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山田宏一『恋の映画誌』

2009-02-23 19:51:07 | ノンジャンル
 昨日から先程まで、伊豆の河津桜見物と、そのついでにサボテン公園に母と行ってきました。河津桜はもう盛りを過ぎていましたが、サボテン公園では近くに行っても逃げない鳥たちと出会え、また猛烈な霧の中を車で走るという経験もでき、楽しい1日でした。サボテン公園、オススメです。

 さて、山田宏一さんが'02年に出された「恋の映画誌」を読みました。様々な恋を扱った映画についての本、というよりも恋にこじつけて、素晴らしい映画のすべてについて語られたような本です。
 「祐子へ」という献辞から始まるこの本は、映画への愛に満ち満ちた本であり、その文章は映画そのものといってよいほどの素晴らしさです。例えば'19年のグリフィス作品「散り行く花」についての文章。「川霧に包まれた薄明のなかを、小さな中国船(ジャンク)がよぎっていく冒頭のイメージから、息を飲む美しさだ。詩人のギヨーム・アポリネールが『失恋した男の歌』のなかでうたったような『薄霧こめたある夕(ゆうべ)、ロンドンで』テムズ川をおおう夕暮れの光のなかに白い帆が通りすぎていく光景を見ながら、思い出されるのは映画『散り行く花』である―とフランス映画監督、ルネ・クレールも回想する(『映画をわれらに』山口昌子訳、フィルムアート社)。(中略)夜、窓から月光がもれてくる。リチャード・バーセルメス扮する中国青年(イエローマン)は立ち上がって窓辺に行き、岩間から流れ落ちてくる清水をすくうように、月光をてのひらにつかみとり、こぼさないようにそっとベッドまで持ってくると、眠れる美少女、リリアン・ギッシュの上にやさしく撒いてやるのである。」この映画を見たことがある人は、この文章を読むことによって、あの素晴らしかったシーンを追体験することができますし、映画を見たことのない人でも、この映画を見たい気を起こさせるとともに、映画を既に見た気にさえさせてしまう(もしかしたら、実際の映画以上のイメージを抱く人さえいるかもしれない)ほどに、あまりに映画的な文章だと言えるでしょう。句読点が極端に少ない文章は、延々と回るフィルムを想起させるものでもあり、ワンシーン・ワンカットを文で体現しているようでもあります。また、言葉使いの適切さにも脱帽します。
 ちなみにここで扱われている映画は1人の監督について1作品というルールに乗っ取っていて(例外はハワード・ホークスとウィリアム・ワイラーとルネ・クレマン)、私が特に映画的な興奮を掻き立てられた文章は、上にも一部紹介した「散り行く花」についての文章以外に、'24年のハロルド・ロイド主演作品「猛進ロイド」、'27年のトッド・ブラウニング監督作品「知られぬ人」、'31年のノーマ・シアラー主演作品「自由の魂」、'33年のヴィリ・フォルスト監督作品「未完成交響楽」、'34年のモーリン・オサリヴァン助演作品「ターザンの復讐」、'34年のジョージ・ラフト主演映画「ボレロ」、'34年のジョセフ・フォン・スタンバーグ監督作品「西班牙狂想曲」、'39年のレオ・マッケリー監督作品「邂逅」、'41年のバーバラ・スタンウィック主演作品「レディ・イヴ」、'44年のやはりバーバラ・スタンウィック主演映画「深夜の告白」、'46年のフランク・キャプラ監督作品「素晴らしき哉、人生!」、'47年のジャック・ベッケル監督作品「幸福の設計」、'52年のジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン共同監督作品「雨に唄えば」、'52年のルネ・クレマン監督作品「禁じられた遊び」、'52年のジェニファー・ジョーンズ主演作品「黄昏」、'53年のオードリー・ヘップバーン主演作品「ローマの休日」、'57年のアルフレッド・ヒッチコック監督作品「めまい」、'61年のミハイル・ロンム監督作品「一年の九日」、'72年のルネ・クレマン監督作品「狼は天使の匂い」などなどに関して書かれた文章でした。
 掲載された写真も素晴らしく、その多くが川喜多記念映画文化財団から提供されたもので、私はそこからお母さまよりも、生前多くの埋もれた海外映画を日本に紹介してくれた川喜多和子さんのことを思い出しました。
 とにかく映画好きの方には一生ものの本です。文句無しにオススメです!

