大分会の会報用の原稿として「認定調査士」に関することを書きました。書く中で、自分自身としてもあらためて考えるところがあったので、原稿の一部を流用しつつもう少し考えてみます。
「認定調査士」の制度ができたのは、平成17年の土地家屋調査士法改正によります。この平成17年改正というのは筆界特定制度のできた不動産登記法改正に伴うものです。筆界特定制度の創設に伴ってすべての調査士が筆界特定手続の代理をできるようになった、ということと同時に、「特別研修」を終了して一定の「能力を有すると認定」された者(認定調査士)のみが「筆界が現地において明らかでないことを原因とする民事に関する紛争」についての「民間紛争解決手続」(ADR)の代理をできるように定められたわけです。
ここでは、「筆界」に関すること(筆界特定制度)と「所有権界等民事に関すること」(筆界の不明を原因とする民事紛争)とがはっきりと区別されています。
これは、「筆界」「境界」に関するこれまでの理論的な整理にもとづくものです。
しかし、現実の土地境界をめぐる問題、というのは、このようにすっきりと区別できるようなものとしてあるわけではありません。元々の筆界を確認しようとする場合でも、土地所有者にとっての関心事は「自らの所有権の及ぶ範囲」(所有権界)であるわけですし、土地境界紛争が起きるのはこの所有権界をめぐってのことです。そのような中で「筆界だけ」を対象とすることの方が困難で、「筆界」の確認のためにも土地の所有権をめぐる「民事」的な問題を抜きにすることはできない、というのが現実だというべきでしょう。
このような現実は、筆界特定制度ができて10年を経て、25000件以上の手続を行ってきたことの上で明らかになってきています。理論的にも、「筆界と所有権界との峻別」だけではなく、その「関連性」ということを考えていかなくなってきている、と言えるでしょう。
その一つの現れとして、今年運用の試行がなされることとなった「所有者不明土地に関する筆界特定手続」の運用方針があります。この運用方針では、筆界調査委員の指定に当たって「認定調査士」であることを「考慮」することとされています。
従来の「理論的」な考え方からすれば、「所有者不明」であろうと何であろうと「筆界特定」にあたって「認定調査士」であるかどうか、ということは関係のないことであるはずです。にもかかわらず「認定調査士」であることを考慮する、というようにするのが適当であると考えるようになっているのは、「筆界」を民事的なこととの関連において考えなければならない、ということが自覚的であるかどうかはともかくとして明らかになってきていることによるのではないかと思います。
そして、これをさらに広げて考えると、日常的に私たち調査士が行っている「筆界確認」についても、それ自体としては「民事」に関することではないとしても、やっぱり「民事」的な知識・能力がなければ十分な判断ができない、ということにつながっていきますし、そのような力が求められてきている、と考えるべきなのでしょう。
別の方向から考えます。「資格制度」という方向からです。
認定調査士の制度ができたのと同じ時期に、司法書士には「簡裁代理認定司法書士」、社会保険労務士には「ADR代理特定社労士」の制度ができました。
「簡裁代理認定司法書士」については、すでに全司法書士の74%を超えていて、「認定司法書士にあらずば司法書士にあらず」とさえ言っても過言ではないような状態になっています。
社労士については、社会保険労務士法の本法の条文で「以下『特定社会保険労務士』という」という括弧書きの注記がなされていて、テレビに出演する社労士も肩書を単なる「社労士」ではなく、「特定社労士」だとして、その独自性が強くアピールされています。
このような他資格における「資格内資格」の強調に比べて、調査士の世界における「認定調査士」は随分と控えめな感じがします。これは、改めていかなければならないところでしょう。
司法書士については、「簡裁代理」が現実の問題として「業務拡大」に結びついた(クレジット・サラ金の過払い請求等)、という事情がありますが、その根底にあるのは、自分自身を「登記手続」を行うだけの「手続屋」ではなく「法律家」の一員であると位置づけ、それにふさわしい能力を持つように努めている、ということなのだと思います。
社労士については、そもそも「社会保険労務士」という資格自体が行政書士から分化してできた資格であることもあり、より専門的な分野に特化して能力を高め、業務展開していく、という姿勢がある、と言えるのでしょう。
このような他資格における動向を、調査士にとっても無縁のものだと考えるべきではありません。先に述べたように、「筆界の確認」についても、民事上の問題に関する能力ぬきに行えるものではない、ということが明らかになってきているのであり、同様の展開を積極的に考えるべきなのです。
