モウズイカの裏庭2

秋田在・リタイア老人の花と山歩きの記録です。

東北まで南下してきた北の娘たち/エゾツツジ、イワブクロなど。

2022年03月04日 | 高山植物

日本の高山植物の起源を探ってみると、遠い北国からやって来たものが多い。
ここで言う北国とは北極に近いエリアのことで、シベリアはもちろん、北アメリカ(アラスカなど)も含まれる。
いずれも寒冷な時代にサハリンや千島列島を伝わって北海道に入り込んでいるが、

北アメリカ組はその前に陸続きになったベーリング海峡やアリューシャン列島を渡り、
一旦、シベリアやカムチャツカ半島に入り、
シベリア組と合流し、南下したのだろうか。
ただしシベリアのものが北米に渡ることも有りうるので、この辺は何とも言えない。
いずれにしろこれら寒い国からやって来た花たちは、寒冷な時代にドンドン南下し、
日本の本州、中部地方まで辿り着いた。
が、
途中の東北地方で踏みとどまったものも幾つか有る。
その種類数は思ったよりも少なかったが、花が奇麗なものが多い。
本頁では、そういった北国からの客人で、
東北地方の山を南限とする花をピックアップしてみた。

まずはエゾツツジ。この花はとても鮮やかなのでよく目立つ。

2017/07/10 秋田駒ヶ岳にて。エゾツツジ。



改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、

『エゾツツジ属 Therorhodion はツツジ属 Rhododendron に近縁で、しばしばツツジ属として扱われるが、
長い花序があり、大きな苞が果期まで残り、大きな萼片があるなどの性質はツツジ属には見られない特徴である。
東アジア、アラスカの寒帯~亜寒帯に三種ある。
エゾツツジ Therorhodion camtschaticum は、(一部、略)北海道、本州(東北地方北部)、
千島列島、カムチャツカ半島、アラスカ、シベリアに分布する。
美しい花をつける植物であるが、北海道以外での栽培は難しい。』
とあった。
この花、東北では八幡平から岩手山、秋田駒ヶ岳、和賀山塊に分布し、
かつては早池峰山や秋田山形県境の神室山にも有ったと聞く(現在は絶滅)。
理由はよくわからないが、分布南限に近い秋田駒ヶ岳には異常なほどに多い
ここでは岩の多いエリアを中心に、ミヤマダイコンソウと一緒に特異な花風景を形成している。

2017/07/10 エゾツツジ。
 

                                   2017/07/10 エゾツツジとミヤマダイコンソウ。

2017/07/10 秋田駒ヶ岳にて。エゾツツジとミヤマダイコンソウ。




北海道大雪山では背丈がとても低く、花だけ植物のような感じ。
平らな岩礫地の上に疎らに咲いていた。

2017/07/27 大雪山にて。エゾツツジ他。



次はエゾノツガザクラ
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、
『エゾノツガザクラ Phyllodoce aleutica var. caerulea は、(一部、略)
南千島と北海道の高山と東北地方(岩木山、早池峰山、月山)に生え、北半球の寒帯に広く分布する。
アオノツガザクラと混在することが多く、しばしば両者の中間型がある。
花冠がやや小型で外面が無毛のものをコエゾツガザクラ var. yezoensis というが、
これも両者の雑種性のものかと考えられる。』とあった。
月山のものを見る限りでは、コエゾツガザクラに近いように感じる。

