徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ヘルムート・シュミット元西ドイツ首相、国葬

2015年11月23日 | 社会

ヘルムート・シュミット元西ドイツ首相が亡くなったのは2週間前の11月10日でしたが、本日、彼の故郷ハンブルクのミヒャエリ教会で国葬の儀式が行われました。
彼はドイツ連邦共和国第5代首相として、1974-1981、「現実政治(Realpolitik)」をモットーに、赤軍テロなどの国家の危機に毅然と対応し、冷戦時代の東方外交に尽力しました。また仏大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタンと共に今日の欧州連合と共同通貨ユーロの基礎を築きました。政治の舞台から去った後も週刊新聞Zeitの編集者として、政治の局面に様々な政治的な意見を述べ続けました。彼は社会民主党(SPD)政治家でしたが、政党を超えて尊敬され、まさに「国の父」たる貫禄と明晰な頭脳、高い教養、そして高いモラルを持った「最後の政治家(Der letzte Staatsmann)」でした。元米外相ヘンリー・キッシンジャー氏(ドイツ生まれ、ナチス時代にアメリカへ亡命)をして「世界の良心(Weltgewissen)」と言わしめるほどの公明正大さを体現する政治家でした。CDを出せるほどのピアノの腕前の持ち主でもありました。「最後の政治家」というタイトルで独誌シュピーゲルから彼の伝記が出版されています。

享年96歳。彼の数十年来の友人で、戦後ドイツを代表するジークムント・レンツ氏が亡くなってから約2年。

余談ですが、彼のインタヴューを見るたびに、パイプをくわえて、これ見よがしに煙を吐く姿が目立ちましたが、喫煙と寿命が必ずしも相関関係にないことを彼は身をもって示したと言えます。
今日的観点からヘルムート・シュミット氏の唯一の政治的誤りと言えるのは、環境保護や原発に対する危険性などの観点に欠けていたことでしょうか。戦中生まれで、少年兵として終戦を迎えた現実主義の政治家に環境保護はまだまだリアリティを持っていなかったのでしょう。彼の考え方にすべて共感することはできませんが、それでも、モラルの高さや責任感の強さは人として真に尊敬できます。彼の後に第6代首相となって、16年間西ドイツに君臨し、東西ドイツ統一を果たしたヘルムート・コール氏と比較すると、シュミット氏の清廉潔白さがなお際立ちます。そして現在、時代はまたテロの時代になっていますが、現首相アンゲラ・メルケル氏には、残念ながらシュミット氏のような指導力、決断力、先見の明、危機管理マネージャーとしての行動力が欠けています。そういう意味で、本当に「最後の政治家」なのです。彼に並ぶべく政治家が現在存在しないのは本当に遺憾です。

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