実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

未公開株の株価算定(2)

2015-04-07 10:06:47 | 会社法
 つい先日の最高裁判例で、反対株主の株式買取請求における未公開株の「公正な価格」について、収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントができるか否かが問題となった判例が最高裁ホームページにアップされた。非流動性ディスカウントとは、非上場会社の株式には市場性がなく、上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をすることである。
 非上場株式は売却しようと思っても一般の人から買い手を見つけることは難しい。そのため、任意の売却であれば、なかなか思うような値段(本来あるべき客観的に正しい値段)では売れない。言ってみれば、こうした状況が非流動性ディスカウントの根拠である。要は、非流動性ディスカウントは、株式の交換価値を算定するために行うものということができる。
 株式買取請求も、言ってみれば会社に対する株式の売却であるから、「公正な価格」を交換価値の把握と考えれば、非流動性ディスカウントが正当化されそうでもある。

 しかし、最高裁は非流動性ディスカウントを認めなかった。なぜかというと、株式買取請求を、単なる株式の売却とは捉えていないのである。
 株式買取請求権が問題となる場面は、吸収合併など会社組織の基礎に本質的変更をもたらす場面であるが、そのよう場面でも株主総会の多数決で行えるようにすると同時に、反対の株主は会社からの退出する権利を認め、その場合に企業価値を適切に分配するものでなければならないと考えているのである。別の言い方をすれば、賛成派株主と反対派株主とで、不平等が生じてはいけないということを強調しているのだと思う。

未公開株の株価算定(1)

2015-04-01 17:06:48 | 会社法
 未公開株(非上場株式)の株価をどのように算定するかは、なかなか難しく、手法としては純資産方式や収益還元方式など言われるが、最近はディスカウント・キャッシュ・フロー方式(DCF方式)が最も望ましいなどと言われることもある。
 が、私はそれぞれの具体的算定方法をよく知らないし、詳しいことはよく分からない。収益還元方式とDCF方式はどこが違うのかもよく分からない。

 ここで問題としたのは、そういうことではなく、未公開株の株価を算定する場合、どの場面でも同じでいいかどうか、ということである。
 といっても、何のことだかこれでは全く分からないだろう。具体的に言うと、非上場会社が募集株式を発行する場合の「有利発行」か否かの判断として株価算定をする場面と、反対株主の買取請求権を行使した場合の買取価格である「公正な価格」として株価算定する場面とで、同じでいいかどうか、ということである。

 募集株式を発行する場合、「有利発行」か否かを判断する場合、「特に有利」かどうかの判断となるが、法にはそれ以上の基準は設けていないので、有利性の判断としては、発行時の株価を算定し、それと払込価格との比較を行わざるを得ない。そこでの株価は、普通に考えて客観的に正しい価格でなければならず、言ってみれば反対株主の買取請求で問題となる「公正な価格」というのと特段違いはなさそうにも思える。そうだとすれば、有利性判断のための株価算定と、反対株主の買取請求時の「公正な価格」は同じ基準でいいということになりそうである。
 が、本当にそれでいいのかどうか、客観的に正しい価格と「公正な価格」の意味が同じかどうかが、気になったのである。