ロバート・デ・ニーロ監督『グッド・シェパード』

2009-02-22 11:34:56 | ノンジャンル
 昨日のNHKでやっていましたが、イラクのクルド民族居住地域は、宗教対立がないので、イラクの中で最も治安がいいのだそうです。ちょっと意外な情報でした。

 さて、WOWOWで、ロバート・デ・ニーロ監督の'06年作品「グッド・シェパード」を見ました。
 1961年、CIAに勤めるエドワード・ウィルソンは、反カストロ軍に加勢する作戦にゴーサインを出しますが、作戦は失敗し、身内にスパイがいたことを知ります。1939年のイエール大学。大学生のエドワードは、政界の大物を輩出している秘密結社に入り、その結社の指令で対独の諜報活動を始めます。そしてその結社のパーティで出会ったマーガレット(アンジェリーナ・ジョリー)と結婚し、子供をもうけます。諜報活動の汚い仕事から手を洗うようにアドバイスした先輩は、目の前で殺されます。1945年のベルリン。自分を誘惑してきた秘書が怪しいと思ったエドワードは秘書をためらいなく射殺し、彼女の補聴器から通信装置を見つけだします。戦後、彼はCIAとして海外での特殊任務に就き、南米の労働運動の妨害などに手を染め、1960年になるとカストロの情報を、終戦時のベルリンで知り合った、ソ連の情報将校から渡してもらいます。その将校が偽者だと言う亡命ソ連人を拷問し、死なせてしまうエドワード。息子はCIAに入りたいと言い出し、そのことが原因で妻との絆が断ち切られます。そしてついに反カストロ軍加勢に関する情報を漏らした者が判明しますが、それは何とエドワードの息子の恋人でした。彼女は妊娠中だったにもかかわらず抹殺され、エドワードは歴史の暗い幕の中へと消えていくのでした。
 見事な画面ですが、内容から分かるように何とも重苦しく、見ているのが苦痛でした。人間の美しい面よりも醜い面の方にスポットが当てられていて、CIAという非人道的な組織を糾弾したい気持ちは分かるのですが、もう少し映画を見る人の気持ちになってほしいと思いました。それは2時間40分という途方もない映画の長さにも表れています。唯一の救いはアンジェリーナ・ジョリーの美しさでしょうか? 暗い政治スリラーがお好きな方にはオススメです。

打海文三『ピリオド』

2009-02-21 15:31:50 | ノンジャンル
 WOWOWで、アリ・カウリスマキ監督の「街のあかり」を再見しました。スタイルこそ違いますが、ブレッソンのように悲痛な、そして静ひつな美しさを持つ画面に胸打たれました。文句無しにオススメです。

 さて、打海文三さんの'97年作品「ピリオド」を読みました。
 小さな印刷工場で働く永井万里子は、会社が倒産の危機を迎えていた夜に会社に籠城していました。そして、屋上から侵入してきて、社長夫妻と役員たち全員、そして会社の実印と重要書類の全てを奪っていった整理屋の中に、叔父の萩原ツトムがいるのを目撃します。しばらくして出会った萩原は、社長は個人債務を負っていて、しかも脳死状態に陥っているので、会社の資産はないも同然だと万里子に告げた後、爆殺されてしまいます。万里子は真相を知るため、叔父の幼馴染みで、最近まで叔父と一緒に仕事をしていた真船享を訪ね、協力を依頼します。その夜真船は、ハヤシという日本人に雇われ真船を拉致しに来た中国人を捕え、追い返すのでした。家に帰ってきた万里子は、昔真船の恋人だったこともある母に、これまでの経過を説明していると、‥‥。
 とここまで読んだところで、先に進む気力が萎えてしまいました。原因は、ストーリーの先が読めたこと(おそらく、これまでの打海作品のように、暗躍に次ぐ暗躍の結果、白兵戦のクライマックスを迎え、わずかな希望が残るエンディングを迎える)と、状況説明をするための、リアリティのない万里子と母の会話をこれ以上読む気がしなくなったことです。
 打海さんの作品を全部読もうと思ったのは、私が最初に読んだ打海さんの小説「愚者と愚者」が割に面白かったからですが、ここまで読み続けて来て、打海さんの小説の話し手が、全然泣かないことに初めて気付きました。打海さんの小説から受ける、何かしっくりこない印象の原因は、もしかしたらその辺にあるのかもしれません。どちらにしろ、今読んでいるのは「愚者と愚者」以前の作品ばかりなので、「愚者と愚者」の後に書かれた小説に辿り着くまで、もう少し頑張って読んでいこうと思います。
 ということで、打海さんの「ピリオド」、私は判断停止です。

