消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(4) 新しい金融秩序への期待(4) 貧困の拡大

2008-11-06 17:22:46 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)
 
 ハリケーン・カトリーナの悲劇は米国の貧困が拡大していることを示した。先進国でも最貧国でも格差が拡大している。世界人口二〇%が住む国々で格差拡大。ブラジルの平均所得はベトナムの三倍であるが、ブラジルの下位一〇の所得は、ベトナムの下位一〇%よりも絶対水準で所得が低い。ガーナとセネガルの下位二〇%の幼児が五歳までに死ぬ率は上位二〇%の層よりも三倍も高い。

 米国の医療費は、OECDの二倍だが、乳幼児死亡率はOECD平均よりも高い。これは、米国の平均所得の四分の一のマレーシアと同程度である。

 所得格差が広がる事態を阻止できるソーシャル・ネットワーク作りが必要となる。

 貧しい国への債権を安く買い、その債権をその国の政府につきつけて、満額を払わせて、あくどい儲けをするビジネスがある。

 昨年(二〇〇七年)六月八日(金)、ドイツにおけるG8サミットが修了した。このときの共同声明で、最貧国の全債務の免除を目指すことが盛られていた。この声明は二〇〇五年サミットで初めて出されたものである。

 ところが、債権放棄が問題になると、放棄が実行に移される前にハゲタカ・ファンドが貧国に対する債権を債権保有者から大幅にディスカウントした値段で買い取り、その権利を行使すべく、裁判に訴えて、満額を支払わせるのである。ハゲタカ・ファンドに債権を売った先進国政府や企業は、サミットでの約束が実行されていまえば、自らがもっている債権を支払ってもらえなくなるから、その前に少しでも現金を入手すべく、債権をハゲタカ・ファンドに売り払ってしまうのである。

 デモクラシー・ナウ(Democracy Now!)という組織がある。世界の犯罪的な行為をネット上に紹介する組織である。その二〇〇七年六月一一日号に、BBCの記者、グレグ・パラスト(Greg Palast)とのインタビューが掲載された。

 それによれば、パラスト記者は、二〇〇七年二月と二〇〇七年のサミット前の六月の二回にわたって、BBCで最貧国にたかるハゲタカ・ファンドのことについて報告している。 二月の報道番組では、同記者は、米国在住のマイケル・シーハン(Michael Sheerhan)率いる「ドネガル・インターナショナル」(Donegal International)というハゲタカ・ファンドの手口を公開した。このファンドは、ザンビア政府に四〇〇〇万ドルを支払わせようとした。その権利は、このファンドは四〇〇万ドルで購入していたのである。じつに一〇倍の儲けである。

 六月にも、同記者は、同じくシーハンが率いるファンドのあくどい取引を明らかにした。それは、シーハンのファンドが、わずか、三三〇万ドルで購入したザンビア政府への債権をザンビア政府に額面の五五〇〇万ドルで買わせることを強要したことを告発したものである(後述)。

 サミット直前のこの報道を見た米下院議員のジョン・コナーズ(John Connyes)と同じく下院議員のドナルド・ペイン(Donald Payne)がブッシュ大統領に状況を説明し、ドイツ・サミットではこうした取引ができないように各国首脳間で取り決めをして欲しいと訴えた。ブッシュ大統領も大いに興味を示したという。

 二月の報道のときには、支払いを渋るザンビア政府をシーハンのファンドは、ロンドンの裁判所に訴え、裁判所は、シーハンのあくどさを認識しながらも、法的には、ザンビア政府はシーハンの組織に支払う義務があるとして支払いをザンビア政府に命令した。二〇〇七年三月一日のことであった。この判決に憤慨した英国の国会議員八五名が、英国の契約法の改革を政府に要望した。

 これには裏があった。当時のザンビアの大統領はフレデリッック・チャルバ(Frederic Chaluba)であった。彼は、ジュネーブに「ブティック・バジル」(Boutique Bazille)という宝飾店を私的に経営していた。ダイヤモンド関連の商店であった。この宝飾店にシーハン・グループは、献金していたのである。

 この問題を巡って英国議会は騒然となった。米国政府は、シーハンが「外国背任行為法」(Foreign Corrupt Practices Act)に触れる可能性について言及した。そして、同年五月一〇日、トニー・ブレア首相は辞任を表明した。後継者のゴードン・ブラウン(Gordon Brown)は、ハゲタカ・ファンドの行動を非難し、G8で彼らの活動を抑制する方針を議論すると述べた。五月一九日、ブラウンはさらに、G8の蔵相会議にハゲタカ・ファンドはスキャンダルで彩られているととまで言明した。

 パラストは告発した。世銀、IMF、英米諸国政府から貧国に供出された一〇億ドルの資金が貧国に渡る前にハゲタカ・ファンドに掠め取られていると。ヨーロッパからアフリカに供与された援助額の半数はハゲタカ・ファンドの手に渡っている

 しかし、G8は実効あるハゲタカ・ファンド規制策を打ち出せないでいる。