長田 弘 詩 信長貴富 作曲の「アメージング・ツリー」の原詩を紹介します。
「アメージング・ツリー」は2009年9月26日、8703の誕生日に開催された【音の絆Ⅱ~横山直樹と仲間たち~】において初演されました。8703の古稀を記念して信長さんが作曲してくれたものです。
アメージング・ツリー 長田 弘
おおきな樹があった。樹は、
雨の子どもだ。父は日光だった。
樹は、葉をつけ、花をつけ、実をつけた。
樹上には空が、樹下には静かな影があった。
樹は、話すことができた。話せるのは
沈黙のことばだ。そのことばは、
太い幹と、春秋でできていて、
無数の小枝と、星霜でできていた。
樹はどこへもゆかない。どんな時代も
そこにいる。そこに樹があれば、そこに
水があり、笑い声と、あたたかな闇がある。
突風が走ってきて、去っていった。
綿雲がちかづいてきて、去っていった。
夕日が樹に、矢のように突き刺さった。
鳥たちがかえってくると、夜が深くなった。
そして朝、一日が永遠のようにはじまるのだ。
象と水牛がやってきて、去っていった。
悲しい人たちがやってきて、去っていった。
この世で、人はほんの短い時間を、
土の上で過ごすだけにすぎない。
仕事して、愛して、眠って、
ひょいと、ある日、姿を消すのだ、
人はおおきな樹のなかに。
出典 詩集『死者の贈り物』(みすず書房)
※曲では詩の一部を使用しています。また、作曲上変更した箇所があります。
「アメージング・ツリー」は2009年9月26日、8703の誕生日に開催された【音の絆Ⅱ~横山直樹と仲間たち~】において初演されました。8703の古稀を記念して信長さんが作曲してくれたものです。
アメージング・ツリー 長田 弘
おおきな樹があった。樹は、
雨の子どもだ。父は日光だった。
樹は、葉をつけ、花をつけ、実をつけた。
樹上には空が、樹下には静かな影があった。
樹は、話すことができた。話せるのは
沈黙のことばだ。そのことばは、
太い幹と、春秋でできていて、
無数の小枝と、星霜でできていた。
樹はどこへもゆかない。どんな時代も
そこにいる。そこに樹があれば、そこに
水があり、笑い声と、あたたかな闇がある。
突風が走ってきて、去っていった。
綿雲がちかづいてきて、去っていった。
夕日が樹に、矢のように突き刺さった。
鳥たちがかえってくると、夜が深くなった。
そして朝、一日が永遠のようにはじまるのだ。
象と水牛がやってきて、去っていった。
悲しい人たちがやってきて、去っていった。
この世で、人はほんの短い時間を、
土の上で過ごすだけにすぎない。
仕事して、愛して、眠って、
ひょいと、ある日、姿を消すのだ、
人はおおきな樹のなかに。
出典 詩集『死者の贈り物』(みすず書房)
※曲では詩の一部を使用しています。また、作曲上変更した箇所があります。