2007年3月8日のブログ記事一覧-ミューズの日記
ミューズ音楽館からの発信情報  ミューズのHP  http://www.muse-ongakukan.com/

 



<あれも聴きたい、これも聴きたい> アブリュー兄弟

 いつか書かねばと思っていたアブリュー兄弟のことを、山下さんが折りよく書いてくれたので、この際取り上げてみることにした。
アブリュー兄弟のギターデュオは山下さんの書かれている通り1975年に消滅してしまい、私はその後のことをまったく知らなかった。年長のセルジオさんの方がギターの製作家として活躍していたとのこと。ギターを弾くことにかけて並外れた技量の持主だっただけに、楽器に対する見識もさぞかしと思われ、その手になるギターにもぜひ一度触れてみたいものだ。

 写真にあるLPは1969年に録音とあるので、今からおよそ38年前。私が20歳のころ、まさに今名古屋で活躍中の酒井康雄君との二重奏に熱中していた頃だった。
その頃世界で有名なギターデュオといったら皆さんもよくご存知の「プレスティ&ラゴヤご夫妻」と「ポンポーニオ&サラーテご夫妻」、そして「イルゼとニコラス・アルフォンソご夫妻」の3組が名の知れたギターデュオとして聞えてきてはいたが、その他といえば岐阜に「武山さんと後藤さん」というお二人がおられたくらいであった。(このお二人の二重奏がとても上手くて、正直言って私と酒井君もこのお二人を目指していたものだった)
「ポンポーニオとマルティネス・サラーテ」、「イルゼとニコラス・アルフォンソ」のデュオはともに極端にレコードが少なかったのであまり意識していなかったが、やはりプレスティ&ラゴヤお二人の演奏はあまりにも遠い存在で、当時の我々にとっては「二重奏の神様」といったところだったろうか。(サラーテご夫妻の演奏は、コンチェルトのLPと二重奏のCDが各1枚、イルゼ・アルフォンソはLPを1枚持っているだけだが、なかなかいい演奏をしているので、そのうちここにご紹介する機会があるかもしれない)

そんな状況が続いていた当時、突如レコードというかたちで我々の眼前に現れたのが先の「セルジオとエドァルド」のアブリュー兄弟だった。レコードのジャケットに来日記念盤とあるので、そのころ確かに日本に来て各地で演奏したんだろうが、残念ながら私はその実際の演奏に触れることはできなかった。しかし始めてレコードで聴く二人の演奏には心底たまげた記憶がある。とにかく二人の弾くギターの音が、どんなに早いパッセージであろうと、また大きくリズムが変化しようと、ぴたりと合って寸分ずれることがない。ギターの二重奏でここまでぴったり息を合わせて弾くことが可能なのかと驚異すら感じ鳥肌が立つ思いだった。彼らの二重奏の前ではプレスティ&ラゴヤといえどももたついて聞えてきた。ダサくさえ感じるようになった。それほど彼らの演奏には、ギターデュオとしての従来の常識を超えたシャープで斬新な息吹を感じることができた。

と同時に、当時二重奏に打ち込んでいた私は「負けた」と思った。お兄さんのセルジオは1948年生まれというから私とまったく同い年。(ちなみに弟のエドァルドは1949年生まれ)私とまったく同世代でありながらこのデュオにはあまりにも力の違いを見せ付けられた思いであった。しかし先ほども言ったように、その後彼らは1975年にデュオを解散してしまったんだが、その後ご存知「セルジオ&オダイル」のアサド兄弟が出現し、現在また新たなるギターデュオの世界を切り開きつつある。しかしその先鞭をつけたのが「アブリュー兄弟」であったことも確かであった。2代目アブリューとさえ感じたものだった。

 今回、そのアブリュー兄弟のレコードを再度聴いてみて、その演奏の先進性に今更ながら驚かされ、新鮮な気持ちで楽しむことができた。ふたつのギターを同時に奏でるということが、1台のギターから想像される世界を超えて、ただの合奏ではないまったく新しい芸術世界を生み出している。こんな素晴しいギターデュオが現在は存在しないとは、なんともおしいことではあるが仕方がない。
そこで挙げた3組のデュオの演奏で、ロドリーゴのトナディーリアを聴き比べてみたが、なんともそれぞれの特徴がよく出ており、大変興味深く聴くことができた。大御所プレスティ&ラゴヤは、やはりどことなくフランスの香りが漂い、リズムといい音色といい自由自在。なんとも洒落てエキゾチックでエスプリの効いた演奏。まったくお二人が演奏そのものを楽しんでいる風。それに引き換え例のアブリュー兄弟の方はというと、テクニック的に二人の指裁きの見事さに思わず聴き入ってしまうほど切れ味するどいシャープな印象が迫る。そして最後のアサド兄弟はというと、アブリュー兄弟の上を行くテクニックと表現力で、不気味な凄みさえ感じさせる。

プレスティ&ラゴヤはプレスティの早すぎる死で終了。アブリュー兄弟は弟の離脱で解散。残るはアサド兄弟のみのような感があるが(世界では何組かのデュオが活躍していることは僅かなCDなどで知ってはいるが、残念ながら未だこの3組ほどには到っていない感がある)現在のアサド兄弟の出現を予感させるようなデュオが、実は38年前のアブリュー兄弟であった。

ちなみにこのアブリュー兄弟のレコードに録音されている曲をご紹介しておこう。
① 作者不詳:DREWRIES ACCORDES
② 作者不詳:うぐいす
③ テレマン:カノン(S.アブリュー編曲)
④ スカルラッティ:パストラーレ L.413(プホール編曲)
⑤ バッハ:プレリュード第3番(S.アブリュー編曲)
⑥ シャイトラー:ソナタニ長調(シャイト編曲)
⑦ ソル:主題と変奏(シャイト編曲)
⑧ グラナドス:ゴエスカス間奏曲(プホール編曲)
⑨ ロドリーゴ:トナディーリャ
⑩ アルベニス:エボカシオン(S.アブリュー編曲)
⑪ ファリャ:スペイン舞曲第1番(プホール編曲)
① から⑦までのバロック、古典の曲については、まさに現代的表現の模範といえる。次のスペインものに関しては二人の素晴しいテクニックと表現力に、今更ながら驚異を感じる。ある時彗星のように現れ、また彗星のように消えていったデュオであった。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )