消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(178) 道州制(20) 橋下大阪府政と関西州(20)

2009-06-15 06:39:00 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 九四年、「建築基準法」が再度改訂され、空中権売買が可能になった。容積率を使い切っていないビルの容積率を隣に建てるビルが買い取って使えるという制度である。これによって、さらに超高層ビル建設が可能になった(8)。

 九七年には、橋本龍太郎内閣によって、「新総合土地政策推進要綱」が出された。これによって、「優良事業の容積率の割り増し」などが制度化された。都市大規模再開発には容積率を大きくすることが認められたのである(http://tochi.mlit.go.jp/w-new/tocsei/shinyoko.html)。

 二〇〇〇年、堺屋太一・経済企画庁長官の提唱で、「経済戦略会議」が設立された。この会議の提案によって、「都市再生推進懇談会」(東京圏)は、「東京都の都市再生に向けて-国際都市の魅力を高めるために」を、同じく「都市再生推進懇談会」(京阪神地区)は、「住みたい街、訪れたい街、働きたい街」と題する報告書を作成した。要点は土地の高度利用と都市基盤への集中投資であった。

 二〇〇一年には、小泉純一郎首相を本部長とする「都市再生本部」(9)が、公共工事の大都市への集中、環状道路体系の整備を打ち出した。

 〇二年には、一〇年の時限立法として、「都市再生特別措置法」が制定され、「都市再生緊急整備地域」の事業に対して大幅な基準の緩和が図られた。同年七月に閣議決定された「都市再生基本方針」の第一条一には、紋切り型のスローガンにの末尾に「都市再生は、土地の流動化を通じた不良債権問題の解消に寄与する」というキーワードが配置されていた。つまり、一九九〇年代に進行したバブルの解消策として、超高層ビル建設が推奨されたのである(同書、一二七ページ)。

 〇八年現在、東京では、一五〇メートル以上の超高層ビルは八〇棟を超える。大阪でも二〇棟を超える(同書、一三二ページ)。

 川崎一朗教授は警告する。

 「次の東南海・南海地震の時には、長周期地震によって多くの超高層ビルの内部は破壊されるであろう。そのため倒産する企業が続出すると、地震被害で疲弊している日本経済に対する直撃となるであろう」(同書、一三四ページ)。

 〇八年一月、兵庫県三木市のE-ディフェンスで、超高層ビルの三〇階(ほぼ一五〇メートル)を想定した振動実験がおこなわれた。最大加速五〇〇ガル、最大一・五メートルの揺れ幅で、ビルの増幅効果を試した結果、三分間にわたって家具が床を走り回った(同書、一三一ページ)。

 ロンドンでは、一九九八年、「都市諮問委員会」(Advisory Committee)が、ロンドンは、世界都市であるために必ずしも超高層ビルを必要としない。必要としているのは、権威づけのための二等の都市であるとの報告書を出した(田村[2005])。

 ところが、東京と大阪は超高層ビル建設が国際化のシンボルとなってしまっている。しかも、大阪府は、堺市沖の埋め立て地を防災拠点にしている。「堺泉北広域防災拠点」がそれである。じつに、地盤が劣悪で孤立化の高い場所に防災拠点が作られている。WTCへの大阪府庁移転構想などは、同様の意味において、とんでもないことである。

 「民間大企業への国有地の払い下げと超高層ビルの建設を強引に推し進める政治や行政の動きは、『公』が先頭に立って社会の災害脆弱化を加速していると言わざるをえない」(同書、一四四ページ)。



 おわりに



 大阪府の橋下徹知事が主張する「関西州」構想について、橋下知事を除く近畿二府四県の知事、政令市長計九人のうち「早期に実現するべきだ」と考えているのは京都、大阪、堺の三市長に止まっていることが、〇八年九月二〇日付の共同通信のアンケートで分かった。