今後、特に大分のような地方においては、土地所有者が都会に流出してしまって、相続によって土地を取得してもその土地がどこにあるかも知らず、ましてや土地の境界がどこなのかわかるわけもない、というような事態が多く起きてくることでしょう。そのようなときに、たとえ土地所有者の認識がないとしても、公正に土地の筆界を明らかにすることのできる専門的能力を有する者が求められてきます。その土地の歴史的な経緯と民事的な権利関係を踏まえた「法的判断」のできる専門家が求められているのです。
しかも、その「専門家」は「自称」のものだけでは足りないのであり、信用のおけるものであること、公的な認証を持つものであることを求められるでしょう。
そのような存在というのは、今の日本社会において私たち「土地家屋調査士」以外にはない、と言えます。他には、適格者は全くいないのです。
しかし、その場合、はたして現在の「土地家屋調査士」がまるごとそのような能力を認めれられるものとしてあるのか、ということが問題になります。
それは、率直に言って難しい、と言うべきでしょう。新しい業務領域を開き、新しい職責を担うためには、新しい能力、そのための新しい研鑽が必要だ、というのが社会の要求です。
そしてそのような要求に対して、「認定調査士」という最近できた制度があります。社会構造の変化を受けて、この「認定調査士」に新しい職責を与えていく、ということが考えられてもおかしくないでしょう。
そして、そのような「筆界の認定」を行うものとしての「認定調査士」が、社労士における「特定社労士」のように(あるいは、行政書士から分離したもともとの社労士のように)「調査士一般とは区別されるもの」になって、独自の役割を果たしていくようになるのだとしたら、これまで「土地家屋調査士」一般が行うことができるものとされていた「筆界の確認」は「認定調査士」のみにできるものになる、ということになります。
「土地家屋調査士」という制度が、未来永劫安泰な制度である、と考えるのであれば、そこに安住してのんびりと旧態依然の仕事をしていけばいい、ということになるのかもしれません。しかし、はたして今後そのように社会は動いて行ってくれるのか?・・・もう一度考え、今後の方向性を考えていく必要があるように思います。
「認定調査士」の制度ができたのは、平成17年の土地家屋調査士法改正によります。この平成17年改正というのは筆界特定制度のできた不動産登記法改正に伴うものです。筆界特定制度の創設に伴ってすべての調査士が筆界特定手続の代理をできるようになった、ということと同時に、「特別研修」を終了して一定の「能力を有すると認定」された者(認定調査士)のみが「筆界が現地において明らかでないことを原因とする民事に関する紛争」についての「民間紛争解決手続」(ADR)の代理をできるように定められたわけです。
ここでは、「筆界」に関すること(筆界特定制度)と「所有権界等民事に関すること」(筆界の不明を原因とする民事紛争)とがはっきりと区別されています。
これは、「筆界」「境界」に関するこれまでの理論的な整理にもとづくものです。
しかし、現実の土地境界をめぐる問題、というのは、このようにすっきりと区別できるようなものとしてあるわけではありません。元々の筆界を確認しようとする場合でも、土地所有者にとっての関心事は「自らの所有権の及ぶ範囲」(所有権界)であるわけですし、土地境界紛争が起きるのはこの所有権界をめぐってのことです。そのような中で「筆界だけ」を対象とすることの方が困難で、「筆界」の確認のためにも土地の所有権をめぐる「民事」的な問題を抜きにすることはできない、というのが現実だというべきでしょう。
このような現実は、筆界特定制度ができて10年を経て、25000件以上の手続を行ってきたことの上で明らかになってきています。理論的にも、「筆界と所有権界との峻別」だけではなく、その「関連性」ということを考えていかなくなってきている、と言えるでしょう。
その一つの現れとして、今年運用の試行がなされることとなった「所有者不明土地に関する筆界特定手続」の運用方針があります。この運用方針では、筆界調査委員の指定に当たって「認定調査士」であることを「考慮」することとされています。
従来の「理論的」な考え方からすれば、「所有者不明」であろうと何であろうと「筆界特定」にあたって「認定調査士」であるかどうか、ということは関係のないことであるはずです。にもかかわらず「認定調査士」であることを考慮する、というようにするのが適当であると考えるようになっているのは、「筆界」を民事的なこととの関連において考えなければならない、ということが自覚的であるかどうかはともかくとして明らかになってきていることによるのではないかと思います。
