徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

パリ同時多発テロ首謀者死亡。フランスは非常事態を延長

2015年11月19日 | 社会
パリ同時多発テロ首謀者死亡

昨日のパリ北部Saint Denisにおける大規模家宅捜査の際に死亡した2名のうちの一人が、パリ同時多発テロ首謀者と見られているAbdelhamid Abaaoud(28)であることが、DNA鑑定によって明らかになりました。アメリカ諜報機関の情報を得たとして昨日のうちに彼の死亡をリークしたワシントン・ポストの記事が正しかったことが証明されたわけです。パリ検察官フランソワ・モーラン氏によれば、Abaaoudは突入部隊が突入する際に発砲した銃弾で原型が分からない程撃ち抜かれていたため、すぐに人物を特定できなかったそうです。もう一人の自爆でなくなった女性は彼のいとことされているHasna Aitboulahcenでした。
カズノーヴ仏内相によれば、Abaaoudは2005年初め以来未然に防ぐことができたテロ6件のうち少なくとも4件に深くかかわっていたようです。フランス警察は11月13日のテロ襲撃以前にAbaaoudがフランスにいるという情報を得ておらず、彼がシリアにいるものと推測していました。カズノーヴ仏内相は「11月16日になって漸くヨーロッパ外の諜報機関が、Abaaoudがギリシャで目撃されたという情報を我々に提供した」と、EU内の協力体制の不備を指摘しました。

このテロリストとして有名なAbaaoudは、少なくとも2回ドイツに来ていたとのことです。2007年にはケルン近郊に滞在し、2014年にはケルン・ボン空港でコントロールされた形跡がありました。目的は不明です。彼は以前からベルギーで指名手配になっていたテロリストでした。にもかかわらず、彼がヨーロッパ内にギリシャから入り、恐らくオーストリア・ドイツを通過してフランスに向かった情報がどこからもフランスに行かなかったことが問題視されています。
Abaaoudはブリュッセル西部のモーレンベーク(Molenbeek)で育ち、多くのヨーロッパのイスラム過激派同様「イスラム化した過激派」の一人。つまり、もともと過激かつ暴力的なストリートファイターだったところに宗教色が加わったという経歴を持つ男たちの一人です。2014年春に公開されたISのプロパガンダビデオ(シリア北部で撮影されたと目される)にも登場しているとか。彼の両親は彼をカトリック系の学校、サン・ピエール・デュクル(Saint-Pierre d’Uccle)に行かせましたが、1年と経たないうちに止めてしまったようです。以後何度も軽犯罪で警察のお世話になり、2010年には強盗の罪で服役。彼の姉妹の証言によると、服役中により過激になった模様。刑務所の中で、今回のテロで自爆したテロリストの弟であるSalah Abdeslamにも出会ったらしいです。以後様々なテロ活動との関わりがあったと見られています。特に今年8月末に偶然居合わせたアメリカ兵によって防止できたフランス特急列車タリスでのテロを計画したと疑われています。

パリ同時多発テロの首謀者と目されていたAbaaoudを始め、自爆テロを行ったうちの少なくとも二人がブリュッセル在住だったことから、今日ブリュッセルで新たに家宅捜査が行われ、少なくとも9人の容疑者が逮捕されました。容疑者についての具体的なことは今までのところ明らかにされていません。ベルギーは今後テロ対策を更に強化するため、警察権限の拡大を決定しました。

カズノーヴ仏内相は、「ヨーロッパは可及的速やかに耐性を改善し、テロの脅威に対して防御しなければならないことは誰もが理解しなければならない。年末までにEUはヨーロッパ内の航空客データの利用、EU外境検問の強化、対武器密輸対策のコーディネート改善について合意しなければならない。」と表明しました。

参照:
ADRの2015.11.19付けの記事
ツァイト・オンライン、2015.11.18付けの「アウデルハミド・アバアウド:人殺しの裏で糸を引く男」。

フランスの非常事態宣言延長

非常事態宣言後、仏警察は武器の応酬やテロ関係者の逮捕、首謀者の射殺など、短期間にかなりの成果を挙げていると言えます。これまでに414件の家宅捜査が行われ、64人が逮捕され、60人が警察留置場に拘留、118人が自宅拘留に処されました。
いまだテロのショックで恐怖にとらわれているフランス人は非常事態下で人権が制限されることに異議を唱えることはしません。

今日フランス国民議会は『非常事態』を来週半ばから3か月間延長することを議決しました。上院の採決は金曜日に予定されています。

非常事態関連法の概要は以下のとおりです。
自宅拘留:自宅拘留に関する規定の厳格化。公衆の安全と秩序を脅かすと強く疑われている人物は自宅拘留に処し、他の容疑と連絡を取ることが禁じられたり、身分証類を取り上げたりすることが可能になります。
家宅捜査:コンピューターにあるデータも押収してよいことが明文化。しかし、議員、弁護士、裁判官、検察官、あるいはジャーナリストなど、個人情報に関わる職業の事務所へのがさ入れは今後タブーとなります。
報道の自由:報道の自由の規制は廃止となります。
結社の解散:非常事態下においては、「公衆秩序にとって重大な脅威となる」と見做されたグループや結社は解散させることができます。
外国戦闘員:国外でテロ戦闘員として雇われているフランス人は、フランス帰還の際により厳しく監視されるようになります。二重国籍者は、テロの危険があると見做された場合入国を拒否することが可能になります。
非常事態の延長:11月14日土曜日に宣言されたフランスの非常事態は12日間効力を有します。11月26日より更に3か月延長されます。
治安部隊の増員:治安機関は8500人増員されます。内訳は、警察や地方警察に5000人、法務省に2500人、税関に1000人。
(以上法案概要)



参照:
ZDFホイテ、2015.11.19付け「フランスは非常事態延長を採決」。