2006年12月13日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> イダ・プレスティ

 今日製作家の松村さんからお借りしたイダ・プレスティのDVDを見た。殆んどが夫君のアレクサンドル・ラゴヤとの2重奏の映像で、おそらくフランスのテレビで放映されたもののコピーであろうと思われるが、コピーもコピー。VHSで10回くらいダビングを繰り返したらこれくらいになるかと思われるほど映像は劣悪。ところどころ何が映っているのかはっきりしないところなどがあって残念に思われるが、それでも二人の演奏の特徴ははっきり判るので、大変興味深く見ることができた。

 勿論演奏はすばらしく、私が学生のころから何度も聴いてきた曲が、レコードのまま演奏されていて、大変懐かしい思いもした。
そこで面白いのは、あれほどぴったりと揃った天下第一のデュオであるにも関わらず、お二人の演奏スタイルがまったく異なっていることだった。
ラゴヤのギターの構えは現代に通じる無理のないものであり、左手も右手も無駄な動きがまったくない。特に右手は弦を弾く位置が移動するだけで、どんな動きの時もほとんどその形は変化しない。それに引き換えプレスティの方は、めまぐるしく右手、右腕が動く。特にPの指で弾く時とimaで弾く時とは腕、手首がまったく違う形をとる。そのためひとつの曲の中で右手は本当に忙しくそのフォームを変化させる。勿論Pとimaと同時に弾くこともあるわけで、その場合は中間的なフォームとなる。

そしてラゴヤの右手は昔の教則本にあるように、正面から見ると弦に対してほとんど直角に手首を構えるが、プレスティの場合は、直角を超えて少し無理かなと思えるほど大きく曲がっている。ほとんど爪の当たっていく位置が普通の人の反対ではないかと思えるほどの曲がり方だ。フォームからだけ見れば、プレスティの方はあまり褒められたフォームとは言えず、現在であったら先生に「まずフォームからやり直しなさい」と言われてしまうかもしれない。そしてラゴヤの方はスケールになるとほとんどアポヤンドになっているが、プレスティの方はまったくと言ってよいほどアポヤンドは使っていない。右手首をギターの表面板にぐっと近づけて、全てアルアイレ奏法だ。従ってラゴヤの方は指が自然な曲がり方をして、第3関節から全て使って弦を弾いているが、プレスティの方は、第2関節で90度近く曲がっており、第3関節はほとんど曲がっておらず、手の甲から第2関節まで平らな状態であった。これくらい奏法が違うと、出てくる音も随分違うはずなんだが、そのDVDではそこまではっきりとは聴き比べできる状態ではなかった。しかし、昔レコードを聴いた時にはあまり違和感を感じなかったので、音色の違いは克服されているのか、あるいは違っていても、そう感じさせないほど上手いアンサンブルになっているのかもしれない。

とにかくお二人の演奏を映像で見たのは初めてであったが、ほとんどが楽譜を見ずに演奏されているし、アンサンブルとしては完璧なほど揃っているのは見事というほかない。
いずれミューズでもこの映像を皆さんにも見ていただきたいと思っているが、この素晴しいデュオの本物を見たい、聴きたいと思っても叶えられないのは、なんともはや残念なことである。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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