虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

ダウン・バイ・ロー (1986/アメリカ、西ドイツ)

2005年09月25日 | 映画感想た行
DOWN BY LAW
監督: ジム・ジャームッシュ
出演: トム・ウェイツ    ザック
    ジョン・ルーリー    ジャック
    ロベルト・ベニーニ    ロベルト
    ニコレッタ・ブラスキ   ニコレッタ

 元DJのザックと、かっこつけのポン引きジャックはそれぞれ、罠にはめられて刑務所で同房になった。そこへやってきたのがイタリア人のロベルト。

 運の悪い、ダメ男そうな3人が、刑務所に入って同房になって、脱獄して一人一人になるまで。
 これも、しっかり心に食い込んでくる映画だけれど「どこが」「どうして」を説明するのは難しい。
 微妙なヌルさとおかしみと緊張感に満ちた映画。このどうしようもない世間の負け犬を見て、なぜこんなにも見た後で開放感を感じてしまうのだろうか。この独特な、やはり妙な世界になごんでしまうのは、変に親近感を感じるのはなぜだ。
 ことの発端はかなり丁寧に描かれ、ジャックとザックがどんな男か、二人ともそれなりに曲がり角に来ていることを納得して、しかし全編にわたって葛藤のシーンというのが省略されている。脱走の決意も、実際の脱獄場面もまた省略。時々看守こそ出てくるけど、刑務所シーンは3人の世界だけに限定され、他のものは背景となる。脱獄後も、ニコレッタの家に着くまでは3人以外のものは気配しかない。
 とりあえず逃げ切って、逃げ込んだところが「見たようなところ」というシーンはシュールで情けなくおかしい。
 シュールといえば、この美しい映画の画面の刑務所内の光はまったくシュールで光源がわからないような、影が無いような無機質な感覚がある。逃亡する人家の見えないような湿地や森は、どこでもないような不思議なところに見える。

 ダメな奴らではあるものの、ザックもジャックも無実で、ハメられて刑務所にいいる。そして裁判も済み、どうしようもないと骨身に沁みた状態でここにいる。世の中に無実を叫ぶ手段を積極的に探すでもなし、鬱積するものをやり過ごすことに専心しているようで二人のいさかいは、自分の神経を保つためのよう。そこへ入ってくる妙に軽やかなイタリア人ロベルト。彼は刑務所へ入れられる理由はちゃんとあるのだが、これまた不運。そしてこの物語も復讐劇だのには進んでいかない。
 そしてトム・ウェイツの歌がまた、映画の雰囲気を決定付けてエンディングとなる。
 この3人のトゲトゲしつつのもたれかかりあいが、どうしてこんなに素敵になごむものなのだろう。