これもお借りした本。 航空史に残る戦闘機「零戦」を設計し、作り上げた堀越二郎氏による回想記。
学問的な難しい記述ばかりかと思ったら、さにあらず。 零戦を作り上げる際の血のにじむような努力や工夫について、詳細に書かれているのだが、素人にも実に面白い読み物となっている。 文章の運びからも、堀越氏の誠実で端正な人柄が伝わり、「ああ、こんな人も今はいなくなってしまったなあ」と思わされてしまった。明治生まれの日本人の気骨や、生き様を感じさせるのである。
当時、堀越氏ら三菱重工業の飛行機制作グループに、海軍から出された条件は、あまりにも過酷なものであった。 飛行機というものが、登場して間もない時代に先進国の後をついていく後進国でしかなかった日本・・・それなのに、世界最高レベルの戦闘機をつくれというのだから。 はるかな距離を飛べる航続距離を持ち、圧倒的な戦闘機能、スピードなど様々な能力を要求したのである。
そして、堀越氏たちは、見事その期待に答えた。 映画「風立ちぬ」を見ても、実感したのだが、戦前の日本はまだまだ貧しく、欧米の後を追う後進国としか見られていなかった。 そんな時代に、資源にも乏しく、材料も限られていた日本が、工業技術の粋ともいえる飛行機の傑作を作り上げたというのは、後に敵国であった欧米が讃嘆したのも無理がないことであった。
戦後、日本は奇跡ともいわれる復興を成し遂げ、その工業製品、技術は「メイド・イン・ジャパン」として世界で讃えられるまでになった。けれど、そうしたエンジニアリングの遠いさきがけが、「零戦」の制作だったに違いない。
だが、一方で堀越氏が、自身の作った「零戦」で尊い人命が失われることに、深い悲しみを抱いていたことも印象的である。 これこそ、技術者としての誇りと同時に、アンビヴァレンツとして存在するものだったのだろう。