徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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ドイツ:世論調査(2016年8月12日)~社会民主党(SPD)支持率低下

2016年08月13日 | 社会

ZDFの世論調査ポリートバロメーターが8月12日に発表されましたので、以下に結果を私見による解説を加えつつご紹介いたします。

まずはタイトルにあるように政党支持率から。

連邦議会選挙

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

DU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 35%(変化なし)
SPD(ドイツ社会民主党)  22% (-2)
Linke(左翼政党) 8%(+1)
Grüne(緑の党) 13%(変化なし)
FDP (自由民主党) 6%(+1)
AfD(ドイツのための選択肢) 11%(変化なし) 
その他 4% (変化なし)

毎月の政党支持調査で大きな変化が出ることはまずありませんが、今回はドイツ社会民主党(SPD)だけが支持率を落としているのは目を引きます。

1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先推移:


政権満足度(スケールは+5から-5まで):0.6 (前回比 -0.2)

政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで)

  1. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、2.1 (+0.1)
  2. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.0(変化なし)
  3. ヴォルフガング・ショイブレ(内相)、1.6(変化なし)
  4. アンゲラ・メルケル(首相)、1.0(-0.4)
  5. グレゴル・ギジー(左翼政党)、0.9(+0.2)
  6. トーマス・ドメジエール(内相)、0.8(変化なし)
  7. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.7(+0.4)
  8. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.6(変化なし)
  9. ジーグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.4(変化なし)
  10. サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党)、-0.3(+0.2)

順位こそ変わってませんが、メルケル首相の評価が0.4ポイントも下落しているのは注目に値します。難民政策で相変わらず「私たちはできる(Wir schaffen das)」の精神論で、政情が怪しくなっているトルコとの難民協定に固執していることと、現実離れしたTTIP(アメリカ・EU自由貿易協定)の年内調印に意欲を見せるなどで呆れられてきているのかも知れません。

それに対して、何かとメルケル首相に突っかかっていた姉妹政党CSU党首のホルスト・ゼーホーファーはポイントを稼いでいます。ゼーホーファーはその右寄りの発言で、党内よりはAfD支持者の人気を集めつつあります。日頃から「CSUより右の政党は許さない」と言ってはばからない人で、AfDから支持者を戻そうという戦略が功を為してきていると言えます。

難民政策

メルケル/ゼーホーファーは難民政策をどちらかと言うとよくやっていると思う:

メルケル:44% (CDU/CSU支持者では66%)

ゼーホーファー:45%(CDU/CSU支持者では46%)

全体ではメルケルの難民政策よりもゼーホーファーの難民政策の方が1%多く支持を集めています。二人の所属政党であるCDU/CSUの支持者たちの間ではまだメルケルの難民政策の方が20ポイントも多く支持されています。メルケルの党内基盤はまだ崩れてはいないということでしょう。対してゼーホーファーの難民政策はAfD支持者の74%から支持されています。

 

トルコ

クーデター未遂以来、その首謀者とみなされているギュレン運動関係者(または関係者と見られた)人たちへの弾圧が激化し、1万人以上の公務員解雇、数千人の逮捕者またその逮捕者の非人道的な扱いなどでどんどんヨーロピアンスタンダードから外れているエルドアン・トルコ大統領。ロシアへの接近もあり、EU・トルコ関係はますます緊張してきています。難民協定はEU加盟交渉と結びついているため、協定がこのまま暗礁に乗り上げてしまうことがドイツ人の54%に危惧されています。

 

難民協定を座礁させないために、エルドアンの政策の批判は控えめにすべきですか?:

はい 14%
いいえ 80%
分からない 6% 

 

トルコのEU加盟交渉は…?:

