徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

難民危機:バルカンルート事実上閉鎖。EU・トルコ間難民サミット

2016年03月10日 | 社会

昨年100万人以上がヨーロッパ入りするために通過したバルカンルート。今年、オーストリアが入国制限を設けたのを皮切りに、ルート上の国々が難民の通過人数を一日580人までに制限。ついにスロヴェニアは3月9日水曜日未明から国境を閉鎖し、有効なパスポート及びビザを持つ人だけを入国させるようにしました。セルビア、クロアチア、マケドニアもこの例に従いました。この為難民たちはギリシャ・マケドニア国境のイドメニで足止めされており、現場での食料等供給が難しいためバスでアテネ方面に戻るように薦められています。しかし、悪天候で、劣悪な環境の中、国境が開くまで待つことを選択する人たちの方が今のところ圧倒定期多数で、戻った人たちは主に家族連れの約250人余り。現在約1万3千人がイドメニに留まっています。ギリシャ国内全体では約4万2千人が道半ばで途方に暮れています。
イドメニの難民キャンプは約2000人の収容キャパシティしかないため、大きな悪天候に耐えうるテントに入れなかった人たちには小さなレジャーキャンプに使うようなテントが支給されていますが、雨が降りこむなどで路上と大して変わらない状況のようです。食糧配給も間に合わず、特に子供たちが病気になっています。 

週末のEU・トルコ間難民サミットでは特に革新的な合意はありませんでした。EUからトルコへの難民支援金を更に30億ユーロ(約3800億円)追加すること、今年6月からトルコ人に対するヨーロッパのビザ取得簡易化、トルコのEU加盟交渉を5分野にわたって開始することと引き換えに、トルコは国境警備強化、難民密航組織撲滅、ギリシャでの難民申請を拒否した人たちの受け入れなどを承認しました。エーゲ海で保護された難民たちをトルコが引き取る代わりに、EUはトルコから難民認定を受ける可能性の高い難民(おもにシリア出身者)を1対1の割合で引き取ることになっています。こうしてトルコから1対1の交換レートでEUに引き取られた難民たちが最終的にどのようにEU内で分配されるのかはまだ何も具体的に決まっていません。このEU・トルコ間のディールは難民たちの個別事情の審査をしないため、国連からもその他の人権団体から強く批判されています。

 

3月10日には警察車両で90人の難民がトルコへ戻されました。主にモロッコ、アルジェリア、チュニジア、パキスタン出身者でした。3月1日・2日にも既にギリシャで難民申請することを拒否した267人がトルコへ送還されました。それでもトルコからエーゲ海をギリシャへ渡る難民の流れは止まっていません。1日あたり約3千人がトルコからギリシャの島々へ渡ってきており、ほぼ毎日のように数人の溺死者が出ています。バルカンルートが事実上閉鎖されたことを知らずにギリシャに渡る人もいれば、知っていてもなお運試しとばかりにヨーロッパへの逃避行を続行する人もいるようです。

EU各国はギリシャでの難民支援のために2018年までに7億ユーロ(約886億円)の特別予算を3月9日に決定しました。今年度分は欧州委員会の提案通り、3億ユーロ(約380億円)ギリシャに提供される、と欧州理事会は発表しました。 

エーゲ海・バルカンルートはギリシャで行き止まりとなり、トルコに逆戻りとなるので、再び地中海・イタリアルートでヨーロッパに渡ろうとする難民が増えるのではないかと懸念されています。地中海・イタリアルートはエーゲ海渡航よりもずっと危険なため、死の航海となるリスクがかなり高くなります。

なお、ドイツ内に残っている祖国送還処分決定が下されている難民に関しては、アルジェリア、モロッコ、チュニジア3国はこれまでの厳しい再入国制限をなくし、ドイツから送還される自国民を正規パスポートがなくても受け入れることに合意しました。今のところ二国間協定に留まっていますが、将来的にはEU・トルコ間のようにEUと北アフリカ諸国間協定に発展する可能性もあります。

参照記事:
ツァイト・オンライン、2016.03.08付けの記事「セルビアとスロヴェニアは国境閉鎖」 
ツァイト・オンライン、2016.03.08付けの記事「EUサミット:バザール開催」 
ツァイト・オンライン、2016.03.09付けの記事「有刺鉄線の政治」 
ZDFホイテ、2016.03.10付けの記事「希望対現実」 億
ZDFホイテ、2016.03.10付けの記事「バルカンルート閉鎖がギリシャに大打撃を与える」 
ターゲスシャウ、2016.03.01付けの記事「チュニジアも出戻り難民を受け入れ」