2016/07/16 月山にて。エゾノツガザクラ。



2016/07/16 月山にて。エゾノツガザクラ。
 

                                    2017/07/28 大雪山にて。エゾノツガザクラ。


ここで北国の使者分布マップ




チシマツガザクラは東北では八甲田山、早池峰山にあるとされるが、
私はまだ見ていない。大雪山で見たものでお茶を濁させて頂く。

2017/07/28 大雪山にて。チシマツガザクラ。



次はオオバコ科のイワブクロ
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、

『イワブクロ Pennellianthus frutescens は高山の砂礫地に生える多年草。(一部、略)
本州北部、北海道に見られ、千島列島、サハリン、カムチャツカ半島、
シベリア北部、アリューシャン列島に分布する。和名は「岩袋」の意味。
また北海道の樽前山に多いので、タルマイソウとも言う。
かつてイワブクロは、種子に翼のある特徴によってアジア東部に固有であるにもかかわらず、
同じ特徴を持つ北アメリカとメキシコに250種ほど分布するイワブクロ属 Penstemon含められていた。
形態上の違いと分子系統解析の結果、
イワブクロのみを含む独立属
イワブクロ属 Pennellianthus が設立された。
新大陸のイワブクロ属は和名が変わり、
ツリガネヤナギ属 Penstemon となった。
分子系統解析の結果、APGⅡ分類体系では
両属ともにゴマノハグサ科からオオバコ科に移された。』
とあった。東北では八甲田山、岩手山、秋田駒ヶ岳、鳥海山といずれも火山で見られ、
南限なのに鳥海山には量が多い。

2018/07/20 鳥海山にて。イワブクロの大株。バックにヨツバシオガマ。



2015/08/16 秋田駒ヶ岳にて。イワブクロ。



2020/07/10 八甲田山にて。イワブクロ。
 

                                    2017/07/28 大雪山にて。イワブクロ。


チシマフウロ Geranium erianthum は、北海道以外は
千島列島、サハリン、ロシア沿海地方からアラスカ、北アメリカ北部にかけて広く分布する。

東北では早池峰山や白神岳、焼石山塊の経塚山、鳥海山の一部で見かける。
サマニヨモギ Artemisia arctica var. sachalinensis も、北海道以外は
千島列島、サハリン、東シベリアから北アメリカ北西部にかけて広く分布する。

東北では早池峰山と八幡平の一部で見かける。花にはアブの仲間がしきりと訪れていた。
花が地味で風媒花が多いヨモギの仲間では珍しく虫媒花のようだ。

2017/08/03 早池峰山にて。チシマフウロ。左の黄色がかった花はサマニヨモギ。



2017/08/03 早池峰山にて。サマニヨモギ。
 

                                   2017/07/20 早池峰山にて。チシマフウロ。


2017/07/06 白神岳にて。チシマフウロ。
 

                                   2007/07/08 北海道中標津町の道路端にて。チシマフウロ。


トウゲブキ Ligularia hodgsonii var. hodgsonii は、

改訂新版・日本の野生植物(平凡社)によると、『北海道、本州(東北地方)に分布する。
なおサハリン、千島列島、北海道には、
総苞に暗褐色の毛があるカラフトトウゲブキ var. sachalinensis が分布する。』

とあった。
東北地方では、山形県の月山以北の高山、青森では海岸近くにも分布しているが、
南限に近い鳥海山や焼石岳に多い。
エゾツツジが南限に近い秋田駒ヶ岳に異常に多いのと何か関係があるのだろうか。
 

2021/07/31 鳥海山にて。トウゲブキ他。



2014/08/02 月山にて。南限のトウゲブキ。

 
                                     2007/07/08 摩周湖にて。トウゲブキ。



トウゲブキについては、拙頁、「キオンとトウゲブキ」も参照頂きたい。

以上。




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2 コメント

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Unknown (大屋俊英)
2022-03-04 13:45:31
毎回楽しく読ませてもらってます。
登山シーズンの白馬岳にしか登ったことがないので、見たことがない花に魅せられてます。
秋田へ来てから見た秋田駒のエゾツツジ、イワブクロ、ヒナザクラ…素敵な花が多いです。これからも登山の際はしっかりと観察、撮影したいと思います。
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大屋俊英博士へ。 (モウズイカ)
2022-03-04 14:32:55
コメントありがとうございます。
白馬岳は高山の花の種類が多く、憧れの山です。
今まで二回登りましたが、可能ならばもう二、三回行ってみたいです。
北東北の山は標高も低く、厳密な意味での高山帯も無いですが、花は多いですね。
秋田駒、早池峰、焼石の三山(プラス月山、鳥海山)に行くだけでも
ほとんどの高山植物を網羅しつつ、特異な植物も見ることができるのではないかと思っております。
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