2023年1月27日(金)
志位委員長の代表質問 衆院本会議
日本共産党の志位和夫委員長が26日の衆院本会議で行った、岸田文雄首相の施政方針演説に対する代表質問は次の通りです。
(写真)代表質問する志位和夫委員長=26日、衆院本会議
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新型コロナでの「医療崩壊」の責任を問う――医療体制の抜本的強化を求める
私は、日本共産党を代表して、岸田総理に質問します。
新型コロナ感染症の第8波による「医療崩壊」が深刻です。死者数は過去最悪、「救急搬送困難事案」も過去最悪、高齢者施設でのクラスターが多発し多くの犠牲者が出ています。第7波で起こったことが、より深刻な形で繰り返されているのです。
総理、その原因はどこにあると認識していますか。政府の責任はきわめて重いと考えますが、その自覚はありますか。
このあしき連鎖を断ち切るうえで決定的に重要なのが、あまりに脆弱(ぜいじゃく)な医療体制の抜本的強化です。「地域医療構想」の名での急性期ベッドの削減計画をきっぱり中止し、危機に対して余裕のある強靱(きょうじん)な医療体制をつくるべきではありませんか。
総理は、新型コロナを、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げる方針を表明しました。しかし、医療体制の強化ぬきにこの方針を実行すれば、医療現場の大混乱は避けられません。医療費を自己負担にすることは、ただでさえ高くなっている医療へのハードルをさらに引き上げ、犠牲を拡大することになります。犠牲者が最悪という深刻な事態のもと、医療への公的責任を放棄する方針を推進することは、断じて認められません。総理の答弁を求めます。
物価高騰からいかにして暮らしと経済を立て直すか
経済界への「お願い」だけで賃上げが進むと考えているのか
物価高騰からいかにして暮らしと経済を立て直すか。総理は、施政方針で、「物価上昇を超える賃上げが必要」とのべました。ところがその方法はといえば、「経済界にお願いする」というだけで、政治の責任で賃上げをはかる具体策がまったく見えません。
総理、経済界への「お願い」だけで賃上げが進むと考えているのですか。そうはいかないことは、政府が、こうした「お願い」を、安倍政権いらい10年間にわたって繰り返しながら、この間に労働者の実質賃金が20万円も下がっているという事実が証明しているではありませんか。
だいたい、総理は、働く人の7割を占める中小企業が、抜本的支援なしに、賃上げができると考えているのですか。城南信用金庫と東京新聞のアンケートに、中小企業の7割以上が「今年、賃上げの予定なし」と回答しています。原材料費の高騰、コロナ危機による経営難、過剰債務という三重苦にあえぐ中小企業が、言葉だけの「お願い」で賃上げができるわけがないではありませんか。答弁を求めます。
賃上げを推進する具体策――大企業の内部留保課税、最低賃金の緊急の再改定を
政治の責任で、賃上げを推進する具体策の実行が必要です。2点にしぼって提案します。
第一は、アベノミクスで大企業の内部留保が500兆円まで膨れ上がった――この膨れ上がった部分に5年間の時限的課税を行って10兆円の税収を確保し、これを中小企業の賃上げ支援にあてて、最低賃金を時給1500円に引き上げる、大企業が賃上げを行った場合には課税を控除し、大企業で働く人の賃上げも促進するという提案であります。
企業内部に滞留した巨額の資金を、経済、とくに賃上げに還流させることの重要性は、総理も否定されないと思います。ならばそれを政治の責任で進めるべきではありませんか。わが党の提案は、そのための最も合理的な提案だと考えますがいかがですか。
第二に、昨年10月の最低賃金引き上げは、全国加重平均で3・3%にすぎません。これは実質賃金の計算に用いる帰属家賃を除く消費者物価の上昇率――4・8%に遠く及びません。最低賃金は実質ではマイナスなのです。
総理、「物価上昇を超える賃上げが必要」というなら、最低賃金を少なくとも「物価上昇を超える」水準に引き上げるために、中小企業への直接支援と一体に、最低賃金の緊急の再改定を行うことは、最小限の責任ではありませんか。答弁を求めます。
消費税5%への緊急減税、インボイス中止を強く求める
くわえて物価高騰への最大の効果的対策となる消費税5%への緊急減税と、インボイスの中止を強く求めます。
インボイスが導入されれば、財務省の試算でも、年間売り上げ550万円、利益150万円の事業者に15万円もの増税になります。1カ月以上の所得が増税で消える。「これでは仕事を続けられない」という悲鳴が、中小・小規模事業者、クリエーター、フリーランスから続々とあがっています。総理、この声にどう答えますか。答弁を求めます。
「異次元の子育て支援」というなら、その柱に教育費負担の抜本的軽減をすえよ
総理は、「異次元の子育て支援」を掲げていますが、そのメニューを見ますと、一番大事な問題が抜け落ちています。
