徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

2018年05月28日 | 書評ー小説:作者カ行

『蓬莱』は、ゲームソフト開発会社「ワタセ・ワークス」社長・渡瀬邦男がある日やくざ者に「蓬莱」というファミコン用ゲームソフトの発売を中止するように脅され、翌日にはそのゲームソフトの企画とプログラミングの大部分を担った社員が電車事故(?)で亡くなるというところから始まり、誰がなぜ「蓬莱」の発売中止を求めるのかという謎を探っていく推理小説です。

20年以上前の1994年の作品ということで、PKO問題などの社会情勢や、ポケベルやフロッピーディスクなどのアイテムにその時代を感じさせるものの、着想の面白さは色褪せていないと思います。ゲームの中に歴史的設定を織り込むのはよくあることですが、「蓬莱」には2世紀ごろの日本が織り込まれているとのことで、話の中でどんどんそこに隠されているものが明らかになっていきますが、その「織り込まれた歴史」自体も興味深いものがあります。話のテンポもよく一気読み必至です。

「ワタセ・ワークス」社のほぼ全員で「蓬莱」の謎に迫り、発売中止の圧力に抵抗しようとする一方、安積警部補は警察としてできる範囲ところで捜査し、「蓬莱」発売中止に絡む背後関係を洗おうとします。つまり『蓬莱』は以後続く「安積班シリーズ」第2期「神南署」の原点でもあります。私はこのシリーズは読んだことありませんけど、面白そうなのでこれからおいおい読んで行こうと思います。

渡瀬の行き着けのバー「サムタイム」のバーテンダー・坂本建造も味わいのあるキャラです。彼のドラマシリーズがあっても良さそうな感じですね。