徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:小川勝己著、『葬列』(角川文庫)~第20回横溝正史ミステリ大賞受賞

2018年07月18日 | 書評ー小説:作者ア行

第20回横溝正史ミステリ大賞受賞作品ということと、角川フェアだったかフェスだったかで割引されていたので、新規開拓とばかりに手に取ってみた『葬列』ですが、うーん。「戦慄と驚愕の超一級クライム・アクション」という煽りにある通り確かに戦慄し、驚愕しましたよ。 「不幸のどん底で喘ぐ中年主婦・明日美としのぶ。気が弱い半端なヤクザ・史郎。そして、現実を感じることのできない孤独な女・渚。社会にもてあそばれ、運命に見放された三人の女と一人の男が、逆転不可能な状況のなかで、とっておきの作戦を実行した――。果てない欲望と本能だけを頼りに、負け犬たちの戦争が始まる!」という商品紹介。明日美としのぶは元々知り合いでしたが、20歳そこそこの渚は3人とは一切無関係。史郎はおしぼりを届けに明日美の勤め先であるラブホテルに出入りしていたので顔見知り程度。この一見無関係な4人が合流し、強盗を計画し、その後に史郎が娘を殺された復讐のために自分の属していた九條組に戦争を仕掛ける、というのがストーリの大筋ですが、それだけで終わらず、意外なラスボスが最後に登場し、真相の一面を明らかにするのに驚愕を覚えました。

全体的な話運びとして「起承転ー起承転ー起承転転転結」みたいな感じでした。クライムアクションなので、なんというか死体がゴロゴロ半端なく出ます。やめとけばよかったという後悔もすでに遅く、途中まで読んだらやはりどこに話が辿り着くのか見届けずにはいられない、つまり「はまって」しまったので、最後まで一気読みでした。

コロボックルでほっこりした後はミステリの気分だったから横溝正史ミステリ大賞受賞作品を選んだわけなんですが、「これもミステリなの?」という疑問はぬぐえず、気持ちがざらつき過ぎて読後感は最悪。でも思わず「はまってしまう」筆致・ストーリー展開はやはり賞を取るだけのことはあると思います。「欲望むき出しの人間は怖い」というのと、「一度スイッチが入る、またはリミッターのようなものが振り切れてしまうと人間は豹変し、いくらでも残酷なことができる」というのがこの本を読んで改めて確認した結論ですね。その豹変の過程の描写が説得力ありました。