ゆとり教育世代の息子。
自分が受けた教育の質うんぬんより、
教育の形がより良いものに洗練されていくのでなく
その時々で、まるでファッションの世界の流行と衰退のように大きく揺れていくことに、
疑問を抱き続けていたようです。
息子 「自分自身で学ぶ内面のプロセスに関する情報っていうのは、
教える側にも、今の何十倍も必要だと思うよ。
だって、教師になる人は、例えれば箱の中にある青いボールについて
すでに知っている側、わかっている側の思考プロセスで教えようとするけれど、
教わる生徒は、箱の中に何色のボールがあるのかわからない側。
場合によっちゃ、
ボールが入っているのかどうかさえつかめていない状態で学んでいるんだから。
そこで、青いボールについてどう説明するかとか、
青いボールの次に何色のボールについて教え、
その理解度をどうやってテストするかってこと以外に、
箱の中に何が入っているかわからない状態から、そこにボールがあり、
その形と色を認識するために必要な思考のプロセスはどのようなものか、
わからないという状態には、どのようなわかる側からは理解しがたい盲点が
潜んでいるのか、情報として把握しておく必要があると思うんだよ。」
小学生の頃、ボードゲームやパズルを手作りするたびに、姉の友だちから、
「お前には初心者向けっちゅう発想がないんかーい」という突っ込みを
入れられていた息子。
初心者側の視点に立つこと、学ぶ側、生徒側の理解度に配慮することの大切さについて、
よく考えるようになっているようです。
教育問題については、次のような感想も言っていました。
「教育問題が議論されているとき、
一番問題に感じるのは、小学校、中学校、高校のそれぞれの教員の立場、
大学の研究所の立場、企業の立場、臨床の立場、予備校や塾の立場、
メディアの立場、子育て中の親の立場と、それぞれ別の切り口で
論点の優先順位が目まぐるしく変化していて、会話がちぐはぐになっているよね。
ぼくは教育の世界を語りあうためには、その前提として、
あらゆるマイノリティー側の意見も拾って、数学的な平等さで体系化された相関図の
ようなものと、それらをどの立場にも偏らない視点から網羅してある百科事典のような
情報が必要だと思うな」
母 「確かにそういうものがあると、教える際の立ち位置や自分の向かっていく方向
がわかりやすいわね」
息子 「何のためにそうした情報が必要かっていえばさ。
身近な例でいくと、○○式といった体系学習と、
お母さんが子どもに教えるときの教え方の優劣は、測れない種類のものだよね。
でも、多くの人はそうは思わないはずだよ。
メディアで成功しているか、有名であるかということが、
まるで教育の質の良し悪しを測ることができるように錯覚するからね。
過去の時代に価値を持っていた教育観も平等に評価しなおして、
子どもの生きている形について、できるだけ正確にバランスよく教育という面から
捉えて体系化すれば、それぞれ教える側の人が、時代の流行に飲み込まれずに、
個人としてかしこくなれるよね。
自分はどのように教えるのか、その子どもにはどのような教え方が適しているのか、
一番いい方法が探りやすくなると思うよ。
それと、まず教育について議論するときに迷走しないですむよね。」
外食ついでに教育と学習方法についていろいろと話しあった後で、
まだ話し足りなくて、結局、翌日も翌々日もその続きをあれこれ言いあっていました。
息子
「算数オリンピックとか数学オリンピックのいいところってさ、
自らアウトプットするってところにあるのかな?
