消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(173) 道州制(15) 橋下大阪府政と関西州(15)

2009-06-09 06:57:50 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 地方自治体の借入金残高はバブル崩壊後の八年間で約二・五倍に膨らみ、〇八年度末の累積総額は一九七兆円と予想されている。これはGDPの約四〇%に当たる。

 税源移譲とは、即、道州制への布石である。今後、小さな自治体では対応しきれない巨大開発需要が出てくる。自治体の直轄事業に対して国の補助金がなくなれば、自治体の財源で巨大開発需要を賄わなければならなくなる。しかも、小さな自治体が分散したままでは、統一的な巨大事業を営むことはできない。ここに、地方の時代を謳う三位一体の現実的意味がある。それは、現状の小さな自治体の併存を前提にしたものではない。

 政府は、三二一八あった市町村数を「平成の大合併」により一七八八(〇八年四月現在)にまで縮小再編した。これは、明治の大合併(一八八九年)、昭和の大合併(一九五六年)、に続く三回目の大きな変化である(「南英世のバーチャル政治・経済学教室」、http://sakura.canvas.ne.jp/spr/h-minami/index.htm)。

 今後、道州制論議が本格化するのは必至である。

 橋下徹・大阪府知事は、財政的にはまだ余裕のある大阪府を「民間で言えば破産状態である」と言い募り、〇八年度は、単年度ではあれ、大阪府の一般会計を黒字にさせた。しかし、そのために、大阪府の労組の抵抗力を削ぐために全力を払い、いまのところ、橋下知事の目論見は成功している。この余勢をかって、橋下知事は、しゃにむに関西州への道を切り開こうとしている。

 じつは、大阪府の財政状況は、全国で二番目によいという調査結果が出ていた。〇八年八月六日に発表された社会経済生産性本部の『第三回・地方自治体バランスシートの全国比較(二〇〇五年度決算版』)がそれである(http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/mdd/activity000872/attached.pdf)。

 それによると、総合評価でトップの埼玉県に続いて、大阪府が二位にランクインされている。評価方法は、「安定性」、「自立性」、「柔軟性」、「生産性」、「資本蓄積度」、「世代間公平性」、の六つの項目で、それぞれの偏差値(五〇が標準)比較による。大阪府は、「自立性」、「柔軟性」、「生産性」、「世代間公平性」で高かった。

 「自立性」とは、①収入合計に占める依存財源の割合、②正味資産に占める補助金の割合、③財政力指数、などの項目で評価される。大阪府のこの偏差値は、六六・五で二位であった。

 「柔軟性」とは、①収入合計に対するコスト合計の割合、②経常収支比率(地方税のように経常的に収入される財源のうち、人件費などのように経常的に支出される経費に充当されたものが占める割合)、で評価される。この①の指標において、大阪府は一・〇一で一位。②において、九八・六%と三九位。この点が財政の硬直性を示していると橋下府政では重視されている。しかし、これらを加味しての大阪府の偏差値は、七〇・六で一位。

 「生産性」とは、①人口一人当たりの行政コスト、②人口一〇〇〇人当たりの職員数で評価される。大阪府は、①において、二二万四八八七円で三位、②において、九・七七で二位。総合的に六五・三で三位。

 「世代間公平性」とは、①社会資本形成の世代間負担比率(正味資産/有形固定資産)、②一般財源等増減率/収入合計、で評価する。大阪府は、①において三八位。これは、将来世代が有形固定資産の形成コストを負担することを表している。②では〇・九で二位。これは、現世代が将来世代のために行政サービス提供の能力を大きく蓄積していることを表している。併せて、六七・三で二位。

 低かったのは、「安定性」と「資本蓄積度」である。

 「安定性」は、四五・一で二七位あった。これは、①純負債/標準財政規模(財政規模に対する将来負担の割合)、②流動資産/流動負債、③起債制限比率(経常的に収入される財源のうち、公債費に充当されたものの占める割合の過去三年の平均値)、で評価する。①は三・六四で一七位。財政規模に対して将来負担が大きいことが示されている。②は二八・八で三六位でかなり悪い。これは、短期的な支払い能力が低いことを示している。③は一二・〇で一七位。大阪府はまだましであることが示されている。

 「資本蓄積度」は、三一・八で三八位であった。これは住民一人が持っている有形固定資産や、歳入総額に対する資産の割合で表す。大阪府は、社会資本蓄積がかなり低いことになる。

 社会経済生産性本部の調査は指摘する。

 「大阪府の財政規模に比した負債の規模などは相対的にそれほど大きくない。また、生産性は二年連続で三位となっており、相対的には高い。他の都道府県では将来的に大阪府以上に効率化を求められる可能性がある」。

 大阪府は、〇六年度は都道府県で唯一の赤字だったことから、橋下知事は「破産状態」と位置づけた。〇七年度決算は七億円の赤字、全国では異例の一〇年連続赤字になっていた。大阪府の借金である府債発行残高は五兆八〇〇〇億円(特別会計を含む)にのぼっていた。確かに厳しい財政事情であった。そして、大阪府はこのままでは二〇一七年にも、実質公債費比率(財政規模に占める借金返済額)が二五%を超え、財政悪化の黄信号となる「早期健全化団体」に転落するとして、橋下知事は二〇一六年までに七七七〇億円の歳出削減と歳入増に取り組む財政再建をぶちあげた。

 しかし、現在の実質公債費比率は約一七%。「財政健全化団体」の二五%までには余裕がある。「財政健全化団体」となると予想されるのは、八、九年先。そうなっても、まだ破綻認定されるわけではない。夕張市のように破綻認定となって国の管理下で再建を進めるのは、実質公債費比率が三五%以上である。破綻は、少なくとも二〇年先である。

