実務家弁護士の法解釈のギモン

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裁判上の担保の法的性質と権利行使方法(8)

2013-06-11 09:48:52 | 最新判例
 しかしである。では、本訴が請求棄却で完結し、民事保全が違法であることが明らかとなった場合に、担保として提供された供託金に対し、被告側で速やかに還付請求権が行使できるか。
 できるはずがない。民事保全が客観的に違法であることは確定したと言えるかもしれないが、それだけで被告の原告に対する損害賠償請求権あるいは供託金還付請求権の存在まで確定したとは言えないからである。例え違法な民事保全であったとしても、それと因果関係のある損害が何もないかもしれないではないか。特に民事保全が空振りに終わった事案ではこのことは顕著である。
 今回の判旨に従えば、還付請求を行うには、あくまでも供託金還付請求権を有することの確認が必要なのである。例え民事保全の事案だとしても、本訴の完結だけでは足りないのである。私にとって、今回の判旨は、この点を改めて考えさせられた判例なのである。

 むしろ、民事保全手続は、本案訴訟手続とは完全に分離・独立した、それ自体として自己完結的な手続構造となっている。そうだとすると、民事保全における担保である以上、民事保全法4条2項で準用される民事訴訟法79条3項の「訴訟の完結後」は、それ自体完結的な手続である民事保全手続の完結後と理解することも、文理解釈として全く問題はないはずである。

 そして、私の考えについて結論を言えば、少なくとも、訴訟費用の担保の場面以外での担保に対する権利行使とは、供託金還付請求権だけを意味するのではなく、損害賠償請求権訴訟の提起、あるいは今回の判例に従えば、供託金還付請求権を有することの確認を求める訴訟の提起も含めて権利行使と理解すべきである。
 その上で、民事保全における担保の場面で、権利行使催告による担保取消を行おうとする場合、「本訴の完結後」である必要はなく、「民事保全の完結後」であればいい。そして、民事保全取り下げ後の権利行使催告期間中に損害賠償請求訴訟または供託金還付請求権確認訴訟が提起されさえすれば、権利行使があったとして担保取消が行われないのである。本訴の行く末など、何の意味も持たない。
 以上の理解は、民事保全が本訴の手続とは完全に分離している現行法上、十分に解釈可能だと思われる。そして、以上のように解すれば、すべてがうまくいくはずである。