徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:又吉直樹著、『火花』~第153回芥川賞受賞作

2015年12月12日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

昨日に引き続き、今日も読書感想文です。
今日の対象は又吉直樹著の『火花』という第153回(2015年上半期)芥川賞受賞作。私が読んだのは電子書籍版で230ぺージですが、紙書籍ではたった148ページの短編。

「BOOK」データベースの商品解説では
【お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。】
とあります。又吉直樹氏のデビュー作だとか。

売れない芸人たちの理想と現実の悲哀が淡々と描写されており、特に意外な展開もなく、徐々に壊れていく感じはなんとなくロシア文学を彷彿させ、神谷の「奇想の天才」という凡人の理解の及ばない、不器用かつある種の純粋さを持つ人物像は不思議と10代の頃に読んだドストエフスキーの『白痴』の主人公を思い出させました。ストーリーも題材も違うのに。それだけ、『火花』が純文学の系譜を継承しているということでしょうか。
『火花』は短編だけあって、主人公たちの「末路」までは描いていません。「この人たちはこれからどうなっていくのだろう」あるいは「どうしていくのだろう」と読者に想像させる余韻を持たせて小説が終わっています。その余韻もまた味わい深いものです。
ストーリーだけを見ると、スリル満点とかハラハラドキドキの対極にあり、「面白い」とはいいがたいです。お笑い芸人同士の対話も笑えるものはごくわずかで、どこか滑稽な悲壮感が漂っている印象があり、そこが売れない芸人の悲哀を醸し出しているのかも知れません。
通常スポットライトの当たらない舞台裏あるいはプライベートのお笑い芸人に焦点を当てて、淡々とその人物像を描き出しているのは、自分が普段興味を持つようなところではないだけに「興味深い」と思えるわけです。

私の読書傾向は節操なし。何かの賞の受賞作品を読んでみたり、ドラマで話題になったものの原作や単に人から勧められたものを読んでみたり。そして一度ある作家が気に入ると、その作家の作品を全作網羅したり。
今回『火花』を手にしたのはそれが芥川賞受賞作品だからという理由でした。
いつもニュースや最新情報を負うのではなく、たまには誰かが現実や時代の潮流を一度消化して違う形で表現したものを味わう、というのも乙なものです。

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