

2013-06-17 21:50:17 | 本のレビュー

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トルーマン・カポーティ著「夜の樹」。これは、凄い傑作集である。久しぶりに、文学の薫りを心ゆくまで味わう。何より、文章が美しい。魔術的なと言っていいほどの筆の冴えで、繊細な硝子細工のような、美酒の滑らかな舌触りのような魔力を放つ文章。

事実、トルーマンは23歳でデビューした時、「アンファン・テリブル」と評されたほど早熟な天才だった。この短編が幾つもおさめられた作品集にしてからが、そのほとんどが彼が20代の頃に書かれたものだ。アメリカ文学史において、三大作家を挙げよといわれるなら、私にはスコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミングウェイ、そしてこのトルーマン・カポーティが思い浮かぶのだが、これらの作家は皆悲劇的な死を迎えた。

借金だらけとなり、妻のゼルダも狂気に追いやられたフィッツジェラルド(彼の代表作「華麗なるギャッビー」がレオナルド・ディカプリオ主演で映画化されたばかり。この映画はぜひ観にいかねば!)、ノーベル文学賞の栄誉に輝きながら、アルコール中毒に苦しみ拳銃で自殺したヘミングウェイ、そして後半生をニューヨークのセレブリティーとして破滅的な生を生きたトルーマンと、である。

カポーティの作品の都会的な洗練と優雅さは、フィッツジエラルドにも重なるような気がする。ただ、カポーティは彼の内面をもうかがわせる冷たく、孤独な世界を描いた短編と、幸福な少年時代の一時期を過ごした、アラバマでの思い出を綴った心温まる小説の両方を描くことが多かった。

両親に遺棄されたに等しい子供時代の孤独と、預けられた遠いいとこの女性たちのいるアラバマでの楽しい記憶が、こうした二面性を生んだのだろうが、作家の幸福と悲惨が感じられてならない。私自身の好きなのは、遠いいとこにあたる女性(小さな子供であるカポーティに対して、彼女はすでに60歳を過ぎていた)との思い出を追憶した短編「クリスマスの思い出」だ。

これは、本当に美しい、詩情あふれる物語で、毎年クリスマスが近づくと読みたくなる。遠い昔の米国アラバマの冬の風景と、どこまでも果てしなく続く空が見えるような気さえするのだ。

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