2007年10月13日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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よくある話に「この楽器は弾き込むと良く鳴るようになります」と言う事を耳にします。笑い話ですが、
店の人 「お客さん、このギターは10年くらい弾き込むと凄く鳴って来ますよ」
お客  「私は歳だから10年生きていないかも知れないので、今鳴っているギターを下さい。」

皆さんも弾き込むと鳴ってくると言う話を良く聞くと思いますが、本当はどうなのか疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?また、最初は自分には鳴らし切れない楽器もだんだんと育てて行くもんだと聞いたことがありませんか?そうすると迷ってしまいますね。最初から鳴っている楽器を選んだほうがいいのか、将来鳴りそうな楽器を選んだほうがいいのか。
また、「音が枯れてくる」と言うこともよく聞きますね。「枯れてきてていい音してるね」なんてね。

先ず結論から申し上げると弾き込むと鳴ってくると言うのは正しくて間違っています。振動を与える事で楽器が響きやすくなると言うのは事実ですが、鳴ってない楽器が鳴るようになるかと言うと何とも言えません。寧ろ鳴ってない楽器が鳴るようになる保証はどこにもないと思っていただいた方がいいでしょう。
楽器はケースから出して15分~20分弾いていると鳴ってきます。特に冬の寒いときにはそれを強く感じる事があります。これは自分の指も暖まってくると言う事もありますが、楽器も体温をもらい暖まってきます。寒さで硬くなっていた塗装も柔らかくなります。しかし、これも鳴らない楽器はあまり鳴るようには変化しません。

ヤマハ時代に生ヴァイオリンの設計・開発、生産管理も担当していた時に、ヴァイオリンを出荷する前にある周波数で共振させる工程を入れていました。振動を与える事で木の細胞が整列しなおすと言われています。この整列の仕方は与える振動によって異なってきます。それが弾き手の音が楽器に刷り込まれると言われる所以です。従って最初は鳴らない楽器も弾き込んで育てていくと言うのは良いタッチでよい音を鳴らさないといい音に育っていきません。綺麗な音の木の細胞の整列にしていかないと駄目なんですね。上手く弾きこむ事で音も絞まり、艶も出て、音色に変化が出てきます。これは古い弦(特に低音弦)は早めに換えないといけないということにも繋がります。ボケた音で弾いていると楽器がボケた音を覚えてしまって新しい弦に交換してもボケた音しか出なくなるんです。


「弾き込むと鳴る」と言うのはこう言う意味合いともう一つが木が枯れてきて楽器が鳴りやすくなると言う意味合いがあります。木が古くなると木の細胞が結晶化します。それが枯れた感じとなります。従って製作家も40年~50年経過している古い材を最高級モデルに使用する事があります。現在ミューズにあるギターでは加納さん、一柳さん、三浦さんの100万円のギターがそうです。中には古い家具や教会の木材を使うと言う話も聞いたことがあるでしょう。


以上の事から、「弾き込むと鳴ってきますよ」と言う言葉はあまり信じないほうがいいですね。寧ろ、「その1」でお話したように現在あなたが一番弾き易い、気持ちよく弾ける楽器を選ぶことがいいでしょうね。


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