政府が、2020年に行った意識調査では、「育児を支援する施策として何が重要か」という設問に対して、断トツ1位は「教育費の軽減」で69・7%にのぼっています。総理、「異次元」と豪語するほど「子育て支援」に力を入れるというなら、その柱に教育費負担の抜本的軽減をすえるべきではありませんか。
世界で最高水準の学費、日本独自の高すぎる大学の入学金、若者に数百万円もの借金を背負わせる貧しい奨学金制度、憲法で無償とされている義務教育での給食費などの重い負担――この中の一つでも抜本的に改善のメスを入れる意思はありますか。
日本の教育費への公的支出は、対GDP比でOECD37カ国中36位と最低水準です。にもかかわらず来年度予算案の文教費の増加額はわずか102億円、率にして0・3%、物価高騰のもと実質ではマイナスです。「異次元の子育て支援」と言うなら、教育予算の抜本的な増額が必要ではありませんか。答弁を求めます。
原発回帰への大転換を問う――原発ゼロの決断こそ脱炭素を進める道
総理は、昨年12月、原発回帰への大転換の方針を決めました。
しかし、自民党は、昨年の参議院選挙で、「原発の新規建設は考えていない」と公約していたではありませんか。選挙が終わると、手のひらを返して、新規建設推進の方針を決めるのは、文字通りの公約違反ではありませんか。
さらに、自民党は、2011年3月の東京電力福島第1原発の大事故を受けて、原子炉規制法が改定されたさい、「経年劣化による安全上のリスクが増大する」ため、原発の運転期間は40年を基本とすることで民主党、公明党と合意していたではありませんか。総理は、老朽原発の60年をも超える運転を認めるとしていますが、「経年劣化による安全上のリスク」がなくなったとでもいうのですか。
原発事故の教訓を忘れ、被災者の苦しみを忘れた、新たな「安全神話」の復活というほかないではありませんか。
総理は、「グリーン」を理由としていますが、原発こそ、ひとたび事故を起こしたら最悪の環境破壊を引き起こし、核のゴミの処分方法もありません。原発頼みを続けてきたことが再生可能エネルギー、省エネルギー普及の障害になっています。原発ゼロを決断することこそ、脱炭素を進める道だと考えますが、いかがですか。答弁を求めます。
敵基地攻撃能力保有と大軍拡――七つの問題点を問う
総理は、昨年12月、「安全保障3文書」を閣議決定し、「反撃能力」の名での敵基地攻撃能力の保有と、5年間で43兆円もの大軍拡を進めることを宣言しました。私は、次の七つの問いを総理に提起したいと思います。
「勝手に決めるな」――民主主義を無視したやり方だと考えないか
第一は、「勝手に決めるな」ということです。「安保3文書」自身が、戦後の日本の安全保障政策の大転換だと認めているにもかかわらず、総理は、昨年の参院選でも、臨時国会でも、その内容を示さず、一片の閣議決定で大転換を決め、米国のバイデン大統領に報告して既成事実化したうえで、ようやくこの国会にのぞんでいます。順序が逆ではありませんか。民主主義を無視したやり方だと考えませんか。お答えください。
“敵基地攻撃能力の保有は憲法違反”という憲法解釈を変更したのか
第二は、日本国憲法との関係をどう説明するのかという問題です。
政府は、1959年の伊能防衛庁長官の答弁で、敵基地攻撃について、「法理的には可能」としながら、「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」とのべています。政府は、近年でも、この答弁について「現在でも当てはまる」と答弁しています。
総理、敵基地攻撃は、「法理的には可能」だが、その能力を保有することは憲法違反という憲法解釈を変更したのですか。お答えください。
「専守防衛に徹し」と言いながら、「専守防衛」を完全に投げ捨てる
第三は、「専守防衛」と両立しうるかという問題です。
「安保3文書」は、「専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはなら(ない)」とのべています。
しかし、今やろうとしていることは何か。
「GDP比2%以上」の軍事費となれば、日本は米国、中国につぐ世界第3位の軍事費大国になります。
長射程のトマホーク・ミサイルなど相手国の脅威圏の外からミサイルを撃つ「スタンド・オフ・ミサイル」を大量に導入し、それを搭載する戦闘機、護衛艦、潜水艦を大増強するなど、強大な敵基地攻撃能力を保有することになります。
それがどうして「他国に脅威を与えるような軍事大国」でないといえるのか。説明をいただきたい。「専守防衛に徹し」と言いながら、「専守防衛」を完全に投げ捨てる。これが正体ではありませんか。お答えください。
「自分の国を自分で守る」でなく、日本を米国の戦争に巻き込み、国土を廃虚と化す
第四は、敵基地攻撃能力保有は「自分の国を自分で守る」ためのものという言い訳がなりたつかという問題です。
「安保3文書」は、集団的自衛権を行使する場合も敵基地攻撃能力を行使できると明記しています。すなわち、日本が武力攻撃を受けていないもとでも、米国が海外で戦争を開始したら、自衛隊は米軍と一体に、敵基地攻撃能力を使って、相手国の領土に攻撃を加えるということです。その結果は何か。日本への報復攻撃による国土の焦土化です。「日本を守る」ではなく、「日本を米国の戦争に巻き込み、国土を廃虚と化す」。これが正体ではありませんか。
現に、大軍拡の最前線に立たされようとしている沖縄では、万一、有事となったさいに甚大な犠牲をこうむるとして、沖縄県や石垣市議会は、敵基地攻撃兵器の配備に強く反対しています。「沖縄を再び『捨て石』にするな」。総理は、この声にどう答えますか。お答えください。
国連憲章違反の先制攻撃の戦争に、米軍指揮下で自衛隊が参加する
第五は、敵基地攻撃能力保有は、「先制攻撃にならない」という言い訳がなりたつかという問題です。
「安保3文書」は、敵基地攻撃能力の柱に、「統合防空ミサイル防衛能力」の強化をすえています。「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)とは、アメリカが地球的規模で構築している敵基地攻撃と「ミサイル防衛」を一体化したシステムですが、このシステムに自衛隊が米軍と完全に融合する形で参加しようというのであります。
ここできわめて重大なことは、米軍が2017年に作成したドクトリンには、「統合防空ミサイル防衛」は先制攻撃作戦を含むことが公然と明記されていることです。そうなると、米軍がこの方針にそくして先制攻撃で戦争を開始したら、自衛隊も一体にたたかうことになるではありませんか。憲法違反であるだけでなく、国連憲章に違反する先制攻撃の戦争に、米軍の指揮下で自衛隊が参戦することになるではありませんか。しかと、お答えください。
大増税、社会保障大削減、国家財政破綻――「軍事栄えて民滅ぶ」の日本に行き着く
第六は、5年間で43兆円もの大軍拡の財源をどうまかなうのかという問題です。
復興特別所得税の一部を軍事費に流用して期間を延長する軍拡増税に対して、わが党はもとより断固反対ですが、問題はそれにとどまりません。
政府は「歳出改革」と言いますが、どこをどう削るのかは明らかにされておらず、社会保障大削減の危険があります。さらに軍事費を国債でまかなうという、歴史の教訓を無視した暴挙に手を染めようとしています。
結局、大軍拡を大前提とする限り、大増税、社会保障大削減、国家財政破綻――「軍事栄えて民滅ぶ」の日本に行き着くことは明らかではありませんか。
東アジアに平和をつくる外交戦略――戦争の準備でなく、平和の準備を
最後に、第七は、東アジアに平和をつくる外交戦略についてです。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、2019年の首脳会議で、「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)を採択し、ASEANと日米中など18カ国で構成する東アジアサミットを、地域の全ての国を包み込む平和の枠組みとして強化し、ゆくゆくは東アジア規模での友好協力条約を展望するという壮大な構想を提唱しています。
日本共産党の提案は、憲法9条をもつ日本こそが、ASEANと協力し、「ASEANインド太平洋構想」を共通の目標として、この地域の全体をASEANのような戦争の心配のない地域にしていく先頭に立とうというものであります。
そこで総理に聞きます。
1月13日の日米共同声明では、「ASEANインド太平洋構想」への「支持」が明記されています。しかし「ASEANインド太平洋構想」は、「対抗ではなく対話と協力のインド太平洋地域」をつくることを、最も重要な「構成要素」として明記しています。「対抗ではなく」。これが要の精神なのです。この構想への「支持」を確認しながら、「日米同盟の抑止力・対処力」の強化によって地域の軍事的緊張と対抗を激化させる。これは根本的に矛盾していると考えませんか。お答えいただきたい。
亡くなった評論家の加藤周一氏は、「戦争の準備をすれば、戦争になる確率が大きい。もし平和を望むなら戦争を準備せよではない。平和を望むならば、平和を準備したほうがいい」という言葉を残しています。いま日本がなすべきは戦争の準備ではなく、平和の準備であることを、私は心から訴えたいのであります。
この大軍拡を強行するというなら、解散・総選挙で国民に信を問え
敵基地攻撃能力保有と大軍拡は、日本国憲法に違反し、「専守防衛」をかなぐりすて、日本を「戦争国家」につくりかえる歴史的暴挙です。日本共産党はその撤回を強く求めます。
そして、この大軍拡を強行するというなら、主権者である国民の審判を仰ぐべきです。
統一協会との底なしの癒着、「政治とカネ」の問題でのモラル破壊、これらの問題を含め、もはや岸田政権に日本のかじ取りを任せるわけにいきません。
解散・総選挙で国民に信を問うことを強く求めて、質問を終わります