 つまり、橋下府政は、財政危機を口実に、関西州への道筋を強引につけようとしているのである。

 関西州の是非についての議論はまったくおこなわず、ただ、それが「いいことである、大阪にはそれしかない」という意識を府民に植え付けようとしているだけである(
http://hirosec.iza.ne.jp/blog/month/200808/)。

野崎日記(172) 道州制(14) 橋下大阪府政と関西州(14) 

2009-06-08 06:42:20 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

七 第三セクターの苦難の脱却への道筋-道州制への予感

                                        
 第三セクターの財政危機が、東京都や大阪府などの巨大自治体の破綻に結びつきかねないとの恐れが、国を第三セクターの延命だけでなく、より強力な自治体を創り出すという方向に向かわせている。

 まず、第三セクター関連の「損害補償契約」の見直しの指針を政府は最近になって打ち出した。総務省が出した「第三セクター、地方公社及び公営企業の抜本的改革の推進について」がそれである(http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/saimu_chousei_20/pdf/081205_1_1.pdf

 個条的に総務省の見解を要約する。

 ①第三セクターの債務処理を容易にすべく、時限立法を講じることになった。「第三セクター等の整理(売却・清算)、または、再生を促すため、債務処理のため、とくに、必要となる経費について、時限的に地方債の特例措置等を講じるべき」。

 ②国の機関はそうした自治体の政策に関与する。「国の施策に関連して設立された第三セクター等に関しては、関係省庁はその改革に積極的に協力すべき」。

 ③第三セクターの経営責任者を明確にしておく。つまり、自治体の長による名誉的なポスト就任は許さない。「第三セクター等の経営に当たっては、独立した事業主体として自らの責任で事業が遂行されるものであり、経営者の職務権限や責任を明確にしておくべき」。

 ④「損失補償」は自粛すべき。「第三セクター等が経営破綻した時には、当初予期しなかった巨額の債務(財政負担)を負うリスクもあることから、特別な理由がある場合以外は新たな損失補償はおこなうべきではない」。

 ⑤会計基準を明確にする。つまり、第三セクターなどの経営において、恣意的な会計は許されない。「会計基準の徹底、監査の活用、情報開示の強化」。

  ⑥財政健全化との関係で公営企業も第三セクターに準じる。「公営企業についても、第三セクター等の改革に準じた取り組みをおこない、地方公共団体の財政の健全化を進めていく必要」。

 ⑦そのための時限的な地方債発行を認める。「改革推進のため、時限的に地方債の特例措置等を講じるべき」。

 ⑧公営企業会計にも国の標準に従うべき。「経営状況等をより的確に把握できるよう、公営企業会計基準の見直し、各地方公共団体における経費負担の考え方の明確化等、所要の改革をおこなうべき」。

 ⑨先送りはさせない。「地方公共団体は、健全化法の施行も踏まえ、先送りすることなく早期に改革に取り組み、将来負担の明確化を図ったうえで、その計画的な削減に取り組む必要がある」。

 ⑩国は、第三セクターに積極的に関与する。「総務省は、地方公共団体が取り組む第三セクター等の抜本的改革を促進するため、実効性のある指針を策定するとともに、必要な支援措置を講じるべき」。

 ⑪整理方法も国の基準に従い、新たな損害補償契約は交わさない。「債務調整に当たっては、法的整理や私的整理ガイドライン等一般に公表された債務処理の準則等の活用を図ることが適当。処理策において、新たな損失補償等をおこなうべきではない」。

 ⑫第三セクター整理にも地方債発行を時限的に認める。「第三セクター等の整理(売却・清算)、または、再生を促すため、債務処理のために、とくに必要となる経費について、時限的に地方債の特例措置等を講じるべき」。

 ⑬国、自治体間の責任分担を明確にすべき。「経営状況等をより的確に把握できるよう、公営企業会計基準の見直し、各地方公共団体における経費負担の考え方の明確化等、所要の改革をおこなうべき」。


 見られるように、これは、第三セクター問題の深刻化に伴い、国が第三セクターや公営企業の運営・処理において、これまで以上に関与するための指針であることが明らかである。第三セクターの整理が格段に容易になる反面、それだけ国の介入が強められることになったのである。しかも、地方財政の困難さの最中にあって、地方債の発行が第三セクター関連で認められるという項目がある。これは、地方債の発行認可を通じて、第三セクターをはじめ、自治体病院や教育機関に国が介入することを法制的に可能にするものである。

 これは、道州制をにらんだ布陣である。いずれにしても、「自治体財政健全化法」は、人件費の削減や公共サービスのアウトソーシングをいっそう加速させるものである。

 二〇〇〇年四月から施行された「地方分権一括法」(21)は、中央と地方の関係を、これまでの上下・主従関係から対等な関係へと改める方向を目指すものと通常は理解されている。しかし、それは、国の権限を地方に移譲することを実現させるという単純な内容ではない。地方自治体を、かぎりなく道州制に向かわせようとするのが、この法律である。平成の大合併はそれを示した。

 憲法第九二条には、地方自治に関する事項は「地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」となっている。しかし、実際には、地方行政の多くは国の下請け機関と化し、都道府県においては日常業務の七〇~八〇%が国の機関委任事務で占められるていた。また、人事面においても、地方自治体の幹部は自治省からの出向組に占められることが多く、そのため、地元採用の職員の士気を低下させ、地方自治を確立する妨げとなった(http://sakura.canvas.ne.jp/spr/h-minami/note-tihoujiti.htm)。

 「地方分権一括法」によって、従来の機関委任事務の半分以下にあたる四五%だけが法定受託事務に移管されることとなり、地方の負担は大幅に軽減されたと喧伝されている。しかし、実際には、財政面での国の介入はいささかも緩和されていない。岩国市の例に見られるように、補助金を通じる支配構造には何らの変化もないのである。

 地方財政を支える地方税は、住民税、固定資産税、事業税などである。 しかし、これだけだと、自治体の必要経費の三分の一程度にしかならない。そのため地方自治は三割自治と言われてきた。

 残りの七割の財源は国から得てきた。それは二つルートを通じて交付されたものである。一つは国庫支出金。これは国が地方自治体に金の使い道を指定して与えるものである。もう一つは、地方交付税。これは地方公共団体の間の格差をなくすために交付されるものである。過疎地域には多く、財政の豊かな大都市圏には少ししか交付されない。地方交付税の使い道は、地方の自由になる。

 「地方分権一括法」と「三位一体改革」(22)によって、〇七年度の地方財政の歳入総額約八三兆円のうち、地方税が四八・六%、地方交付税が一八・三%、国庫支出金が一二・二%、その他、などとなった。しかし、全部合計しても七三兆円にしかならず、不足分の一〇兆円は地方債の発行で補われている。国も借金、地方も借金という構図は変わっていない。


野崎日記(171) 道州制(13) 橋下大阪府政と関西州(13) 

2009-06-05 07:06:37 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 六 「自治体財政健全化法」の衝撃


 〇七年六月に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」が、第三セクターをはじめ、自治体病院のような公的な住民サービスを危機に追いやっている。
 
  この法律によって、地方自治体は、〇八年度の決算から、第三セクターや、自治体病院などの公営企業の赤字や借金を、自治体会計として公表させられることになった。これまでは、自治体病院や第三セクターなどの運営費は特別会計(19)に計上され、一般会計には計上されていなかった。そのために、特別会計で赤字が計上されていても、自治体の財政状態を判断する指標が一般会計であるかぎり、赤字の自治体病院なども存続できていた。自治体病院や第三セクターの赤字は顕在化せず、自治体の「隠れ赤字」とか「隠れ借金」とか非難されてはいたが、それでも、このことが自治体の一般会計を直撃することはなかった。

 しかし、これによって、自治体は真の赤字には鈍感で、第三セクターや公営事業の赤字の解消を先送りしてきたのは事実である。その結果、夕張市のように、事実上の破綻に追い込まれるまでは、自治体の財政危機の実情は外部には知らされなかった。

 新法は、こうした隠れ赤字や借金を浮き彫りにし、手遅れになる前に財政再建に向けた取り組みを自治体に促すべく、一九五五年に制定された「地方財政再建促進特別措置法」(再建法)に代えて、じつに五二年ぶりに新たに制定された法律である(伯野卓彦[2009]、二四~二五ページ)。

 再度説明する。新法では、連結しない会計と連結した会計とを対比させている。つまり、実質赤字比率と借金比率の二つの項目を、連結しない場合と連結した場合に区分する。そのうえで、「財政健全化団体」に指定されるか、それよりも厳しい「財政再生団体」に組み入れられる(20)。

 「財政健全化団体」に指定されると、自治体は、健全化の具体的計画を総務大臣に報告しなければならなくなる。そして、目標達成が困難であると判断されたときには、総務大臣から改善の具体的な勧告を受けることになる。「財政再生団体」に指定されると 予算の変更、財政再生計画の変更等の措置を講ずることを総務大臣から勧告されることになる(http://72.14.235.132/search?q=cache:WTBHQ4Ge6ioJ:www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/exm/pdf/080604_1_3.pdf)。

 以下、四つの指標を説明する。

 ①「実質赤字比率」は、第三セクターや自治体病院の会計と連結しないもので、一般会計内の赤字比率である。自治体の標準財政規模によって、一一・二五%から一五%以上で、「財政健全化団体」入りとなる。二〇%以上で「財政再生団体」入りとなる。

 ②連結したものは連結「実質赤字比率」で自治体会計に計上される。この赤字比率によって、「財政再生団体」入りとなるが、その基準は年を経るごとに厳しくなる。〇八年度と〇九年度では、四〇%以上。二〇一〇年度では三五%以上。二〇一一年度では三〇%以上となる。

 ③借金の比率も連結しな場合は「実質公債費比率」である。これまでは、①と③だけで財政状態がチェックされていた。今後、③だけでも、二五%以上になれば「財政健全化団体」入りとなり、三五%以上で「財政再生団体」入りとなる。

 ④公営企業の借金をも連結させたものが「将来負担比率」である。三五〇%以上で「財政健全化団体」入りとなる。

 しかし、分母になる標準財政規模が、地方交付税の多寡で大きく左右される点に難点がある。地方交付税は総務省が所管しているために、地方分権の流れに逆行し、ますます国の関与が強まるという問題点がある。地方交付税が減額されると標準財政規模が小さくなり、赤字の規模が変わらなくても実質赤字比率などの数字は上昇することになる。

 国の胸三寸で、恣意的に自治体を「財政健全化団体」や「財政再生団体」に陥れることもできる。在日米軍再編に伴う岩国基地への空母艦載機部隊移転問題で、反対を貫いていた当時の井原勝介・岩国市長のときには、政府は、市庁舎建設補助金三五億円をカットするなど、不当な圧力が井原市長には加えられた。

 伯野卓彦の上記著作では、「こんな法律が、絶対にそのまま施行できるはずがない。そんなことになったら、日本の地方自治は崩壊してしまう」と吐き捨てるように言った地方自治体職員を紹介している(伯野[2009]、二八ページ)。

 総務省が発表した調査結果(〇七年九月時点)によれば(http://blogs.yahoo.co.jp/hatahata8/53407101.html、および、伯野[2009]、三三~三四ページ)、「五億円以上の債務超過に陥っていることが判明した第三セクターと公社(自治体が一〇〇%出資)」の数は全国で九七社あった。大阪府関係では一〇社あり、一一三五億円もの債務超過である。件数は、東京都よりも大きい。

 各自治体の当該会社の債務超過額合計は以下の通りである。北海道(八〇億五〇〇〇万円)、青森県(八九億円)、岩手県(六億四〇〇〇万円)、山形県(二一億五〇〇〇万円)、茨城県(六二九億五〇〇〇万円)、群馬県(二一八億円)、千葉県(七三五億円)、東京都(一四六六億円)、神奈川県(四二億七〇〇〇万円)、新潟県(二八億円)、富山県(六億五〇〇〇万円)、石川県(三一億円)、山梨県(一四五億七〇〇〇万円)、長野県(一八億円)、静岡県(二七億円)、愛知県(二四一億円)、三重県(一〇億円)、滋賀県(三三億円)、京都府(八億円)、大阪府(一一三五億円)、兵庫県(三七七億円)、奈良県(三七億円)、和歌山県(二九五億円)、島根県(一一二億円)、岡山県(七億円)、広島県(六六億円)、山口県(六億三〇〇〇万円)、愛媛県(七億四〇〇〇万円)、高知県(二〇億円)、福岡県(五億円)、長崎県(一五億円)、大分県(二七億円)、宮崎県(八億円)、鹿児島県(二一億円)、沖縄県(二四億円)。全国合計(六九九九億五〇〇〇万円)。

 東京都だけで全国の二一%、大阪府は一六%、東京都と大阪府を合わせると、じつに全国の三七%も占めている。さらに、全国の地域・土地開発事業の債務超過比率は、五二八三億七〇〇〇万円と全国の総債務超過のじつに七五%を占める。つまり、青森件大鰐町の典型的なリゾート開発事業の処理はほぼ終了し、いまや、大規模土地・都市再開発事業の処理に照準が移ってきていることをこの数値は示している。

 事態は、「進むも地獄、退くも地獄」(伯野[2009]、三二ページ)の様相を呈しているのである。


野崎日記(170) 道州制(12) 橋下大阪府政と関西州(12) 

2009-06-04 07:08:58 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 「会社更生」とは、「新会社更生法」に基づく会社の再生を指す。一九五二年に制定された「会社更生法」が全面改正され、〇三年四月一日に施行された。この法律は、苦境にあるが、再建の見込みのある株式会社について、債権者・株主その他の関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図ることを目的としている。ただし、この法律は、株式会社のみに適用される。

 この新しい更正法は、これまでよりも、手続の迅速化や合理化により大企業の利用を促すねらいがある。「新会社更正法」は、それまでは、更生を開始させる条件に、「再建の見込みがある」との裁判所の判断が必要であったが、この条件が外された。

 そして、従来は、二年以上かかることも多かった更生計画案の提出期限を、一年以内に義務づけ、更生計画案の可決条件も債権総額の三分の二以上の同意から、二分の一以上の同意に緩和した。また、いままでは、申し立ては本店所在地に限られていたが、東京・大阪両地裁でもできるようになった。

 このほか、資産劣化防止のため、更生計画認可前でも、一部の事業部門を営業譲渡できるようになった。また、経営責任がない経営者を管財人に選任できるようになった。従来は、裁判所から選任された管財人が更生手続に当たり、経営破綻に直接責任のない経営者もすべて退任しなくてはならなかったが、「新会社更正法」では旧経営陣の一部は残ることができる。「民事再生法」では、手続に参加できるのは一般債権者に限定されているのに対し、「新会社更生法」では、担保権者や優先債権者や株主も含み、「民事再生法」よりも多人数を含む枠組みで再建を進めることができるようになった(http://www.itsnkeiei.com/kaisyakousei2.html)。

 「特別清算」とは、「すでに解散してしまった」株式会社に、債務超過の疑いがある場合などに、適正な清算を図るべく、裁判所の監督下でおこなわれる清算手続のことである。「特別清算」の大前提として、株式会社であること、すでに解散していることが必要になる。

 「民事再生」とは、資産を維持したまま、大幅に減額された借金を(減額の程度は、借金の額と保有している資産によって異なる)、原則として三年間で分割して返済していくという手続である。「民事再生」では、自己破産のように、借金全額の返済義務がなくなるわけではないが、「自己破産」のように、高価な資産を処分しなくてもよい。「民事再生」は、借金額が大きくて全額返済が困難だが、処分されたくない高価な資産を所有している場合に有効な手続である。

 一九九五~〇六年で法的整理された一三四の第三セクターは、立地からすれば、北海道がもっとも多くて一九件であった。そして、大阪府がこれに次ぎ、一〇件あった。あと、新潟県の九件、東京都の八件が続く。

 事業分野別では、観光・レジャー(五七件)や地域・都市開発(三一件)に集約される(帝国データバンク『第三セクター経営実態調査(第一五回)』二〇〇一年七月一三日付、
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p010713.html)。大阪府が全国第二位であったのも、地域・都市開発に関連した第三セクターの法的整理件数が多かったためである。

 法的整理形態で見ると、一九九五~九九年度にかけて実施されたものすべては、「破産」または「特別清算」であった。ところが、二〇〇〇年度以降は、「民事再生」と「会社更生」に「特定調停」を加えた法的再生が全体の約五五%を占めるようになった。つまり、破産させるよりも再生させる方に整理形態が傾いたのである。

 相次いで施行された再生を促す法律を列挙する。「民事再生法」(一九九九年法律第二二五号)、「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(一九九九年法律第一五八号、いわゆる 「特定調停法」)、「新会社更生法」(一九五二年法律第一七二号)の改正(二〇〇二年)等々である(深澤[2008]、三八ページ)。

 こうした動きは、自治体が第三セクターに関与する度合いを強くしたことの現れであろう。第三セクターへの自治体の出資比率の高まりや、自治体による損失補償の実施といった要因が、自治体の窮状を深め、政府が自治体の財政難を少しでも緩和すべく、相次いで、第三セクターの破綻を避けさせる法律を成立させたのである(17)。

 実際、自治体による第三セクター向けの貸出残高が大きいほど、貸倒れが顕在化することを懸念して、第三セクターの破綻処理は先送りされてきた。「損失補償契約」を結んでいればなおさらである。「損失補償契約」額が大きいほど、破綻処理を先送りして契約の履行を避けようとする傾向が顕著になった。

 典型例が青森県大鰐町の「大鰐地域総合開発株式会社」である。この第三セクターへの大鰐町の出資比率は九六%であった。同町は、自己の一般会計の規模からすれば過大な「損失補償契約」を結んでいた。同社が破綻して契約の履行を求められると、町の「財政再建団体」への転落が避けられなくなることから、同町は、同社の存続を図ってきたのである(「爆発寸前!!三セク・三公社、最終処理の恐怖」『週刊ダイヤモンド』第九五巻第四八号、二〇〇七年一二月一五日)(18)。

野崎日記(169) 道州制(11) 橋下大阪府政と関西州(11) 

2009-06-03 07:03:10 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)



     五 第三セクター整理の促進


 破綻させることが不可能な第三セクターの処理を先送りできない状況に自治体を追い込んだのが、〇七年六月に成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(二〇〇七年法律第四四号、以下「自治体財政健全化法」という)である。この「自治体財政健全化法」は、〇八年度の自治体決算へと適用されることになった。この法律は、地方公営企業、地方三公社、第三セクター財政状態をも連結ベースで計上した自治体財政を問題にし、自治体に対して、健全化や再建に向けた手立てを早期に講じさせるという内容である。

 健全性の判定基準として、「実質赤字比率」、「連結実質赤字比率」、「実質公債費比率」、「将来負担比率」という四つの指標が用いられることになった。たとえば、「将来負担比率」は、これまでのように、自治体本体の債務である地方債等の残高だけを問題にするのではなく、自治体が出資している第三セクターによって、自治体が将来被る負債をも反映する指数を明確にさせることに力点がある。このために、全国の自治体は、これまで表面に出さずにすんでいた第三セクターの財務状況をも公にせざるを得なくなったのである(前澤[2007])。

 第三セクターの深刻な財政状態を表面化させ、それを自治体の財政の健全性判断の重要な指標とするという新法の制定は、第三セクターへの融資にさいして、かなり広範に適用されていた「損害補償」契約の違法性をめぐる訴訟を噴出させた。

 〇六年一一月一五日、横浜地方裁判所が、「損失補償」契約を違法とする判決を出した。つまり、自治体が契約によって、第三セクターの負債の一括返済をする必要はないとしたのである。

 これとは逆に、〇七年二月一九日の福岡高等裁判所の判決では、「損失補償」契約の締結そのものを違法とすることはできないとされた。

 こうした相反する判決が出されたために、〇七年一〇月、総務省の「債務調整等に関する調査研究会」が、自治体による損失補償の手続きを厳格化し、安易な契約に歯止めを掛けることを求める中間報告をとりまとめた(後述)。

 第三セクターの経営は、全国的規模で、急速に深刻さを増している。総務省の調査によると、〇六年度末の時点で、全国の第三セクター、六五二四法人のうち約三〇%(二一七二法人)の経常収支が赤字となっており、債務超過の第三セクターの数も三七五法人にのぼっている(総務省「第三セクター等の状況に関する調査結果」(二〇〇八年一二月二七日、http:// www. soumu. go.jp/ s-news/ 2007/ pdf/071227_2_00.pdf)。

 しかし、経営不振に陥った第三セクターの債務免除を伴う破綻処理は、非常に困難である。経営状況が悪化した第三セクターをそのままの形で存続させることは、そこに出資している自治体にとって、補助金の支給に加え、追い貸しや追加出資など、一定の政策支援が欠かせない。しかも、第三セクターの破綻時に自治体が契約した「損失補償」によって、金融機関等に対して支払わねばならない金額が、破綻処理を先送りすることで膨らむ。とはいえ、破綻処理したときの「損失補償」が大きすぎて、自治体の支払い能力のおよぶところではない。

 そうした状況を反映して、現実には、近年において破綻処理の対象となった第三セクターで、現実に法的整理が実行された件数は、多い年でも年間三〇件を下回っている。この数は、経営不振に陥っている第三セクターの数と比べれば、非常に少ない数値である(深澤[2008]、三三ページ)。

 日本では、一九八〇年代後半から一九九〇年代前半にかけて、観光・レジャー、地域・都市開発等の事業分野を中心に、第三セクターの設立が相次いだ。ところが、瞬時にして、第三セクターの法的整理が大きな課題となってしまった。一九九〇年代後半のことである。しかし、法的整理になった第三セクターの数はあまりにも少ない。

 総務省『第三セクター等の状況に関する調査』各年版などによると、一九九五年度から〇六年度までの間に法的整理の対象となった第三セクター等(地方三公社を含む)は、累計で一三四法人に止まった。一九九〇年代半ばの時点では、全国に約九三〇〇の第三セクター等が存在していた(地域政策研究会[1997])。つまり、法的整理の対象となった第三セクターなどは、全体の一%強にすぎなかった。

 それでも、第三セクターの法的整理は漸増傾向をたどってきた。とくに、〇三年は二六件と過去最高になった。この年、総務省が、全国の自治体に向けて、「第三セクターに関する指針」の改訂版を出した(〇三年一二月一二日、http:// www. soumu. go.jp/s-news/2003/031212.html)。これは、第三セクターの法的清算を強く要請したものである。

 この新たな指針によって法的に整理されることになった、大阪府と大阪市の第三セクターは、以下の通りである。〇三年六月、大阪市の三つの第三セクターの「大阪WTCビルディング」、「ATC」、「湊町開発センター」。いずれも特定調停(既述)の整理であった。翌〇四年一〇月には、同じく大阪市の「大阪シティドーム」、一一月には「クリスタ長堀」がこれも特定調停の対象となった。〇五年五月には、すでに説明したが、大阪府の「りんくうゲートタワービル」が会社更生法の対象になった。同年九月、和泉市の「いずみコスモポリス」が特別清算された。〇六年一月、大阪市の「大阪中小企業輸入振興」が民事再生の対象となった。整理されたこれら第三関田ーはすべて株式会社形態であった。

 以上、〇三年の指針が第三セクターの整理に拍車をかけたのであるが、整理方法には、「特定調停」、「特別清算」、「会社更生」、「民事再生」といった異なる手続きがある。

 「特定調停」とは、すでに説明したが、日本の民事調停手続の一種であり、特定債務者の経済的再生に資するためになされる、特定債務者、および、その債権者その他の利害関係人の間における利害関係の調整に係る民事調停であって、当該調停の申し立てのさいに、特定調停手続により調停をおこなうことを求める旨の申述(特定調停法三条一項)があったものをいう(同法二条三項)(16)。

 要するに、「特定調停」とは、借金の返済が滞りつつある借主について、裁判所が、借主と貸主その他の利害関係人(保証人など)との話し合いを仲介し、返済条件の軽減等の合意が成立するように働きかけ、借主の経済的立ち直りを支援する手続である。このような性質を持つために、「特定調停」は、民事調停の一種ではあるが、倒産処理手続の中の再建型手続に属する。実際にも、多額の借金を抱える者が、破産せずに返済の負担を軽減できる制度として広く利用され、その申し立ては二〇〇〇年の特定調停法施行後、急激に増加し続けた。大阪市の第三セクターの整理は、この方法に依存した代表的なものである。ただし、最近では、この申し立て件数は減少に転じつつある。


野崎日記(168) 道州制(10) 橋下大阪府政と関西州(10)

2009-06-02 07:00:37 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


(14) 一九九八年一〇月に経営破綻し、日本政府により一時国有化された「日本長期信用銀行」は、二〇〇〇年三月、「中央三井信託銀行グループ」などとの競争入札の末に、米国の企業再生ファンド、「リップルウッド」や外国銀行らから成る投資組合「ニューLTCBパートナーズ」(New LTCB Partners CV)に売却され、同年六月に「新生銀行」に改称した(ウィキペディアより)。

 「日本長期信用銀行」の経営破綻を救済するために投じられた日本の公的資金は、約八兆円もの巨額であった。この銀行を、「リップルウッド」は、自己資本一〇億円と、投資家から集めた一二〇〇億円を合わせた、わずか一二一〇億円で買収した。さらに、「日本長期信用銀行」が破綻してから約五年四か月後の〇四年二月一九日、「新生銀行」は「東京証券取引所」に上場、売り出し価格五二五円の株価は八二七円で取引を終え、「リップルウッド」を含めたオランダ籍の「ニューLTCBパートナーズ」は、二二〇〇~二五〇〇億円もの上場益を得た。そして、〇五年七月二〇日、二次売却で再度、約二九〇〇億円という巨額を手にした。しかも、日本とオランダが結んだ条約により、オランダに設立した投資ファンドには課税できない。「リップルウッド」は他の金融機関などと共に持ち株会社、「ニューLTCBパートナーズ」を通じて「新生銀行」を子会社にしたが、出資する金融機関は、「メリルリンチ」、「モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター」、「ペイン・ウエバー」、「GEキャピタル」、「シティートラベラーズグループ」、「メロンバンク」、「ABNアムロ」、「ドイツ銀行」、「ロスチャイルド銀行」などであった(http://blog.livedoor.jp/manasan1/archives/50068574.html)。同社は、まさに、ハゲタカ・ファンドの代表格であった。

 また、「ケネディクス」の前身は、一九九五(平成七年)年四月、「ケネディ・ウィルソン・インク」の日本における不動産事業 (不動産投資アドバイザリー事業) 、「ケネディ・ウィルソン・ジャパン」である。同社は、米国機関投資家の債権投資を支援する業務を担っていた。一九九九年一月、オフィスビル投資ファンドを主に米国顧客投資家の出資により設定、同年二月、法務大臣から債権管理回収業の許可を取得し、本格的に債権投資を開始した。〇五年五月、「ケネディ・ウィルソン・ジャパン」から「ケネディクス」に商号変更し、同年五月、国内初の物流施設特化型「Jリート」(J-REIT)である「日本ロジスティックスファンド投資法人」として、東京証券取引所に上場した(http://www.kenedix.com/jp/about/about_out.html)。

 見られるように、日本の公的資金を投入した資産が、米国のハゲタカ・ファンドの格好の餌食にされたのである。

(15) 『前川レポート』の正式名は、『国際協調のための経済構造調整研究会報告書』 (経構研報告)である。一九九六年四月七日に「国際協調のための経済構造調整研究会」によって、当時の首相、中曽根康弘に提出されたものである。前川春雄、大来佐武郎、田淵節也、赤沢璋一、大山昊人、長岡實、石原俊、加藤寛、細見卓、磯田一郎、香西泰、宮崎勇、宇佐美忠信、小山五郎、向坊隆、大河原良雄、澤邊守という一七人の連名になるものであった。

 まず、一九八五年の経常収支黒字額がGDPの三・六%と史上最高値を示したことへの危惧が表明され、事態改善のために、国民生活のあり方を歴史的に転換させるべきであると主張された。①外需依存から内需主導型の活力ある経済成長への転換を図るため、大都市圏を中心に、既成市街地の再開発による職住近接の居住スペースの創出や新住宅都市の建設を促進する。②民間活力の活用を中心に事業規模の拡大を図る。そのためには、規制緩和の推進、呼び水効果としての財政上のインセンティブが必要である。③労働時間の短縮により自由時間の増加を図るとともに有給休暇の集中的活用を促進する。④内需拡大の効果を全国的に広げるために、地方債の活用等により地方単独事業を拡大し、社会資本の整備を促進する。⑤石炭鉱業については、現在の国内生産水準を大幅に縮減する方向で基本的見直しをおこない、これに伴い海外炭の輸入拡大を図るべきである。⑥金融政策の運営に当たっては内外通貨価値の安定を確保しつつ、内需主導型経済の実現に向け、機動的に運営することが必要である。
 本文入手については、http://www.komazawa-u.ac.jp/~kobamasa/lecture/japaneco/maekawarep.htm

 とくに、最後の文言が重要である。以後、金融の超緩和状態が継続され、日本バブル経済の全面化が進行したからである。


 引用文献


大石卓樹ほか[1999]、「検証、テクノポリス・頭脳立地」、『日経地域情報』三一二号、二
     月一日号。
菅野由一・前島雅彦[2007]、「都道府県・政令市の企業誘致調査」、『日経グローカル』八
     八号、一一月一九日号。
廣瀬信己[2008]、「企業立地と地域経済の活性化-大阪府、福岡県の取組みを中心に-」、
     『レファレンス』六九一号、八月号。
山崎朗[1992]、『ネットワーク型配置と分散政策』大明堂。


野崎日記(167) 道州制(9) 橋下大阪府政と関西州(9)

2009-06-01 07:04:02 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 赤字に陥った第三セクターを破産させればいいではないかと、一般的には思われている。しかし、そうではない。第三セクターを破産させられない事情がある。

 
第三セクターを設立するときに、多くの自治体は、金融機関から融資を受けている。融資を受けやすくするために、自治体は、第三セクターに保証を与えようにも、自治体には保証行為は許されていない。したがって、保証の代わりに「損失補償」を金融機関は自治体に要求する。

  これは、融資返済の義務を負う第三セクターが破産した場合、融資額全額を、しかも、一括して返済するという確約を自治体が負うということである。多額の融資を受けて営業を開始した第三セクターが行き詰まっても、自治体はそれを解散させることができない。巨額の借金を一括返済しなければならないからである。いきおい、補助金を第三セクターに注ぎ込みながら、延命させるという手段を自治体は採用する誘惑に駆られる。こうして、第三セクターが自治体の命取りになりかねないのである。

 抽象的に言えば、「損失補償」とは、財政援助の一種として、特定の者が金融機関等から融資を受ける場合に、将来、その融資の全部又は一部が返済不能となって当該金融機関等が損失を被ったときに、地方公共団体等が、債務者に代わって、当該金融機関等に対してその損失を補償することをいう。通常、契約書が取り交わされる。

 民間企業では、子会社等が借り入れをする場合に「債務保証」を付すことが多い。しかし、政府や地方公共団体においては、会社その他の法人の債務について、総務大臣の指定する会社その他の法人でない限り、保証契約を付すことはできない(「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」(財政援助制限法)第三条)。


 地方公共団体が、その関係する法人などの債務に対して債務保証を付けることを許していると、法人の事業の状態によっては何時発生するか分からない不確実な債務が増加し、当該団体の財政基盤を危うくしかねない。そのために、自治体による「債務保証」は禁じられている。

 しかし、民間の金融機関は、「債務保証」に代わるものとして、自治体に「損害補償」契約を求める場合がかなりある。第三セクターに関してもそうである。金融機関にとっては、第三セクター等に対して、まったくの担保がない状態では融資しづらい。しかし、自治体の「損失補償」があれば、「保証」に替わるものとして取り扱えるという利点がある。一般的に第三セクターは自社名義での不動産等の有形固定資産を有しないことが多く、金融機関にとって担保となるものがまずないことも、「損害補償」が要求される要因である。

 ただし、いわゆる地方三公社(「土地開発公社」、「住宅供給公社」、「地方道路公社」).のうち、「土地開発公社」と「地方道路公社」については、それぞれ法律で、自治体が債務保証をおこなうことは認められており、これら二つの公社への融資に当たっては「債務保証」も可能である。

 「債務保証」は、主たる債務が履行遅滞になると直ちに「従たる債務」として履行義務が発生する。これに対し、「損失補償」は「損失」が生じて初めて補償すべきものであり、単にある債権が弁済を受ける時期が到来したのに弁済がなされないということのみをもってしては、「損失」が発生したとみなされない。具体的には、債務者が倒産あるいは、そうした事態に至っていなくとも、客観的に当該債権の回収の見込がほとんどなくなった場合に初めて「損失」となったと認識され、その時点で債務となる。

 しかし、逆に言えば、第三セクターを破綻させたとたんに、自治体は損失補償契約を履行しなければならないために、金食い虫の第三セクターをつぶすにつぶせない。これが、近年見られる一般的傾向なのである。まさに、第三セクターが自治体を破滅に追い込んでいる。


 


(12) 大阪市は、〇八年夏季五輪の大阪開催を目指していたが、〇一年七月の「国際オリンピック委員会」 (IOC) 総会での投票により、中国の北京に決定し、開催は実現しなかった。メイン会場は大阪市北港(此花区)(このはなく)にある人工島・舞洲に置き、ここにある総合スポーツ公園「舞洲スポーツアイランド」にメインスタジアムやサッカー場、体育館(「舞洲アリーナ」)など主要な競技施設を集約し、また「インテックス大阪」や「長居スタジアム」など市内各地の既存スポーツ施設でも開催することを目指した。開会式は天神祭の開催に合わせて七月下旬に実施することも計画されていた。しかし、大阪市の財政が危機的状況にあったこと、環境破壊や会場アクセスなどの諸問題などから、市民の中には五輪招致に反対する動きが強くなっていた。また、〇一年五月、現地を視察審査した国際オリンピック委員会が、評価調査書でこれらの諸問題から「大阪での五輪開催は困難ではないか」という事実上の落選確定とも取れる推薦辞退を促そうとしたこともあった。同年七月におこなわれた「IOCモスクワ総会」で、一回目の投票で落選(六票)し、〇八年開催地は中国の北京(北京五輪)に決定した。舞洲に造られた下水処理場とゴミ処理場は、オリンピック開催を前提として莫大な建設費を投じて豪華な外観に造られた。また、招致活動にも約五三億円を費やしたため、危機的状況にある市の財政をさらに圧迫することとなる。〇九年には「財政再建団体」(後述)に転落するのではないかと危惧されている(ウィキペディアより)。

(13) 大阪南港の「新都心計画」にせよ、「テクノポート大阪計画」にせよ、強引な開発事業に乗り出したあげく失敗した責めを大阪市だけに負わせることはできない。国は、戦後復興期には海上輸送事業に重点を置いてきた。一九六〇年の「太平洋ベルト地帯構想」、一九六二年の「新産業都市建設促進法」などが打ち出された。しかし、その結果、四大工業地帯の臨海部に産業や人口を密集させてしまった。そうしたことを是正すべく、産業の地方分散化を進めるために策定されたのが、一九七二年の「工業再配置促進法」である。工場を地域に分散させるべく、固定資産税の減免、工場移転に合わせた補助金の交付、各種助成措置を政府は講じた。しかし、産業は、都市中心部から都市近郊に移っただけのことであった(山崎[1992]、九三~一〇六ページ)。同法は、役割を終えたとして〇六年に廃止された。

 その後に策定されたのが、一九八三年の「高度技術工業集積地域開発促進法」(通称、「テクノポリス法」)である。先端技術産業を核とした、産・学・住・遊が調和する自立した地域経済建設がスローガンになった。この法によって、一九八三年から八九年までに全国で二六地域が指定を受けた。指定を受けると、「産業再配置促進費補助金」の交付と「テクノポリス特別償却制度」による税制の優遇措置が自治体に与えられる。ところが、その多くが失敗に帰した。画一的でありすぎたのである(大石卓樹ほか[1999])。結局、この法律は自治体に膨大な借金を押しつけた後に、一九九八年に廃止された。

 補助金による産業団地建設は、新しいソフト産業に重点を移した「地域産業の高度化に寄与する特定事業の集積の促進に関する法律」(通称、「頭脳立地法」、一九八八年)に引き継がれた。

 「総合リース業」、「デザイン業」、「経営コンサルタント業」、「自然科学研究所」など、一六業種を特定した産業団地建設が目指された。これまでと同じように、助成措置、特別償却、債務保証など、政府は手厚い優遇措置を自治体に提供したのである。しかし、これも失敗した。これらソフト産業が都市の中心部から離れようとしなかったからである。「テクノポリス法」と同じく、一九九六年に廃止された。二つの旧法は、同年、「新事業創出促進法」に統合された。これもまた〇五年に廃止され、〇九年、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」に統合された。

 〇一年に「産業クラスター計画」が策定され、大学の新産業地への移転が呼びかけられた。〇七年三月末で約二九〇校の大学が全国一八のプロジェクトに参加している。このプロジェクトもまた、「広域的新事業支援ネットワーク等補助金」の助成がある。クラスター計画は、開始時期の第一期が〇一~〇五年、成長期の第二期が〇六~二〇一〇年、自律的発展期の第三期が二〇一一~二〇二〇年である(経済産業省「産業クラスター計画」、http://www.cluster.gr.jp/plan/index.html)。

 そして、〇七年、「企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律」(「企業立地促進法」)が実施された。〇七年七月、一〇件・一二基本計画が認定され、〇八年三月に四二都道府県で一〇八の基本計画が国の認定を受けた。これもまた、立地内にある企業への設備投資に対する減税措置、研究開発や人材育成に対する助成措置が設けられている。こうした戦後の国の産業立地措置の時系列については、廣瀬[2008]が詳しい。

 以上、見られるように、国は、次々と新しい産業立地に関する法律を作って、補助金を餌に産業立地を自治体に建設させてきた。しかし、そのことごとくが失敗し、自治体には借金のみが残ったのである。にもかかわらず、国は道州制を地方に押しつけて、さらに強力な指導を自治体に対して発揮しようとしている。橋下知事が傾斜する関西州は、国の事業を誘致するという従来の自治体の失敗をそのまま踏襲しようとしただけのものである。ちなみに、〇七年九月末時点での、都道府県・政令市への企業誘致補助金・助成金上限額は、大阪府が全国でダントツに一位であった。大阪府が一五〇億円(〇六年では三〇億円)、二位の和歌山県は一〇〇億円、京都府は二七位の二〇億円、愛知県は三六位の一〇億円である。大阪市は一七位の三〇億円である。この数値は、大阪府を盟主とする関西州への布石が国主導下で推進させられていることを示すものである。データは、菅野・前島[2007]。