学校の授業は一方通行にインプットされるばかりだし、定期テストはアウトプットとしては、
価値が怪しいしね。
前から定期テストのために勉強するのってどうなのかなって思ってたんだけどさ。
そもそもテストってそういうものじゃなくて、
勉強した成果がテストの成績であらわれるってのはわかるけど、
その逆はちょっとさ……続けていれば必ず学習動機を見失うよ。
話しが戻るけど、アウトプットってとても大事だと思うよ」
母 「でも、アウトプットが大人たち……つまり親や教師の成果比べのために
使われることもあるから、どうなのかと思うときもあるわ。
インプットの良い面、悪い面、アウトプットの良い面、悪い面を押さえておく必要が
あるのかもね」
息子 「確かに、コンピューター内って、誰もが気楽にできるアウトプットの
スペースになっているけど、そこに問題がないといったら嘘になるしね。
アウトプットばかりだと、他人の意見を聞かずに自分側から好き勝手なことを
言うだけになりがちだな」
母 「教育現場ではいい形で実現しにくいのかもしれないけど、
インプットにもアウトプットにも偏りすぎない
やっぱり相互交流という形の学びっていると思うのよ」
息子 「そうだな。相互コミュニケーションをしているときは、
思考が断片化されないってメリットが大きいもんね。
最近、思うんだけど、テレビを見ていると頭が悪くなるってよく言われるのは、
番組が低俗だからとか、脳内物質がアンバランスになるからなんてことより、
思考が断片化されてくからじゃないかなって思うんだ。
あくまでもぼくが自分でテレビを見てて感じることで、何の根拠もないんだけどさ。
テレビの画面を目で追っていると、最初に自分の頭にあったことが、
次には何の脈絡もない話題に切り替わるようなことがしょっちゅうあるんじゃん。
そのせいでテレビがついていると理由もなく疲れていることがあるよ」
母 「断片化? あまり考えたことがなかったけどそうよね。
その断片化って、いろんなところで起こってきているように思うわ。
教育現場なんかでも」
息子 「確かに、学校の授業は思考を断片化しがちだよね。
集団で学んでいるから仕方がない面もあるけれど、
はい、次、はい、次……って、生徒の理解の度合いに関わらず
進行していくからね。
どうりでどの受験向けの参考書にも学校の授業を聞かずに
内職をすることを勧めているわけだな。
断片化しないようにきちんと思考をするには、
いろいろ考えた後で、それをひとつに統合して、蓋をするって作業がいるんだろうけど、
ぼくは自分で勉強するときには、その都度、そうしたけじめをつけていくんだけど、
学校ではそういうことを大事にしないよね。
断片化のメリットは、生徒の進み具合が明確にわかることだろうから、
どれだけ進んでいるか、どこまで進んでいるかを教師や親が把握することが
優先され過ぎて、むしろ思考を断片化していくことを良しとする風潮さえあるよ」
息子 「学習を通して伸ばしていくものって、基本的な3つに分けられると
思うんだ。
一つ目は知識の量。
二つ目は思考の方法。文法のように体系化された学習内容を含むものだよ。
三つ目が地頭力。
学校では一つ目と二つ目の学習には熱心だけど、特に一つ目に偏った形でさ。
でも、三つ目の地頭力を伸ばす場面は少ないよね」
母 「そ。地頭力を育てる気持ちが薄いから、特別支援教室で学んでいる子が
せっかく勉強しても、それが将来の実生活で生かせていないのよ。
地頭力を伸ばせない問題は、学習支援の必要な子に限ったことじゃないけどね」
息子 「学校で地頭力を伸ばすカリキュラムが組みにくいのは、
地頭を伸ばそうと思うと、断片化して個別にパッケージできない種類のさ、
広範囲にわたる学習を統合するような勉強が必要になってくるからかな?
さっき話した『いろいろ考えた後で、それをひとつに統合して、蓋をするって作業』がさ。
でもそうした雑多の教科をまたぐ学習は、どれだけ進んだのかわかりにくいし、
成績として比べにくいよね」
母 「そうね。でも、成績で測って管理しやすいかどうかで
学習が偏ったり、子どもの思考法まで断片化するような方法ばかりになるのって
どうなのかな?
せめて家庭や地域では相互コミュニケーションや創造的な活動を増やして、
子どもの生きる力を育てていかなきゃね。
思考が断片化しないためには、何かひとつの活動にしっかりコミットメントする必要が
あると思うのよ。」
息子 「今の習い事は、感情を通してテレビドラマにあるような
うれしかったり悲しかったり、感動したり、耐えて努力したりっていう
体験の幅がないもんな。わかりやすく断片化した体験が、
マニュアルで管理されて時間で売られている。
そんな風に何もかもが断片化されていくと、全てに通じる何かがわかった!って
瞬間が少ないかも」
母 「本当にそうよ」
息子 「そうだ。大学に入ったらさ、難関校を目指している中高生を集めて
『数学クラブ』でも作ろうかと思っているんだ。
お母さんのやってることとか、面白そうだしさ」
母 「お金を取る形で? それともボランティア?」
息子 「大学入試のために成績を上げることを重視したクラブなら、
お金を集めるつもりだし、そうじゃなくてプログラミングやゲームを通して
遊びを中心に部活風にするなら無料でしようと思っているよ。
どっちでもいいんだけどさ。
もしお金を取る形でするにしても、
実際に成績が上がった場合に家庭教師料をもらうとかさ、
お金を集めるシステムは学生らしい良心的なものにしたいけどね。
数学をわかりやすく教える自信はあるんだ。
まぁ、何でも実際やってみないと、はじまらないけど。楽しみだな」
これで長々と続いた息子との話合いはおしまいです。
そういえば、1年前にも息子と教育問題の話で長話をしたのでした。↓
わが子との会話を残しておくと、その時々の自分と子どもの感じていたことや
考えたことが見なおせて懐かしいです。
教育現場に欲しい新しい言葉と新しい概念 1
教育現場に欲しい新しい言葉と新しい概念 2
教育現場に欲しい新しい言葉と新しい概念 3
教育現場に必要な 『ブラックボックス』 という言葉 1
教育現場に必要な 『ブラックボックス』 という言葉 2
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教育現場に必要な 『ブラックボックス』 という言葉 6