先日(9/19)受講した音読の課題文(八木重吉詩「まり」)。
予習を兼ねて、八木重吉の詩について調べてみました。
八木重吉の未刊詩篇の中で「鞠とぶりきの独楽」は、日本近代詩の貴重な成果である傑作。
この「まり」は、「鞠とぶりきの独楽」の中の一部。(太字部分)
詩人八木重吉の詩は不朽(ふきゅう)である。このきよい、心のしたたりのような詩はいかなる時代にあっても死なない。
(中略)結局八木重吉といふ詩人の天から授かった詩的稟性が、人生の哀しみに洗われ、人生の愛にはぐくまれ、激しい内的葛藤の果てにやつと到ることの出来た彼独特の至妙な徹底境に、一切の中間的念慮を払いのけることが出来たからであろう。(「定本 八木重吉詩集」の「序」 高村光太郎著)
以下、「鞠とぶりきの独楽」の一部
** 憶 え 書 **
鞠とぶりきの独楽 及びそれよりうえにとじてあるのは、皆 今夜-(6月18日の夜)の作 なり。
これ等は童謡ではない。むねふるえる日の全をもてうたえる大人の詩である。
まことの童謡のせかいにすむものは こども か 神さまである。
真理のほかに
まだほかの真理がある
みないで
それをしんじうるものはさいわいである
いろいろな
世界があることはたしかだ
ひとつのもの 鉄でさえそうだ
くされた鉄があり
やくにたつかたい鉄があり
とけてぷるぷるふるえる
「鉄よりも鉄」の鉄がある
じごくがあり
てんごくがあり
にんげんの世もある
みえたりみえなかったりする
てくてくと
こどものほうへもどってゆこう
こどもがよくて
おとながわるいことは
まりをつけばよくわかる
あかんぼが
あん あん
あん あん
ないているのと
まりが
ぽく ぽく ぽくつかれているのと
火がもえてるのと
川がながれてるのと
木がはえてるのと
あんまりちがわないとおもうよ
ぽくぽくひとりでついていた
わたしのまりを
ひょいと
あなたになげたくなるように
ひょいと
あなたがかえしてくれるように
そんなふうになんでもいったらなあ
ぽくぽく
ぽくぽく
まりを ついてると
にがい にがい いままでのことが
ぽくぽく
ぽくぽく
むすびめが ほぐされて
花がさいたようにみえてくる
かんしんしょうったって
なかなか
ゆう焼けのうつくしさは
わかりきらない
わかったっていいきれない
ぽく ぽく
ぽく ぽく
まりをついてるとよくわかる
まりを
ぽくぽくつくきもちで
ごはんを たべたい
ぽく ぽく
ぽく ぽく
まりつきをやるきもちで
あのひとたちにものをいいたい
まりと
あかんぼと
どっちもくりくりしてる
つかまえ どこも ないようだ
はじめも おわりも ないようだ
どっちも
ぷくぷく だ
ひいとおよ
ふうた
ふうたあよ
み いい
ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
まりをついてると
いったい
数というものが どうして できたか
なぜ 数というものは あったほうがいいんだか
そんなわけがらが
ほんのりと わかってくる
色は
なぜ
あるんだろうか
むかし
神さまわ
にこにこしながら色をおぬりなされた
児どもが
おもちゃの色をみるようなきもちで
川をかんがえると
きっと きもちがよくなる
みるより
かんがえたほうがいい
いまに
かんがえるように
みることができてこよう
そうなれば ありがたい
おもちゃに
むちゅうになってたら
なにも かも
おもちゃに みえてきたぞ
おかしいことには
なにも かも ちいさくみえて
おもちゃばっかり 巨きい
ひとりでんに
できたものといえば
おそらく
まりだろう
こまというものは
鞠の うえしたが とんがったんだ
まりの しんるいだ
すこし
かんじはするどい
やっぱり こまのほうが
神さまにちかいかな
いいもの
みつけた
あった あった
まりがあった
まりは
ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
わたしも ぽこ ぽこ
ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
まりに
あきたら
独楽と ゆこう
こまにあきたら
まりと ゆこう
だあれも
人のみてないところで
おもいきり人のためになることをしていれぬものか
きりすとを おもいたい
いっぽんの木のようにおもいたい
ながれのようにおもいたい
柿の花が
柿の木のまわりに落ちていた
ぱらぱらとちらばっていた
その日は
桃子にきつくほほずりしてねむりについた
いても
たってもいられない
はなしてもだめ
ひとりぽっちでもだめ
なにかにあぐんとくわれてしまいそうだ
森へはいりこむと
いまさらながら
ものというものが
みいんな
そらをさし
そらをさしてるのにおどろいた
おおきな河のうえを
夜の汽車でとおる
むこうのほうにも
橋があるらしく
いちれつの灯がかわにうつって
ひとつびとつ
ながい ながいひかりにたっている
たかい たかいところからみていたい
おこるどころか
じぶんは
とろっとろと
熔けてしずかにふるえながら
なにもかも美しいみたいものだ
ひるひなか
ひろい庭のまんなかに
からからになって
しかもまるくつるつるした
いっぴきの蛙がひっくりかえってた
ゆうぐれ
まっ青なはらっぱで
狂人がすわりこんで
たばこをふかしていた
空気までまっさおなはらっぱだった
いいゆうやけだ
じっと みていると
かすかに
くもは うごいている
そらがうごいているようだ
空いちめんうすくれないとみどりだ
ま り
なにがいいかって
やっぱり
鞠はいとのまりがいい
おおきくてかるいのがいい
ぽこぽこしていて
ぶっつからぬさきにはずむようなのがいい
おもちゃ
おもちゃよ
おもちゃよ
たんとあれ
思いがけず、この詩と出会い八木重吉にはまりそうです。