内容がタイトルから離れてしまったのですが、このタイトルのまま、
「自閉症の子の心と行動の可動領域が少しでも広がるように
環境を整える」ためにしている工夫について続きを書かせていただきますね。
自閉症ではない子たちは、
ダメージに対して強いです。
たいていの子は、多少、辛い目にあっても、
時間が経てば忘れてしまいます。
それに比べて自閉症の子たちは、どんなにささいなダメージでも、
それが、その後の言動や他の人との関わり方に
影響を及ぼし続けることがあります。
そのため、心と行動の可動領域を少しでも広げるためには、
ダメージを与えないように注意することが、
とても大切だと感じています。
その一方で、ダメージを与えないように
構造化された安心できる環境や遊びを作ろうとするあまり
妙な言い方ですが、子ども同士が「絡む」場面が起こりようがないような
環境をにしてしまってはダメなんじゃないかな、と感じています。
というのも、それまでは自分の世界にふけって、ひとり遊びをしながらひとり言を言ったり、
図鑑を見るといったこだわっている遊びだけを続けていた子が、
自分から、他の子に絡んで行くような行動を取って、
子ども同士の揉め事が頻発した後で、
対人関係の質が大きく良い方向に変化するのを
幾度か体験したのです。
↓に紹介するのは、数年前、発達に気がかりなところのある小学生たちのための
ユースホステルのレッスンでの出来事です。
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発達に気がかりなところのある小学生たちのためのユースホステルでのレッスンに行ってきました。
発達に気がかりなところある子たちというのは、
心がピュアで、
お友だちに対して、
何があっても裏切らないような
裏表のないまっすぐな優しさを示すことが多いです。
今回のレッスンに集まった子らは、どの子も初めて会った子ばかりです。
でも、たちまち仲良くなって、
協力し合って活動をしたり、
笑いあって遊んだりしていました。
「ちょっとしんどいな」というチャレンジにも、ほんの少し前に出会ったばかりのふたりが
手と手を取り合って、
「○○ちゃんが、いっしょならする」と言ってました。
ただ、そんな風にお互いずっと前からの友だち同士みたいに親しくなっていく子らに対して、
小学1年生の自閉症スペクトラムの☆くんだけは、
自分から子どもの集団に距離を置いていました。
創作活動や勉強への参加も
ひとりだけしぶって、
うろうろする姿が目立ちました。
それが、これがユースホステルでのレッスンの良いところで、私が「お泊りのレッスンを実現してみてよかったな~」と
感じている点なのですが、
配膳を手伝ったり、いっしょに食事を食べたり、お風呂に入ったり、眠ったり、
その間、工作したり、実験したり、自由に遊んだり、冒険したりして過ごすうちに、
どんなに距離があった子らも、だんだん親しくなっていくのが
感じられたのです。
☆くんも例外ではありません。本当にゆっくりゆっくりですが、
他の子たちとの距離が縮まってきました。
学校などで出かける旅行は、人数が多すぎて、
仲良しグループからはみだしている子は、
たいてい いつまでたっても排除されたままです。
でも、6人とか8人くらいまでの子ども集団で
ずっといっしょに過ごす場合、
異質な性質の子同士でも、心を開いておしゃべりしてみたり、
人と関わることが下手で、集団から浮いてしまいがちな子も、
いつのまにか家族の一員のように受け入れられて
遊びの輪に入っていることが多いのです。
↑☆くんは漢字などを見るだけで写真のように記憶する能力があります。
他の子たちがいっしょに手伝いあったり、真似し合ったりして
工作している間、☆くんは部屋の奥のテーブルで、☆くんのお母さんとお友だちのお母さんに見守られて
写真の日本地図を描いていました。
私は、☆くんを呼んで、日本地図上を磁石を貼りつけた人形が移動する仕組みを作ってあげようと
思いました。
けれど、持ってきた磁石は○くんが使ってしまっていて、交渉しても
もらうことはできませんでした。
○くんは、とても立派な合体ロボットを作っていたのです。
そこで、ちょうどそこにあった空き箱の切れ端とペットボトルのキャップで
飛ばし道具を作って、アルミ箔を丸めて磨いて作った玉を飛ばすゲームにする提案をしました。
☆くんはこのゲームがとても気に入ったようでした。
するとそれを見た○くんが、それをうらやましがって自分も遊びたがりました。
が、☆くんは「だめだよ。いや~」と強く拒否。
そんな風に頑なな態度を取ってはいても、自分の作ったものに興味を持ってもらってうれしかったのか、
☆くんはホワイトボードのところに行って、
一千億までの表をサラサラと描いて見せました。
お母さんの話では、☆くんは1年生なのでまだ簡単な足し算や引き算を習っているところなのですが、
大きな数はテレビの「お宝鑑定!」といった番組を見ている時に覚えてしまったそうなのです。
一か所の間違いもないところがすごいですね。
ちょうど、3年生の女の子も参加していたので、
「1億5千万になるように数字を書き込んでください」といった
算数クイズに使わせてもらいました。
☆くんにも問題を出すとちゃんとできていたので、漢字の配列だけでなく
数としても理解しているようです。
それには拒否しなかった☆くん。
みんなの注目が集まってちょっぴりうれしかったのか、
今度は、この部屋には側面にもホワイトボードがあったので、西と東の文字を書き、正面には北と書き、
後ろの壁には「南」の漢字を書きこんだ折り紙を貼りました。
このレッスンの少し前、別の場所で勉強や物作りをしていたときに、
それまでは参加しようとしなかった☆くんが、
私が別の子に作ってあげたエレベーターの作り方の見本に興味をしめしました。
その子が3階までのエレベーターを作っているのを見て、
「5階のエレベーター、作る」と言うと、いっしょに工作に参加しはじめました。
エレベーターの階の数字を貼りつけ、漢字を書いて看板?も作っていました。
その後、正面と側面にホワイトボードがあるココプラザの会議室に移ってから、
前回の記事に書いたような経過があったのでした。
☆くんが、部屋の4面に東西南北の漢字を書いていく様子を見て、
私はふと、レッスンで使おうと100円ショップで「オイルコンパス」(方位磁石の一種)を買ってきたことを
思い出しました。
それを☆くんに渡すと、☆くんはそれまで見たことがないほど顔を輝かせて
喜びました。北を示す赤く塗られた針の先が動く様子を、
目を皿のようにして覗き込んでいました。
☆くんにとって、方角はよほど大事なことなんだなと感じたので、思い切って、
「☆くん、そのオイルコンパス、あげるよ」と言いました。
すると、☆くんはよほどうれしかったのか、
「面白かったねぇ」「レッスン、終わりたくない」「帰りたくない」「ずっと、するよー」と
この時間がずっと続けばいいのに……と感じている様子で
お母さんに訴えていました。
☆くんだけが「オイルコンパス」をもらう様子を見て
近くにいた子たちは何も言いませんでした。
これが一般的な小学生たちのグループなら、「オイルコンパス」など少しも興味がなくても、
「えー、☆くんだけ?」「じゃ、私にも何かちょうだい」「ひいきひいき」と
騒いで、☆くんを不安に陥れていたかもしれません。
発達に問題のないしっかりした子たちは、
人と人との関係の微妙な駆け引きを学んでいる最中ということもあって、
相手の弱みを見つけると
そこにつけこんで得しようとするような
エゴイスティックで冷淡な一面も持ちあわせているのです。
でも、発達にでこぼこのある子たちは、自分が欲しくないものなら、他の子がそれをもらっていてもあっさり
している場合が多いです。
それと、他の子の弱さに対してとても寛容で、お友だちが何かができなかったり、
頭が切り替えられずにパニックに陥っているようなときに繊細な優しさを示す子が多いのです。
(↑年上の子たちは自分のきょうだいでなくても、年下の子らを対等に扱って優しく接していたので、
お兄ちゃんお姉ちゃんといっしょに参加していた定型発達の下の子たちは、
ゆっくり自分のペースで相手をしてもらってそれはうれしそうでした。
成長がいい一般的な子たちも、気持ちは優しい子はけっこういるのですが、人が集まる場では、
同年代の場の決定権を握っている子らに合わせようとしたり、
早くその場に適応して自分の価値を誇示していくことに忙しいので、
弱い立場の子からは距離を取ろうとしがちなのです。
それか、「お世話役」として、あれこれ手助けしてあげるものの、対等に扱っているかというと??の場合も多いのです。
大人のハンディーを持った子に対する「かわいそうだから、手伝ってあげて」といった発言は
注意が必要だと思います。)
話を☆くんに戻して……「オイルコンパス」を手にした☆くんは、
この時間が終わってほしくない、ここで過ごすのが楽しくてたまらない……ということを、お母さんに言いつつ、
それまでより積極的に振舞うようになりました。
でも、それが行き過ぎて、ちょっとしたハプニングが起きました。
○くんの作品に触りたがって、○くんに「壊さないで!」と強い口調で注意されたようなのです。
○くんがムッとして、泣きだしそうになると、
☆くんの方が、周囲がびっくりするほどの激しさで号泣しはじめました。
☆くんは、感情の表出が未分化で、ショックな出来事にぶつかると、
自分の感情をどう表現したらよいかわからなくて
パニックに陥るのです。
他の子らは☆くんの様子を心配そうに眺めていました。そして、☆くんのパニックがおさまると、
他の子らと☆くんの(☆くんの心の中での)距離は
いっそう縮まったようでした。
ユースホステルから出て、子どもたちが駆けだして追いかけっこをするときには、
その輪の中に、☆くんがずっと含まれていたのです。
目でその様子を追っていると、
☆くんは揉めてばかりいた○くんをひたすら追いかけていて、
(おそらく気に入っているのでしょう)そこで仲良しは成立しないものの、
他の気のいい子が☆くんに声をかけて遊びが続いていました。
学校などでも、こうした追いかけっこで仲良く過ごせるシーンは見られるのでしょう。
でも、それだけだと、
仲間意識を持つことで、勉強面や精神的な面で、
「がんばろう、もっとお兄ちゃん(お姉ちゃん)になろう」という
気持ちにつながらないかもしれません。
そこは、身近な大人のその子個人だけでなく、
子ども集団そのものや関係のあり方を良い方向に育てていこうとする配慮が必要だと
思います。
揉め事が起こった時に、叱ったり、大人が解決してしまったりするだけでなく、
その背後にある心の動きや関係性の育ちを見て、適切に接していく必要があると
感じているのです。
自閉症スペクトラムの子が「みんなと同じ活動ができない」としても、
その「できない」には、さまざまな段階があります。
興味さえないのか、
揉める程度なら、関わる意志があるのか、
お友だちにいきなり近づくのは難しくても、お友だちの持ち物やすることへの関心は高まっているのか、
みんなのしていることを、自分ひとりの場面ではしようとしているのか、
拒絶していたのが拒絶しないことも増えているか、
誰かひとりの子に近づくことがよくあるか、
など、ほんの些細な変化も見逃さず、そこに潜む次へのステップアップの課題を見つけだすことが
大切だと感じています。
↑ボランティアのお姉さんに、2階建ての建物を補強するのを手伝ってもらっています。
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途中ですが、次回に続きます。