そして、これをさらに広げて考えると、日常的に私たち調査士が行っている「筆界確認」についても、それ自体としては「民事」に関することではないとしても、やっぱり「民事」的な知識・能力がなければ十分な判断ができない、ということにつながっていきますし、そのような力が求められてきている、と考えるべきなのでしょう。
別の方向から考えます。「資格制度」という方向からです。
認定調査士の制度ができたのと同じ時期に、司法書士には「簡裁代理認定司法書士」、社会保険労務士には「ADR代理特定社労士」の制度ができました。
「簡裁代理認定司法書士」については、すでに全司法書士の74%を超えていて、「認定司法書士にあらずば司法書士にあらず」とさえ言っても過言ではないような状態になっています。
社労士については、社会保険労務士法の本法の条文で「以下『特定社会保険労務士』という」という括弧書きの注記がなされていて、テレビに出演する社労士も肩書を単なる「社労士」ではなく、「特定社労士」だとして、その独自性が強くアピールされています。
このような他資格における「資格内資格」の強調に比べて、調査士の世界における「認定調査士」は随分と控えめな感じがします。これは、改めていかなければならないところでしょう。
司法書士については、「簡裁代理」が現実の問題として「業務拡大」に結びついた(クレジット・サラ金の過払い請求等)、という事情がありますが、その根底にあるのは、自分自身を「登記手続」を行うだけの「手続屋」ではなく「法律家」の一員であると位置づけ、それにふさわしい能力を持つように努めている、ということなのだと思います。
社労士については、そもそも「社会保険労務士」という資格自体が行政書士から分化してできた資格であることもあり、より専門的な分野に特化して能力を高め、業務展開していく、という姿勢がある、と言えるのでしょう。
このような他資格における動向を、調査士にとっても無縁のものだと考えるべきではありません。先に述べたように、「筆界の確認」についても、民事上の問題に関する能力ぬきに行えるものではない、ということが明らかになってきているのであり、同様の展開を積極的に考えるべきなのです。
今後、特に大分のような地方においては、土地所有者が都会に流出してしまって、相続によって土地を取得してもその土地がどこにあるかも知らず、ましてや土地の境界がどこなのかわかるわけもない、というような事態が多く起きてくることでしょう。そのようなときに、たとえ土地所有者の認識がないとしても、公正に土地の筆界を明らかにすることのできる専門的能力を有する者が求められてきます。その土地の歴史的な経緯と民事的な権利関係を踏まえた「法的判断」のできる専門家が求められているのです。
しかも、その「専門家」は「自称」のものだけでは足りないのであり、信用のおけるものであること、公的な認証を持つものであることを求められるでしょう。
そのような存在というのは、今の日本社会において私たち「土地家屋調査士」以外にはない、と言えます。他には、適格者は全くいないのです。
しかし、その場合、はたして現在の「土地家屋調査士」がまるごとそのような能力を認めれられるものとしてあるのか、ということが問題になります。
それは、率直に言って難しい、と言うべきでしょう。新しい業務領域を開き、新しい職責を担うためには、新しい能力、そのための新しい研鑽が必要だ、というのが社会の要求です。
そしてそのような要求に対して、「認定調査士」という最近できた制度があります。社会構造の変化を受けて、この「認定調査士」に新しい職責を与えていく、ということが考えられてもおかしくないでしょう。
そして、そのような「筆界の認定」を行うものとしての「認定調査士」が、社労士における「特定社労士」のように(あるいは、行政書士から分離したもともとの社労士のように)「調査士一般とは区別されるもの」になって、独自の役割を果たしていくようになるのだとしたら、これまで「土地家屋調査士」一般が行うことができるものとされていた「筆界の確認」は「認定調査士」のみにできるものになる、ということになります。
「土地家屋調査士」という制度が、未来永劫安泰な制度である、と考えるのであれば、そこに安住してのんびりと旧態依然の仕事をしていけばいい、ということになるのかもしれません。しかし、はたして今後そのように社会は動いて行ってくれるのか?・・・もう一度考え、今後の方向性を考えていく必要があるように思います。
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