徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:小野不由美著、『営繕かるかや怪異譚』(角川文庫)

2018年07月14日 | 書評ー小説:作者ア行

小野不由美の新刊文庫を久々に目にしたので早速購入した『営繕かるかや怪異譚』。

この作品に触れるまで「営繕」という言葉を知りませんでしたが、「営繕」とは、「建築物の営造と修繕」のことをいい、具体的には、建築物の新築、増築、修繕及び模様替などを指します。字面からなんとなく縁起の良さそうな感じがするのは私だけでしょうか。

というわけで、『営繕かるかや怪異譚』は家にまつわる怪異譚の集成で、営繕かるかやの尾端(おばな)という大工が家の「障り」のようなものを修繕して、住み続けられるようにするエピソードが6編収録されています。

小野不由美の怪奇物はマンガ化された「ゴーストハント」を除けばどちらかというと地味にじわじわ怖くなる感じの物が多いと思いますが、これもその一つで、一編ごとにちゃんと営繕屋が解決策を示すまで読み切らないと不気味さが残って夜中どれもにトイレに行くのがなんとなく嫌になります 

奥座敷の襖が何度閉めても開いている(「奥庭から」)、「屋根裏に誰かいる」と不安を覚える母親(「屋根裏に」)、雨の日に鈴の音と共にたたずむ黒い和服の女が徐々に袋小路にある自分の家に近づいてくる?(「雨の鈴」)、おやつやお供えがあさられ、押し入れを開けてみたら痩せた老人がうずくまっていて、目が合ってしまうが他の家族には誰にも見えない(「異形のひと」)、祖母の家を受け継いで「使えない井戸」を庭のうち水や植木に使ったら枯れ込んでしまい、何やら異臭を放ち水跡を残す「何か」が徘徊するようになった?(「潮満ちの井戸」)、4歳の娘を連れて出戻ったら親に厄介払いされ、格安で貸してもらった親戚の古い家では車の調子がしょっちゅうおかしくなり、暗いガレージで男の子が現れるようになった?(「織の外」)。

どれも自分で体験するのはごめんこうむりたい現象ですね。

それにしても、私は小野不由美は「十二国記」シリーズからファンになったんですが、ああいうファンタジーはもう書かれないのでしょうか。というか「十二国記」自体いまいちすっきりと終わっていない(行方不明のままの麒麟とか)ので、続編が出ないかなあと思ってるんですけど。でも最近出ているのは怪奇物ばかりで、中でも『残穢』は一番怖かったですね。実話っぽい現実感が特に。

(購入はこちらから)

それに比べるとこの『営繕かるかや怪異譚』は軽くて朗らかな感じすらしてきてしまいます。営繕屋がやっていることは除霊でもお祓いでもなく単なる大工工事ですし。もちろん家相や由来などはきちんと考慮されてますが。そのささやかなことを大事にしている感じが微笑ましいです。