ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

赤頭巾ちゃん 気をつけて

2022-01-30 17:36:13 | 本のレビュー

庄司薫の「赤頭巾ちゃん 気をつけて」を読む。高校生の時読んで以来、実に34年ぶりの再会。1969年に発表された、50年以上も前の文学作品なのだけれど、今も瑞々しさを失わず、とても初々しい青春小説!

高校時代、部活の先輩が「この『赤頭巾ちゃん 気を付けて』を読んで、とても感動したなあ」と言っていたことも、懐かしく思い出す。

さて、この永遠の青春小説がどういうものかというと――主人公の名前はやっぱり、「薫」君。1969年当時、東大進学率ナンバーワンを誇っていた日比谷高校三年生。ということは、受験生なのだが、御多分にもれず、学生紛争吹き荒れる時代にあって、東大も安田講堂襲撃などのため、入試が中止。 薫君は、12年飼っていた愛犬ドンが死んだり、幼なじみでガールフレンドの由美とケンカしたりという日常の中で、大学へ行かない決心をする。

小説の内容は、こんな薫君の日常や内面を、饒舌にして軽やかな口語体で綴ったものなのだけれど、それが新鮮で、かつ面白いのだ! 半世紀以上も経っているのに、古びたものなど感じさせず、一気に読了してしまったほど。 もともと、そんなに青春小説というものが好みというわけではなく、以前話題になった朝井リョウの「桐島 部活やめるってよ」も少しも面白くなく、(こんなの、どこがいいのかな?)と思いながら、斜め読みしてしまった私。でも、この「赤頭巾ちゃん、気をつけて」はぴたりと、好みのつぼにはまってしまいました。柴田翔の「されど我らが日々」もそうなのだけれど、まだ日本という国が、青春時代のまっただなかだった時代の息吹が感じられて、とても、とても良いのです。

主人公の薫君は、名門高校の学生で「東大法学部」とか、日比谷高校がどんなにエリート意識まるだしの「いやったらしい」学校であるかの描写が何度も繰り返されるのですが、その書き方が全然「いやったらしく」ないのが不思議。この日比谷高校では、皆がり勉などしておらず、生徒会活動や部活動、文化論がものすごく盛んで、「一体、いつ勉強してるんだ?」という状況らしいのですが、薫君はそこに、日比谷高校生の密かな選民意識を感じて、「いやったらしい」と書く。でも、この高校では、試験が年に二度しかなく、後は生徒のご自由にという方針なのだそう。担任の先生も、生徒が自由に選べ、学校の自治も生徒まかせなんて、私から見れば、すごく自由な学校でいいな~としか思えないです。

それにして、1969年という高度成長期の時代は、まだ東京の街ものんびりしていたのですね。私は今のTOKYOより、当時のゆったりした雰囲気に憧れます。この時代に、生きてみたかった……。

  

作中、薫君が、自分の母親や由美と待ち合わせするティールームとして、「銀座ウエスト」が登場しますが、いかにもレトロという感じでいいな~。上の写真も、「銀座ウエスト」のドライケーキであります(これから、食べよう)。ここのお菓子の上品で軽やかな味が、とても好きなのです。


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