みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1462「はりこみ」

2024-06-22 18:05:21 | ブログ短編

 道路脇(どうろわき)に車(くるま)が停(と)まっていた。そこへ乗(の)り込んでいく若(わか)い女。助手席(じょしゅせき)に座(すわ)ると、鞄(かばん)から牛乳(ぎゅうにゅう)とパンを取り出して運転席(うんてんせき)の男に差(さ)し出した。男はそれを見て、
「牛乳とあんパンかよ。俺(おれ)さぁ、牛乳はダメなんだよ。お腹(なか)がなぁ…」
「す、すいません。はりこみには牛乳とあんパンが定番(ていばん)かと…」
「お前さぁ、刑事(けいじ)ドラマの見過(みす)ぎなんじゃないのか? そんなんで――」
 そこで男は、女が悲(かな)しそうな顔(かお)をしているのに気がついた。上司(じょうし)から言われていたのだ。くれぐれも言動(げんどう)には注意(ちゅうい)するようにと。新人(しんじん)の、しかも女性と組(く)んでいるのだ。パワハラととられるようなことは控(ひか)えなくてはならない。
 女性の方も配属(はいぞく)されたばかりなので、先輩(せんぱい)に気のきかないヤツだと思われたのではないかと不安(ふあん)になっていた。それに、この先輩は自分(じぶん)の父親(ちちおや)と同じくらいの…。彼女は父親のことが苦手(にがて)だった。いつも上から目線(めせん)で…。でも、彼女は気を取り直(なお)して、何か話(はな)しかけようとするが、何を話したらいいのか思いつかない。
 男の方も似(に)たようなものかもしれない。彼には年頃(としごろ)の娘(むすめ)がいて、最近(さいきん)はめったに口(くち)をきいてくれない。彼には、娘が何を考(かんが)えているのかさっぱりだ。
 そんな二人が、お互(たが)いの悩(なや)みを打(う)ち明けるのに時間(じかん)はかからなかった。いつしか、はりこみの時間は、お悩み相談(そうだん)の時間になっていた。もちろん、仕事(しごと)はきちんとこなして…。
<つぶやき>相手(あいて)を知るには、きっかけが必要(ひつよう)かもね。一歩(いっぽ)を踏(ふ)み出す勇気(ゆうき)があれば…。
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