実務家弁護士の法解釈のギモン

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裁判上の担保の法的性質と権利行使方法(9)

2013-06-14 09:52:51 | 最新判例
 事案を変えて、民事執行法10条に基づく執行抗告と、同条6項に基づく執行停止とそのための担保が提供された場合、あるいは民事執行法11条に基づく執行異議と同条2項、10条6項に基づく執行停止とそのための担保が提供された場合はどうするか。この場合の担保も民事執行法15条2項により民事訴訟法79条が無条件に準用されるので、権利行使催告による担保取消が無条件に準用される。
 しかし、この場合の「訴訟の完結後」を、「本訴の完結後」と読むことは絶対にできないはずである。これらの執行停止のための担保は、執行抗告や執行異議の実効性を確保するためのものである以上、民事執行法15条2項により準用される民事訴訟法79条3項にいう「訴訟の完結後」とは、どんなに厳格に解釈しても、執行抗告や執行異議の完結後としか理解しようがない。 
 私には、執行停止そのものの完結後と解釈しても差し支えないのではないかとも思うのである。

 要は、それぞれの手続の性質や目的に応じて、準用される民事訴訟法79条3項の「訴訟の完結後」という文言を読み替えて理解することになるはずなのである。
 訴訟費用の担保の場面では、訴えを提起されて被告側の勝訴時の利益(訴訟費用請求の利益)を担保するための制度なのであるから、当然訴訟が完結しなければ権利行使催告による担保取消ができるはずはないが、民事保全における担保は、仮差押や仮処分の効力を受けてしまうことそのものに対して、それが違法な場合の債務者の利益(損害賠償請求権)を担保するのであるから、民事保全の効力が消滅すればそこで客観的には損害も確定するはずであるから、本訴の完結を待つのは時間の無駄である。
 そして、本訴手続と完全に分離した中で自己完結的に手続が構成されていることも構造的な裏付けとして、民事保全法4条2項で準用する民事訴訟法79条3項の「訴訟の完結後」とは、「民事保全の完結後」と理解すればいいのである。ただし、その大前提として、担保として提供された供託金に対する権利行使方法は、供託金還付請求権を行使することのみならず、損害賠償請求訴訟の提起あるいは供託金還付請求権確認訴訟の提起も含めて権利行使と理解すべきなのである。
 今回の判例を目にして、以上の私見を一定程度裏付けるものと、私は勝手に理解している。

 私が、はたと困ってしまった案件についていえば、裁判所から権利行使催告による担保取消の申立を取り下げるよう、強力な要請があったため、やむなく取り下げた。依頼者もやむをえないと納得してくれたためである。現在本案訴訟の完結待ちである。
 取り下げないで争った方がよかったであろうか。