徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語』第零~七幕(富士見L文庫)

2018年05月22日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『紅霞後宮物語』は、2014年第2回ラノベ文芸賞で金賞受賞した『生生流転』を改題・改稿したもので、作者のデビュー作です。第1巻は「第1幕」という表示がないことからも分かるように、シリーズ化は取りあえず想定されておらず、これ一冊で一応完結している中国風歴史ロマンです。主人公は大辰帝国の貧農出身で足の悪い兄の代わりに徴兵され、軍人として特に用兵の巧みさで頭角を現し、将軍位にまで出世した女性・関小玉がいきなり皇后になるところから始まり、その活躍ぶりが語られます。

関小玉が33歳で後宮入りしたのは、彼女の元副官・周文林が実は先々々帝の庶子で、彼が皇帝に即位し(てしまっ)たことに起因します。この文林は小玉の軍事の才能にほれ込んでおり、彼女を何とか重用し活躍させることができないか模索した結果、皇帝の妃が軍を率いた故事に倣って彼女を妃にしてしまう策を思いつきます。小玉は快くではありませんが、皇帝命令なのでそれに従って後宮入りします。しかしこんな突然の人事が後宮という女の園で快く受け入れられるわけはないので、小玉は当然いじめの対象になってしまいますが、彼女は軍隊でたたき上げられた人なので全く気にしません。本人よりもむしろ彼女の能力を高く買っている文林の方がその状況に耐えられず、彼女を後宮の最高位である皇后の座に着けてしまいます。こうして皇帝・皇后のコンビで内憂外患の国を治めていきます。内憂外患ですから陰謀・謀略・粛清・戦争のオンパレードで血なまぐさいのですが、『三国志』的な面白さがあり、また友情・主従関係のドラマに加えて、文林と小玉の形式的には夫婦でも友人なんだか主従なんだかちょっと恋愛入ってる?的な微妙な、基本セックスレスな関係が見所です。

第零幕、一「伝説の始まり」は番外編で、小玉の子供時代から軍隊に入って彼女の才能が見出され抜擢されるまでの物語です。

第零幕、二「運命の胎動」は番外編第2弾で、親友・明慧や文林との出会いなどが描かれています。部下を守れるように出世して力をつけようと小玉は決意し、文林は彼女のそばにいて補佐する決意をするところで終わっています。

この第零幕シリーズはまだまだ続くようです。

本編の第七幕では小玉が隣国・寛との最前線で矢傷を負って、矢の汚れによって症状が悪化し、かなりピンチに陥っているところで終わっています。典型的な「次巻に続く」のパターンで、読み終わった時に「なんでまた次が出ていないんだ?!」と悶絶した次第です。まあ、それくらい面白いわけなんですが、所々で「後の世では...」「100年後には...」云々という説明が蛇足的で目障りなのが玉に瑕のように思います。「辰という国の歴史を古代から近世にわたってきちんと設定してます」という作者の設定の綿密さをひけらかす以外に本筋に深みや含みを持たせるような感じでもないので、そういう言及はない方がストーリーの流れが阻害されなくていいのではないかと感じました。この唯一の難点を除けば、読み手をぐいぐい引っ張っていく力強い筆致で、私はどっぷりと嵌ってしまい、週末から昨夜まで睡眠時間を極限まで削って、発行されている全9冊を一気に読破してしまいました。