消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(6) 新しい金融秩序への期待(6) 日本企業とラテンアメリカ

2008-11-10 12:11:13 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


 途上国で事業展開することによって、現地で削減できた排出量を権利として売買できることを「クリーン開発メカニズム」(Clean Development Mechanism=CDM)という。メカニズムという名前がついているがれっきとした組織であり、理事会がある。ここに各種プロジェクトが登録される。当然、各国の利害が衝突する場である。世銀には「炭素基金」がある。

 チリ政府は、排出権の世界シェアを七%にすべく、世界の企業を誘致している。さらに、日本はチリの四つのプロジェクトに参加している。たとえば、東京電力は養豚場のメタン回収プロジェクトに参加している。三菱商事は水力発電プロジェクトに参加している。これは、一〇万トンの排出権になる(二〇〇二年時点)。日本のCDMプロジェクトは二〇〇七年時点で世界に一四件あるが、チリだけで四件もある。

 エクアドルにも、日本企業が深く入り込んでいる。三菱製紙、住友商事、電源開発(Jパワー)は、合弁で「ユーカパシフィック」(Eucapacific)社を作り、二〇〇一年から大規模なユーカリ植林事業を営んでいる。二〇〇八年からチップとして輸出する予定である。

 リコーは、首都キト近くで大規模な植林事業を行い、二~三億円を投じて二〇万トンの二酸化炭素排出権を得ることを目指している。

 エクアドルで石油採掘をしているカナダ資本のアンカナ(EnCana)は、二〇〇五年資産を中国のアンデス・ペトロウリアム(Andes Petoroleumu)に売却した。これで、中国はエクアドル原油の一五%を確保できたことになる。資源ナショナリズムの高まりとともに、エクアドルは外資には活動しにくい国になっていた。

 中南米で埋蔵量四位、世界で二四位のエクアドルは、二〇〇〇年国内通貨をドルにした。二〇〇七年一月、ベネズエラのチャペス大統領を支持する左派のコレアが大統領になった。コレア大統領は先住民のケチャア族出身である。彼は債務の帳消しを世銀、IMFに迫っている。前任者のアルフレッド・パラシオもIMFへの多額の返済に憤っていた。パラシオと当時の経済相であったコレアはオキシデンタル・ペトロウリアムを追放した。

 シェブロンの一部であるテキサコ石油が残した石油スラッジ(堆積物)が溜まった幾百もの露天採掘場によって小児ガンが多発するコファン族が、シェブロンに堆積物の撤去費用一二〇億ドルの支払いを要求した。シェブロンのタンカーには、国務長官、コンドリーサ・ライスの名前が付けられている。いままで、大手石油会社が環境破壊に対して弁償をめったにしない。エクソン・バルディーズ号の流出事故の和解はまだできていない。コレアはコファン族の裁判を支持している。

 アマゾン熱帯雨林の西端にあるエクアドリアンオリエンテは、地球でもっとも豊富な生物多様性場所と見なされている。テキサコが一九六七年にこの地に侵入した。三〇年間、森林が破壊され、毒性の油田の副産物を川に流し続けた。一九九〇年中頃には、廃液で農地が壊滅した。一九九二年八月、パイプラインが破れ、二七万五〇〇〇ガロンが流出し、ナーポ川が黒く染まり、下流のペルー、ブラジルも非常事態となった。先住民の激しい非難によって、テキサコは一〇〇〇万ドル程度の掃除代を出そうとしたが、住民は拒否した。

 エクアドルの国債は一九七〇年には二億五〇〇〇万ドルであったが、二〇〇五年には一六八億ドルになった。なぜこうなっってしまったのか。

 ブレイディ債券のせいである。一九八九年、ラテンアメリカは深刻な債務危機に陥った。当時の米国の財務長官であったブレイディは、西側銀行団の債権を債務国の国債に転換させたのである。つまり、ドル建ての民間債務を現地通貨立ての政府債務に転換し、民間企業は、西側銀行団から買い取った債権を現地政府に突きつけ、それに対して現地政府は国債を発行して、現地通貨を当該企業に渡す。当該企業はそれで、現地企業を興すのである。つまり、現地は外資に切り売りされることになったのである。外資が入り込むたびに、国債が発行されるのである。こうして、外資が入りたがる資源国は貧しくなる。

 国連人間開発指標によると産油国の方が読み書き能力、乳幼児死亡率において、非産油国よりも著しく低い。

 二〇〇七年二月公開されたアルバート・ゴア不都合な真実で、米エネルギー省の調査が引用されていた。地球温暖化への寄与度は、米国三〇・三%、欧州二七・七%、ロシア一三・七%に対して、日本は三・七%という低さであった。日本は欧米の経済規模の半分もありながら、温暖化寄与度は一~二割である。にもかかわらず、日本は二〇一二年までの五年間に二~三億トンの二酸化炭素排出権購入を必要とする。

 一九九七年一二月の京都議定書では、一九九〇年基準で、二〇〇八年~二〇一二年の五年間で、ロシア〇%、日本とカナダが六%、米国七%、EU八%の削減が目標値として設定された。しかし、二〇〇〇八年までに日、米、カナダの排出量は増え、日本が六%削減を行うためには、実質一九%もの高い削減が必要となる。

 ところが、ドイツは温暖化ガスの垂れ流しをしていた東ドイツを統合して以来、二〇〇〇年時点で実質的に一九%も削減していて、八%削減とは具体的には一一%も増やせるという意味になる。

 加えて、EUは全体として評価される。イタリアやスペインが削減に失敗しても、ドイツと英国の成功を加味することによって目標達成ができるという合意が成立している。しかも、ポスト京都に向けて、EUは加盟国を一五か国から二七か国に増やす。ほとんどは旧社会主義国であるので、削減余地は大きくなる。そもそも、国別枠という手法は正しいことなのか。それよりも、産業別に国際目標を設定すべきではないのか。

 二〇〇八年三月以降、世界中で食糧暴動が頻発している。とくにアフリカにおける暴動が激しい。ブルキナファソ、カメルーン、象牙海岸、モーリシャス、セネガル等々。西アフリカ全体で食糧価格は対前年比五〇%上がっている。シエラ・レオーネにいたっては三〇〇%である。先進国の米国ですら一年間に四一%も上がった(Democracy Now!, April 08, 2008)。ラテンアメリカ、東南アジア地域も同様である。米国では食糧援助計画で一・二億ドルの赤字を計上し、世界と国内貧民への食糧援助が難しくなっている。世界的な天候不順、石油価格の高騰による肥料価格の上昇、肉食への世界的変化などの要因が食糧不足の大きな内容であるが、トウモロコシやサトウキビなどのバイオ燃料への転化も大きな要因になっている。

 世界には八億人の飢餓者と一〇億人の肥満者の併存。ただし、米国では低所得者層が肥満。米国では適正体重者は三〇%、二五〇〇万人が飢餓状態。この現象はファストフードのため。Patel, Raji, Stuffed and Starved: The Hidden Battle for the World Food System , Melville Pub House (2008/04).