徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:藤原道綱母著、『蜻蛉日記』(角川ソフィア文庫、ビギナーズ・クラッシクス)

2016年05月02日 | 書評―古典

再び古典です。

ビギナーズ・クラシックスシリーズ定番の現代語訳・原文・解説という構成で古文ビギナーズの苦手意識が緩和されます。『蜻蛉日記』の執筆担当者は坂口由美子。

『蜻蛉日記』は、平安時代中期、10世紀末ごろ成立した日記文学で、作者は例のごとく個人名なしの藤原(右大将)道綱母と呼ばれる上流貴族の女性。上・中・下巻の三部からなり、上巻には15年間、中・下巻にはそれぞれ3年間、全体で21年間(954年夏から974年暮れまで)に渡る記事がまとめられています。テーマは夫藤原兼家との「はかない結婚生活」で、特に上巻がこのテーマに沿ったものとなっています。中巻はテーマにまだかかわりがあるものの、紀行文的要素も増え、下巻になると実質夫婦生活が終了してしまった後でテーマに沿ったネタが無くなってしまったためか、雑多な日常の出来事が綴られています。

作者は藤原家傍流の出で、摂関家嫡流の藤原兼家より家格は落ちるものの、上流貴族のご令嬢であることには違いがなく、しかも美人で優れた歌人と評判だったため、非常にプライドが高く、甘えたり媚びたりするのが苦手らしい。当時の結婚は一夫多妻の上に通い婚だったため、女性はいつ夫が通ってこなくなるのか分からないという危うい立場に置かれているので、現代よりもずっと「待つ」ことが多いし、あまり積極的になってははしたないと思われてしまうので、受け身にならざるを得ません。こうして作者は「はかない身の上」を延々と嘆くわけです。

藤原兼家は、まあ当時の上流貴族男性としては普通だったのかも知れませんが、まずは時姫と結婚し、彼女が妊娠するや、藤原道綱母を口説き落として結婚。道綱母が妊娠すると、今度は町の小路の女にちょっかいを出し、みたいな感じのプレイボーイで、個人的に願い下げな人。それなのに道綱母は兼家にぞっこんだったようで、彼が来るの来ないのと一喜一憂し、「時姫が三男二女に恵まれたのに、自分は息子1人だけ」と比べて嫉妬したり、落ち込んだり。夜離れしがちな夫が、自分の家の前を併記で通り過ぎて他の女のもとに行った、と嘆いたり。彼女自身のプライドが邪魔してか、意地ばかり張って、夫に甘えたり、許したりできないため、夫により不快感を与えてしまい、彼の足が遠のくのに拍車をかけてしまっています。息子道綱が二人の仲をけなげに取り持とうとしても、二人の仲は一時的なものを除くと改善されることはなく、冷え込んでいく一方に。

うーん。物語としての面白さもなく、共感も余りできないですね。なんというか、夫を自分に惹きつけておきたいならもっと努力すればいいのに、なんでそこで意地張るかな、と思うことが多すぎて。浮気者の夫に待つ女の辛さを分かれと言っても無理だと思いますし、浮気者だけに1人の女性といい関係を保とうとする努力はそれほどせず、ちょっとご機嫌伺をして、だめならさーっと引いてしまうような薄情さなので、それでも彼との関係を維持したいと思うなら、女性の方がより努力するしかないですよね。その努力が報われるとは限りませんけど。

そういうわけで、紀行文とか雑記の段は興味深いと思えますが、主題はちょっとつまらないですね。どこぞの専業主婦に甲斐性なしの夫の愚痴を延々数時間聞かされたような気分になります。

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