消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(77) 新しい金融秩序への期待(77) 第二段階に突入した世界金融危機

2009-02-08 08:08:54 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

 銀行には、規制を厳しく受ける商業銀行と規制を受けることのない「闇の金融機関」である投資銀行がある。

  二〇〇八年の世界の金融の激震は後者の投資銀行を震源地とするものであった。米国では、〇八年中に、ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、メリルリンチ、リーマンブラザーズ、ベアスターンズといった一世を風靡していた闇の金融機関が消滅した。彼らは、商業銀行に吸収されるか、自らを模様替えするか、破綻するかして消滅したのである。しかし、これで一件落着したわけではない。吸収した投資銀行があまりにも傷ついていた。投資銀行を引き受けたことによって、商業銀行自体の経営がおかしくなったのである。

 商業銀行業務と投資銀行業務、さらには、保険業務を兼営する総合金融機関のシティグループには、〇八年一〇月に二五〇億ドル、一一月に二〇〇億ドル、計四五〇億ドルの公的資金投入が投入されていた。しかし、八年一〇~一二月期決算の同グループの純損失は八二億九四〇〇万ドル(約七五〇〇億円)と五・四半期連続赤字となってしまった。〇九年一月一六日の同グループの株価終値は、前日比九%安の三・五ドルと下がり、二〇〇九年に入ってまだ二週間なのに、株価は五〇%も安くなった。

 結局、シティグループは、商業銀行(シティコープ)と証券業務(シティ・ホールディング)を分離することになった。〇八年一一月、シティは三〇六〇億ドルの不良資産を分離しただけでなく、〇九年一月、スミス・バーニーや日興グループ売却方針発表した。つまり、銀行、証券、保険を兼営する総合金融業務を自ら放棄せざるを得なかったのである。

 バンカメ(バンク・オブ・アメリカ)も〇八年九月にメリルリンチを買収したことの負の効果に苦しめられている。買収価格は五〇〇億ドル(約五兆二〇〇〇億円)であったが、メリルリンチの不良資産が重くバンカメの上にのしかかっている。

 バンカメも〇八年一〇月に二五〇億ドルの公的資金を供与され、〇九年一月にも、二〇〇億ドルの公的資金の追加投入を受けたが、同期決算で一七億八九〇〇万ドル(約一六〇〇億円)の大幅赤字に陥り、九年一月一六日の株価終値は、前日比一四%安の七・一八ドル、二〇〇九年に入ってバンカメもシティと同じく株価が五〇%安となってしまった。そして、バンカメもまた、〇九年一月、一一八〇億ドルの不良資産を分離したのである。

 AIGも、膨大な公的資金の支援にもかかわらず、同じ苦しみに浸っている。同社は、〇八年九月に八五〇億ドルの公的資金の融資を受けた。その見返りに同社は、公的管理下に入った。〇八年一〇月に二五〇億ドルを追加投入され、〇八年一一月にはさらに四〇〇億ドルの公的資金追加投入を受けた。まさに立て続けに公的資金を投入されて、同社は、生き長らえている。結局、日本の生保事業など多くの子会社の売却方針を発表せざるを得なくなった。同社もまた、一九九九年の金融近代化法による銀行、証券、保険の兼営が裏目に出たのである。

 『ワシントン・ポスト』(〇九年一月一五日付)は、〇九年には〇八年以上に金融機関が苦境に陥ると指摘した。シティグループやバンカメもAIGのように政府管理下に入る恐れがあると分析した。

 今後、金融機関は好むと好まざるとを問わず、公的な管理に入ることになるだろう。