 このほかの知事、市長には慎重・反対論が目立ち、橋下知事との温度差が浮き彫りになった。「早期に設置すべきだ」と回答した門川大作・京都市長は「地域主権を確立するためには道州制導入で東京一極集中を排し、国や道府県の権限、財源を基礎自治体に移譲することが必要」との見解を示した。平松邦夫・大阪市長、木原敬介・堺市長も道州制導入と関西州設置に賛同を示した。

 一方、唯一「反対」と回答した井戸敏三・兵庫県知事は「国の地方機関の権限のみが移譲されるなら、かえって中央集権が強化される。州都から離れた地域で行政サービスが低下する懸念がある」とした(http://news.shikoku-np.co.jp/national/social/200809/20080920000264.htm)。

 しかし、最近、道州制への動きは急ピッチになっている。

 〇八年七月三〇日、「関西広域機構」(秋山喜久会長)は、関西広域連合(仮称)の設立準備を進めることで基本合意した。

 〇八年九月二三日、自民党の麻生太郎・総裁と公明党の太田昭宏・代表との党首会談で連立政権の継続を確認。その中で、道州制をめぐっては「道州制基本法」(仮称)制定に向け内閣に「検討機関」を新設することで合意した。

 〇八年九月二九日、麻生首相は臨時国会の所信表明演説で地域の再生を強調。「国の出先機関の多くには、二重行政の無駄がある。国民の目に届かない。これを地方自治体に移す。最終的には、地域主権型道州制を目指すと申し上げる」と表明した。

 〇八年一〇月二日、麻生首相が衆院代表質問で、都道府県をブロックごとに再編するための「道州制基本法」(仮称)制定に向け、内閣に検討機関を設置し、法案の作成に乗り出す方針を正式に表明した。これは、公明党の大田代表、社民党の重野安正・幹事長の質問に答えたものである。

 〇八年一一月一三日、「自民党道州制推進本部」は、その総会で、「道州制基本法」制定に向けた「道州制基本法制定委員会」を設置、基本法案の骨子を年内にまとめることを決めた。委員長は、同本部長代行の杉浦正健衆議院議員

 〇八年一一月一七日、政府の「ビジョン懇談会」の江口克彦座長は、「道州制基本法」の骨子を年内にまとめる意向を明らかにした。「ビジョン懇二〇一〇年」に基本法原案を示す予定だったが、政府・自民内での動きが加速してきたため取りまとめを前倒し、次期通常国会での成立を政府に促す方針を示した。

 〇八年一一月一八日、日本経団連は、道州制導入で明治以来の中央集権体制から地域の実情や地域の経済戦略に基づき立案・実施する地域自立体制へと国の姿が変わるとし、経済効果として地方公務員の総人件費削減や公共投資の効率化により計五兆八四八三億円の財源を生み出すことが可能とする試算を示した。新たな財源に基づく地域独自の施策によりグローバルな地域間競争に勝てる力をつけることが可能となるとしている。

 〇九年一月二六日、作家の堺屋太一と政府の「道州制懇談会」座長の江口克彦・PHP総合研究所社長が発起人代表となり、道州制実現に向けた国民運動を展開する「地域主権型道州制国民協議会」が発足した。会長に江口を選出、「関西道州制推進連盟」も参加した。江口は一月一六日に自民党を離党した渡辺喜美・衆議院議員と江田憲司・衆議院議員らと脱官僚、地域主権、国民生活重視を旗印に新グループ結成を発表しており、国民協議会発足日にあわせ、同協議会主催で渡辺、江田両議員によるタウンミーティング特別講演会を東京・新宿のホテルで開催、約六〇〇人が参加、連携活動をスタートさせた。

 〇九年一月二九日、政府の地方分権委員会の丹羽宇一郎委員長と「道州制懇談会」の江口克彦座長が会談、道州制を目指し、連携していくことを確認した。なお、「道州制懇談会」は〇八年末にも「道州制基本法」案骨子を提出するとしていたが、鳩山邦夫・総務相が地方分権改革を優先させる方針を示したことから見送った(http://www.kansaishu.net/pages/doukou.html)。