(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その手始めに「高山植物」のカテゴリーを創設し、山の花について語って行きたいと思います。今回はその続きです。)
高山に咲く花には美しいものが多いが、どれが一番かと問われるとはたと迷ってしまう。
異論はあるかもしれないが、今回、個人的には、シオガマの仲間、ミヤマシオガマやヨツバシオガマを推したい。
若かりし頃、初夏の月山で見たミヤマシオガマのマゼンタは鮮烈だった。
その色彩は眼だけでなく心(ハート)まで射貫くほどだった。
また2021年は七月中旬、ニッコウキスゲを見に鳥海山に登っているが、肝心のニッコウキスゲは不作年だった。
代わりにヨツバシオガマが当たり年のようでいっぱい咲いていた。
ニッコウキスゲの橙黄色とのコントラストが強烈だった。
2021/07/15 鳥海山長坂道にて。
2021/07/15 鳥海山にて。ニッコウキスゲと一緒。 ヨツバシオガマのみ。
ここでシオガマの名の由来について触れておく。ご存じの方も多いと思うが、一緒におさらいしてみよう。
属の代表種、シオガマギクとは「塩竈菊」と書く。
2019/09/07 シオガマギク 岩手県東根山にて。
この名の由来は、ウィキペディアによると、
塩竈とは、世阿弥の謡曲『松風』、後の歌舞伎・日本舞踊の演目『汐汲』において、
浜で海水を沸かして製塩するかまど、塩竈があり、そこで「浜で(はまで)美しいのは塩竈」の言葉がでた。
それが「葉まで(はまで)美しいのは塩竈」と洒落て、花も葉も美しい植物、シオガマギク(塩竈菊)というとある。
いつの時代の話かわからないが、かなり強引なだじゃれだ。
塩竈とはおよそ縁遠い高原や高山に咲く花なのに、命名にあたって何故、海のものを持って来たのか、
花はともかくとして葉を見る限り、一部の種類(例えばミヤマシオガマなど)を除けば、けっして美しいとは思えない。
なおウィキペディアでは「菊」の説明は無かったが、他の方の説明で「葉を菊に見立てた。」とあった。
これも写真をご覧いただければ一目瞭然だが、かなり苦しい見立てだと思う。
一方、学名の属名 Pedicularis はどうだろう。手持ちのラテン語辞典で調べたところ、「Pediculum」とは「シラミ」の意味で、
ウィキペディアによると、シラミ駆除に用いられたことに由来するとあった。
洋の東西を問わず、この植物の名の由来は変てこだし、無理があるというのが、率直な感想だ。
と言っても、〇〇シオガマと名付けられている以上、不本意ながらも使わざるを得ない。
引き続き、各所のヨツバシオガマを列挙してみる。花だけでなく、細かく裂けた輪生葉にも着目頂きたい。
2016/07/23 月山山頂付近にて。
2019/06/26 朝日連峰オツボ峰にて。 2015/07/05 月山羽黒ルートにて。
2020/07/10 八甲田山大岳にて。
2020/07/10 八甲田山大岳にて。 2017/07/20 早池峰山にて。
2019/07/06 鳥海山月山森にて。
ところで今回は全てヨツバシオガマとしたが、最近、東北地方北部のものはエゾヨツバシオガマといって別種だと聞いた。
更にヨツバシオガマの北限は月山とも聞いたので、上の写真のうち、月山、朝日連峰のものはヨツバシオガマの可能性が高いが、
他は全てエゾヨツバシオガマということになる。
両種の違いを、改訂新版・日本の野生植物(平凡社)から抜粋してみた。
【ヨツバシオガマ Pedicuraris japonicus】
花冠の花筒は萼筒から出たところでやや曲がるか、ほとんど曲がらない。
上唇の嘴の長さは3.5-6.5mmと長い。花序の段数が2-6(-10)段と少ない。
葉は小さく、長さ2-5cmあり、裂片の切れ込みが浅い。
分布は本州中部以北、月山が北限。
【エゾヨツバシオガマ Pedicuraris chamissonis】
花冠の花筒は萼筒から出たところで明らかに曲がる。
上唇の嘴の長さは1.5-4mmと短い。花序の段数が3-20段と多い。
葉は大きく、長さ3-10cmあり、裂片の切れ込みが深い。
分布は本州中部以北、北海道、サハリン。
手持ちの古い図鑑を見ると、ハッコウダシオガマ、レブンシオガマなどの名が有った。
いずれも花序の段数が多く、全体の草丈も高い(一説では1m超とか)との記載だったが、
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)にその記載は無かった。
エゾヨツバシオガマに含めるものと勝手に解釈した。
ヨツバシオガマ類の分布だが、東北の高山では一般的なものと思っていたが、必ずしもそうではなかった。
奥羽山系では秋田駒ヶ岳が南限で、それより南、例えば和賀山塊や焼石、栗駒、蔵王、吾妻山などには無いことがわかった。
シオガマ類の分布マップ・東北版
冒頭で鮮烈なマゼンタと述べたミヤマシオガマ。2021年は月山と焼石岳で見た。
この種はヨツバシオガマと違い、花茎に葉がほとんど付かない。
根生葉がメインでニンジンのように細かく切れ込み、これこそ「葉まで美しい」のだ。
個人的には日本国内のシオガマ類では最も美しいのではないかと思っている。
この種類は日本固有種で本州中北部と北海道ではごく限られた高山にだけ産する。
↑のマップにも記してみたが、東北では月山や早池峰山、焼石岳など五ヶ所の山にしか無いようだ。
まずは2021年の月山から。
2021/06/30 月山にて。
2021/06/30 月山にて。ミヤマウスユキソウと一緒。
月山にはヨツバシオガマとミヤマシオガマの両方が生えているが、混生することは無い。
ヨツバは中腹の湿原(弥陀ヶ原など)から山頂まで広く分布し、開花時期は7月~8月と比較的長い。
ミヤマは山頂部の風衝草原に限定的で、開花は6月下旬から7月上旬と早く、期間も限られる。
次いで2017年の早池峰山から。
2017/06/29 ミヤマシオガマ単独で。
2017/06/29 ミヤマキンバイと一緒。
2017/06/29 ミヤマアズマギクと一緒。
早池峰山もミヤマシオガマとヨツバシオガマ(厳密にはエゾヨツバシオガマ)の両方が生えている。
ここではミヤマシオガマの方が優勢で、蛇紋岩の露出した南斜面に広く生育するが、
エゾヨツバシオガマは山頂部の湿ったエリアに限定的である。
焼石岳では、ヨツバシオガマ類は無いが、ミヤマシオガマは豊富だ。
ただし生育地は姥石平や東焼石岳など、風衝草原に限られる。
2017/06/17 焼石岳のミヤマシオガマ生育地。ユキワリコザクラも散在している。
2021/06/10 ミヤマシオガマ単独で。 2017/06/17 ミヤマシオガマ白花品種
2017/06/17 ハクサンイチゲと一緒。
2017/06/17 ミヤマキンバイと一緒。
2017/06/17 ユキワリコザクラと一緒。
花の美しい高山性シオガマには他にタカネシオガマとキバナシオガマがある。
ともに世界的には北半球に広く分布する種類だが、日本では分布が限られ、東北地方には無い。
前者は本州中部と北海道の一部のみ、後者は北海道の大雪山だけと言われる。
タカネシオガマ 白馬岳にて。
キバナシオガマ 大雪山にて。
どちらも若かった頃、一、二回くらいしか見ていない。
可能ならば、もう一度、見に行きたいが、コロナ禍もあり、果たせそうにない。
以上。
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