消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

 野崎日記(73) 新しい金融秩序への期待(73) 

2009-02-05 19:33:47 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

新しい金融秩序への期待(73) 構築が急がれる金融犯罪防止の新しい金融システム(3)


 3 老舗金融機関の関与


 全国小売酒販組合中央会の年金資金不正支出事件で、警視庁捜査二課が、06年2月16日、背任容疑で元事務局長(業務上横領罪で起訴)を再逮捕、投資を仲介した投資顧問会社社長を逮捕した。この社長が仲介したCSは、過去にも疑惑ある行動をとっていた。

 インターネット関連企業のライブドア(Livedoor)が、投資事業組合を使って売り抜けた自社株の売却益を海外の口座に入れて裏金化していた問題で、この手続きを担当したのが、この金融機関の日本人社員であった。

 
この社員が、巨額の損失を招いた全国小売酒販組合中央会の外債投資問題にも関与していたと当時は囁かれていた。海外での不透明な資金の管理や運用に、秘匿性の高い口座などを持つこの金融機関が、様々な場面で関わっていたのではないかという疑惑がそれである。

 この金融機関との交渉は、ライブドア前取締役の指示で、金融子会社「ライブドアファイナンス」前社長や、ライブドアが支配する投資組合の運営を任された投資顧問会社社長らが担当。スイス系金融機関側からは、香港在住の日本人社員が対応していたという。

 この日本人社員が、中央会側に資金運用の仕組みを説明しており、契約の場にも同席していた。外債は、資金をいったんこの金融機関に預けた上で購入されたが、償還直前の04年6月、資金投資先の英国企業が破綻したため、ほぼ全額が回収不能になった。

 ライブドアは、04年中に実行した株式交換による企業買収6件で、投資事業組合を介在させ、自社株の売却益計80億円の大半をCS系金融機関の口座に一時プールし、同金融機関の日本法人を通じて還流させたとされる。そのさい、租税回避地の英国領バージン諸島(Virgin Islands)の投資組合や香港の証券会社を利用し、CSの日本人行員がライブドア側に還流方法を指南していた疑いが持たれていた(政経調査会、http://tyousakai.hp.infoseek.co.jp/06-0219-t3.htm)。

 金融庁は、CSに対する警視庁の捜査のほぼ1年前に、CSグループのクレディ・スイス信託銀行株式会社(以下、同行と表現する)の行政処分内容を発表した(05年4月8日)。

 以下、要約的に紹介する。

 同行に対して、1999年7月29日、業務の一部停止命令と業務改善命令を出した。同行は、それを受けて、99年9月28日、信託銀行として責任ある経営体制の確立と組織・運営面の抜本的な改善を実施したと報告した。

 改善命令は、銀行法第24条第1項、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第4条、信託業法第42条第11項に基づくものであった。改善は、信託業務の法令等遵守(コンプライアンス)にかかる事務管理及び顧客情報管理の態勢などについてのものであった。

 同行には、信託財産の基本的な管理・決済業務に問題があった。外国税額還付・請求の未処理、信託受益者に対する不通知・長期未回金・記帳遅延等が発生していた。にもかかわらず、同行は、適切な措置や対応を講じることなく何年間もこれを放置し、信託法第20条(いわゆる善管注意義務)違反、並びに、銀行法第53条、及び平成16年内閣府令第108号による改正前の金融機関の信託業務の兼営等に関する法律施行規則第12条の2(改正後は第31条第4項)で決められている届出義務違反が認められた。

 同行においては、信託財産の管理・決済業務の的確かつ適切な運営に要する事務管理体制が整備されていなかった。

 同行と在日CSグループ関連会社等との業態間の弊害の防止措置等に問題があったのに、この問題について所要の改善が十分に図られておらず、また、入力した情報の閲覧を制限することができない情報管理システムの特性を踏まえた運用や対策が不十分であるなど、顧客の同意を得ずに顧客情報が不適切に共有されている事例が認められた。

 以上を理由として、金融庁は、05年4月8日、同行に対して、銀行法第26条第1項及び金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第8条の2の規定に基づき、行政処分をおこなった(金融庁監督局銀行第1課)(
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/16/ginkou/f-200500408-1.html)。

 1999年7月29日、金融再生委員会ならびに金融監督庁は、CSに対し銀行免許取消等の極めて厳しい行政処分を下した。日本の金融行政には外資優遇がまかり通っていた。外資系の申請は、速やかに認可された。

 
当時の大蔵省は、裁量行政を振りかざして国内金融機関には滅法強いが、欧米諸国からの、不当な取り扱いであるとの非難を恐れ、外資系金融機関には極端に弱かった。外資系金融機関は、日本の権力の及ばない「租界地帯」であった。しかし、このときの措置は例外的なもので、以後も、外資への監督は強められることはなかった。

 CSもその一員である投資銀行という組織は、金融技術を駆使して、利益を上げることを目標としている。長期の融資は、潜在的なリスクと事後管理の労力の割には、収益が少ないからおこなわない。

 行員の報酬も巨額である。入社1年目の社員でも年俸数十万ドルは可能であり、年俸100万ドルを超えことも稀ではない。邦銀から外資系金融機関に移るだけで、初年度で給与は倍になる。実績を積めば、元の給与の5~10倍にもなる。そして、外資系金融マンは超セレブとして人々の垂涎の的となる。職業倫理など、関係なく、英語を使ってめまいがするような高給を得ることが、人生の大出世としてもてはやされる。疲れたら、どこかの大学に潜り込み、金融論講座を担当する

 しかし、なぜ、その様な高給が支払えるのか。本人の能力が他の産業の従業員に比べて取り立てて高いわけではない。システムが高給を保証してきたのである。彼らは高い収益を上げるためにリスクをとることを厭わず、失敗しても、素人にそれを転嫁することができていたのである。ソロモンブラザース(Salomon Brothers)が米国債入札を巡る違法行為で摘発されたことがあったが、これなどは、危ない橋を渡ろうとして渡り切れなかった例である。

  いずれにせよ、投資銀行は、究極の収益至上主義組織であった。これが、平成の金融恐慌で消滅してしまった。経済学を表す「エコノミー」(Economy)という言葉には、神の摂理という意味もある。むべなるかな。

 ただし、平成金融恐慌前の日本は、まだまだ外資の植民地であった。国有化された長銀を民間に売却するに当たり、政府は、ゴー ルドマンサックス(Gpldman Sachs)という1投資銀行をアドバイザー(助言者)に起用した。また、日債銀の売却にはモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)を同じくアドバイザーに起用した。しかし、税金で、これらの投資銀行を雇用するのなら、契約内容を開示するのが政府の義務であったはずである。投資銀行は、非常に人件費が高い組織でなので、アドバイザー契約も高価なはずであった(浅尾慶1郎「湘南の風~あさお慶1郎の日記~」、http://www.asao.net/blog/?no=185)。