えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

やすらぐ目

2021年10月09日 | コラム
 Youtubeの「おすすめ動画」はそれまでに閲覧した動画の情報を基に動画を関連付けて、その人がこれまで手に取りそうで手に取らなかった選択を「おすすめ」している。動画のアップロードサイトなのでおすすめされるものはどれも動画なのだが、この頃やたらとアザラシの赤ん坊がごろごろと氷上や動物園の床を寝そべっている動画がずらりと並ぶ。アザラシの赤ん坊をスマホに映していても何ら困ることはないし、よほどのことがなければ彼らは画面の中でうつらうつら大きな黒い瞳をまばたいて、猫のマズルに似たぷっくりした鼻先を呼吸に合わせてゆったりと膨らませている。ホワイトコートと呼ばれる白くて柔らかそうな毛に包まれ、鰭脚をぴったりと合わせている様は粉をはたいて揚げる前のエビフライによく似ている。
 子供のアザラシの形は人間の赤ん坊と似ているのかもしれない。とくに、まだ羊水の色が抜けきらない生まれたてのイエローコートと種別される頃のアザラシの赤ん坊は、骨格がまだ脂肪に埋もれておらず、鰭脚で氷をかき分けて進む様子は丁度袖の余るパジャマを着てはいはいをする人間の赤ん坊のようだ。目は黒目がほとんどでぱっちりと大きい。水中に適応したため陸上ではあまり視力が良くないため臭いでものを識別する。そのためカナダのアザラシ撮影ツアーに訪れる客にも平然と近寄って行く。親と同じくらいの大きさの物体へお乳をもらおうと無邪気にあどけなく這って行くものの、当ては外れてお乳の代わりにカメラのレンズが向けられる。(たいがいの客は当たり前だがアザラシの目のため、氷の強い照り返しのためにフラッシュは焚かない。)間違いはよくあることらしく、アザラシの赤ん坊は人間が驚かせない限り手足を身体にぴったり寄せてじっとしている。じっとしていれば白い保護色が野生動物からは身を守ってくれるのでそうしている。
 アザラシの赤ん坊がブームになったきっかけ自体は今年生まれた海遊館のアザラシや、去年あちこちの動物園で生まれたアザラシの子供たちの動画が水族館側から発信されていることで、特に海遊館のワモンアザラシの子供は身体が弱く普通のアザラシの子供よりも儚げでか弱い姿を印象に残していった。それ以上に彼らが人間の赤ん坊に似ているということと、彼らが自然の中であれ水族館であれ誰かの愛を一身に受けていることが、小さな体からよく伝わるためではないだろうか、と、写真家の小原玲のチャンネルに指を滑らせながら真っ白な世界で居眠りをする丸々とした体躯に思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする