地方自治体の借入金残高はバブル崩壊後の八年間で約二・五倍に膨らみ、〇八年度末の累積総額は一九七兆円と予想されている。これはGDPの約四〇%に当たる。
税源移譲とは、即、道州制への布石である。今後、小さな自治体では対応しきれない巨大開発需要が出てくる。自治体の直轄事業に対して国の補助金がなくなれば、自治体の財源で巨大開発需要を賄わなければならなくなる。しかも、小さな自治体が分散したままでは、統一的な巨大事業を営むことはできない。ここに、地方の時代を謳う三位一体の現実的意味がある。それは、現状の小さな自治体の併存を前提にしたものではない。
政府は、三二一八あった市町村数を「平成の大合併」により一七八八(〇八年四月現在)にまで縮小再編した。これは、明治の大合併(一八八九年)、昭和の大合併(一九五六年)、に続く三回目の大きな変化である(「南英世のバーチャル政治・経済学教室」、http://sakura.canvas.ne.jp/spr/h-minami/index.htm)。
今後、道州制論議が本格化するのは必至である。
橋下徹・大阪府知事は、財政的にはまだ余裕のある大阪府を「民間で言えば破産状態である」と言い募り、〇八年度は、単年度ではあれ、大阪府の一般会計を黒字にさせた。しかし、そのために、大阪府の労組の抵抗力を削ぐために全力を払い、いまのところ、橋下知事の目論見は成功している。この余勢をかって、橋下知事は、しゃにむに関西州への道を切り開こうとしている。
じつは、大阪府の財政状況は、全国で二番目によいという調査結果が出ていた。〇八年八月六日に発表された社会経済生産性本部の『第三回・地方自治体バランスシートの全国比較(二〇〇五年度決算版』)がそれである(http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/mdd/activity000872/attached.pdf)。
それによると、総合評価でトップの埼玉県に続いて、大阪府が二位にランクインされている。評価方法は、「安定性」、「自立性」、「柔軟性」、「生産性」、「資本蓄積度」、「世代間公平性」、の六つの項目で、それぞれの偏差値(五〇が標準)比較による。大阪府は、「自立性」、「柔軟性」、「生産性」、「世代間公平性」で高かった。
「自立性」とは、①収入合計に占める依存財源の割合、②正味資産に占める補助金の割合、③財政力指数、などの項目で評価される。大阪府のこの偏差値は、六六・五で二位であった。
「柔軟性」とは、①収入合計に対するコスト合計の割合、②経常収支比率(地方税のように経常的に収入される財源のうち、人件費などのように経常的に支出される経費に充当されたものが占める割合)、で評価される。この①の指標において、大阪府は一・〇一で一位。②において、九八・六%と三九位。この点が財政の硬直性を示していると橋下府政では重視されている。しかし、これらを加味しての大阪府の偏差値は、七〇・六で一位。
「生産性」とは、①人口一人当たりの行政コスト、②人口一〇〇〇人当たりの職員数で評価される。大阪府は、①において、二二万四八八七円で三位、②において、九・七七で二位。総合的に六五・三で三位。
「世代間公平性」とは、①社会資本形成の世代間負担比率(正味資産/有形固定資産)、②一般財源等増減率/収入合計、で評価する。大阪府は、①において三八位。これは、将来世代が有形固定資産の形成コストを負担することを表している。②では〇・九で二位。これは、現世代が将来世代のために行政サービス提供の能力を大きく蓄積していることを表している。併せて、六七・三で二位。
低かったのは、「安定性」と「資本蓄積度」である。
「安定性」は、四五・一で二七位あった。これは、①純負債/標準財政規模(財政規模に対する将来負担の割合)、②流動資産/流動負債、③起債制限比率(経常的に収入される財源のうち、公債費に充当されたものの占める割合の過去三年の平均値)、で評価する。①は三・六四で一七位。財政規模に対して将来負担が大きいことが示されている。②は二八・八で三六位でかなり悪い。これは、短期的な支払い能力が低いことを示している。③は一二・〇で一七位。大阪府はまだましであることが示されている。
「資本蓄積度」は、三一・八で三八位であった。これは住民一人が持っている有形固定資産や、歳入総額に対する資産の割合で表す。大阪府は、社会資本蓄積がかなり低いことになる。
社会経済生産性本部の調査は指摘する。
「大阪府の財政規模に比した負債の規模などは相対的にそれほど大きくない。また、生産性は二年連続で三位となっており、相対的には高い。他の都道府県では将来的に大阪府以上に効率化を求められる可能性がある」。
大阪府は、〇六年度は都道府県で唯一の赤字だったことから、橋下知事は「破産状態」と位置づけた。〇七年度決算は七億円の赤字、全国では異例の一〇年連続赤字になっていた。大阪府の借金である府債発行残高は五兆八〇〇〇億円(特別会計を含む)にのぼっていた。確かに厳しい財政事情であった。そして、大阪府はこのままでは二〇一七年にも、実質公債費比率(財政規模に占める借金返済額)が二五%を超え、財政悪化の黄信号となる「早期健全化団体」に転落するとして、橋下知事は二〇一六年までに七七七〇億円の歳出削減と歳入増に取り組む財政再建をぶちあげた。
しかし、現在の実質公債費比率は約一七%。「財政健全化団体」の二五%までには余裕がある。「財政健全化団体」となると予想されるのは、八、九年先。そうなっても、まだ破綻認定されるわけではない。夕張市のように破綻認定となって国の管理下で再建を進めるのは、実質公債費比率が三五%以上である。破綻は、少なくとも二〇年先である。
つまり、橋下府政は、財政危機を口実に、関西州への道筋を強引につけようとしているのである。
関西州の是非についての議論はまったくおこなわず、ただ、それが「いいことである、大阪にはそれしかない」という意識を府民に植え付けようとしているだけである( http://hirosec.iza.ne.jp/blog/month/200808/)。