中断すべき 35%
様子を見るべき 55%
続行すべき 8%

オーストリア外相がつい先日、「トルコの今の状態はヨーロピアンスタンダードから逸脱しており、誰の目から見てもEU加盟基準を見做していないことが明らかだ。それに目をつぶって形式だけ加盟交渉を続けるのは欺瞞であり、即座に中断すべきだ」というような主旨のことを公言したことで、トルコ外相から「レイシズムだ」と反論される、ということがありました。けれど、中断したい心情はドイツ人の35%が共有しているようです。私自身も心情的には中断賛成派ですが、政局判断からするとロシアとの兼ね合いから様子を見ざるを得ないと考えます。

 

トルコの政情はドイツ人とトルコ人の今後の共生に影を落としている?:

はい 53%
いいえ 44%
分からない 3% 

トルコ人の多いドイツでは、エルドアン大統領の熱烈な支持者もいれば、これまでも弾圧されてきたクルド系トルコ人もいますし、今回エルドアンの粛清対象となっているギュレン運動の関係者もいます。エルドアンのギュレン運動粛清はドイツまで飛び火し、ところどころで諍いが起こっています。これもドイツ内のトルコ人社会がドイツ社会に適合・統合していないことを表す一例です。もちろんトルコ人の中にもドイツ社会になじんでいる人はたくさんいます。私の会社(ドイツの大企業)にもトルコ系は多いです。でも、ドイツ語も満足に話さず、トルコ人コミュニティーの中だけで生きているトルコ人の方が残念ながら多数派なのです。このことは今後もトルコ政治とリンクした複雑な社会問題としてドイツ社会に重くのしかかっていることでしょう。

内政問題

運転免許証の取り上げ

ドイツでは離婚は裁判によってしか成立しません。子供の養育費負担などはこの離婚裁判で決められ、母親が子供を引き取る場合は父親に養育費負担の義務が生じます。裁判による判決ですので、法的強制力があるのですが、それでも養育費を規則的に払わない、あるいはまったく払わない父親がいます。こうした父親に対して対処を厳しくしようという政策の一環で、自動車免許証の取り上げを罰則として導入することが現在議論されています。それについて世論はあまりよく思っていないようです。免許証の取り上げをいいと思う人は32%、反対は63%。反対の割合は支持政党別では:

CDU/CSU 62%
SPD 61%
左翼政党 60%
緑の党 54%
FDP 53%
AfD 68% 

 

連邦軍の国内活動について

7月末にバイエルン州で相次いで起こった難民によるテロ事件によりテロに対する恐怖感が高まっている中、警察機動隊の人員不足もあり、テロ対策の一環としてドイツ連邦軍の国内投入案がCDU/CSU党内で再び浮上しています。ドイツでは軍隊の国内投入は憲法で特別な例外を除いて禁止されています。保守党(CDU/CSU)はかねてからこの連邦軍の国内投入を望む勢力があり、この度のテロに乗じてその念願を果たそうとしているようです。世論調査でもテロ対策のための連邦軍の国内投入は支持を集めているようで、72%の人が賛成しています。

しかしながら、警察の方から「使えるスキルを持った連邦軍の部隊はいない」と批判も出ています。これはどちらかと言うとテリトリー意識からかもしれませんが。

経済問題

一般的な経済状況:

いい 55%(前回比-1)
どちらとも言えない 39%(+2)
悪い 6% (変化なし)


自分の経済状況:

いい 63%(変化なし)
どちらとも言えない 31%(+3)
悪い 5%(-4)


ドイツの経済は今後…?:

よくなる 18%(前回比-2)
変わらない 56%(+1)
悪くなる 24% (+3)

Brexit(イギリスのEU離脱)やトルコの政情不安と難民問題のせいもあるかもしれませんが、今後のドイツの経済的展望がさらに悲観的になってきているようです。

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.221人に対して2016年8月9日から11日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年9月23日ZDFで発表されます。その前に、メクレンブルク・フォアポンメルン州の特別版世論調査が8月27日に、ベルリン州の特別版世論調査が9月9日に公表される予定です。