ガブリエル・レインジ監督『大統領暗殺』

2009-02-20 17:56:08 | ノンジャンル
 WOWOWで、ガブリエル・レインジ監督の'06年作品「大統領暗殺」を見ました。
 「この作品はフィクションであり、ホワイトハウス、米政府、シカゴ市警を含め、登場する実在の人物や組織はすべて、本作品の内容とは全く無関係である」「2007年10月19日」の字幕。シカゴのオヘア国際空港にブッシュ大統領を乗せた専用機が降り立ちます。その時の様子を語る元大統領警護主任。大統領のリムジンに同乗していた元大統領顧問の証言。反ブッシュを叫ぶデモ隊と衝突する警官隊。その時の様子を語るシカゴ市警副本部長と元ホワイトハウス担当記者。シカゴ経済クラブで演説するブッシュ。会場の出口で客たちと握手しているところを胸を撃たれ、リムジンに担ぎこまれ病院に急行するブッシュ。監視カメラの映像。テレビの速報。犯人は向かいのビルからライフルで撃ったことが語られ、次々と不当逮捕される人々。誤認逮捕された人の様子を語る元FBI鑑識捜査官。手術と医師の会見の様子。犯行に使われたライフルの発見。暗殺のニュースを聞き、犯人がイスラム教徒でありませんようにと祈るアラブ人女性。そしてブッシュの死を告げるニュース。先程のアラブ人女性の夫ジクリが暗殺犯として逮捕されたという報道。ジクリを尋問したFBIテロ対策本部のスタッフ。チェイニー新大統領は、ジクリがシリア人であることから、シリアの陰謀であることを疑い、そしてあっと言う間に、シリアが暗殺を図ったことへと世論操作されていきます。「大統領暗殺から10日後」の字幕。追悼演説をするチェイニー。「シカゴ更正センター」の字幕。そこで尋問されていたジクリは、不完全な証拠のまま起訴されます。「大統領暗殺から7ヶ月後」の字幕。ジクリはブッシュ暗殺の罪で有罪になります。戦争の悲惨さ、そして9・11の結果戦ったイラク戦争の不毛さを語る復員兵、またイラク戦争で息子を失った母。そしてその夫が、息子を奪ったブッシュに復讐するために暗殺を行い、その後自殺したことが明らかにされます。最後に「有罪判決から1年、控訴審はまだ始まっていない。ジャマール・アブ・ジクリは今も死刑囚監房にいる。」などの字幕が示され、映画は終わります。
 おそらくブッシュとチェイニーの映像と一部のニュース映像以外は全て偽の映像なのでしょう。しかし、偽のドキュメンタリー映画をでっち上げて、それを劇映画として封切るというのは、そんな方法があったか、と虚を突かれた感じです。こうした形を取れば、多くの人の目にも触れるでしょうし、資本主義社会でのプロパガンダ映画として有効なのではないか、と思いました。
 それにしてもこんな内容の映画をよく作れたものです。日本なら企画の段階で企業がつぶしにかかると思いますが、さすがにイギリス、だてに古い民主主義の歴史を持っていないなと思いました。素晴らしい出来です。文句無しにオススメです。

デジタル・リマスター版『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』

2009-02-19 16:33:23 | ノンジャンル
 今日、川崎アートセンターへ、デジタル・リマスター版「シェルブールの雨傘」と「ロシュフォールの恋人たち」を見て来ました。
 デジタル・リマスター版と歌っていましたが、画質、音質ともに以前に見た版と変わりありませんでしたが、今回は何回も泣いてしまいました。「シェルブールの雨傘」では、雨の落ちる石畳に雨傘が行き交う、有名なオープニング・タイトル(ここでは、カメラが真下を向く時の地面との距離が、そのシーンが終わる時には短くなっていることを発見しました)、ドヌーブが窓際で初めて姿を現す場面、ギイと叔母の最初の会話の場面(叔母がギイに彼女ができたと知って泣くので、ギイが「寂しいの?」と言うと叔母が「幸せだからだよ」と言い、ギイが彼女の顔にキスの嵐を降らすという、素晴らしい台詞の場面)、そして買い物から帰ってきた息子とギイが雪遊びをするという、これまた有名なラストシーン、「ロシュフォールの恋人たち」では、広場でダンサーたちが踊り始める場面、チャキリスたちと双子姉妹が踊る、多声的(ポリフォニック)な素晴らしい場面、そしてあくまでもハッピーエンドなラストシーン。以前にも感じましたが、「シェルブール」がシンプルなストーリー、音楽と作りなのに比べ、「ロシュフォール」はストーリー、音楽ともに多声的(ポリフォニック)であり、対照的な作品だと思いました。また、今回改めて思ったのは、ドヌーヴの美しさで、「シェルブール」の時20歳、「ロシュフォール」の時23歳ですが、奇跡とも思える、女性的で繊細な相貌は、この時既に一児の母だったとは思えないものでした。この2作でのドヌーヴは、映画史に永遠に残るものだと再確認した次第です。
 ということで、ジャック・ドゥミの代表作2作、まだ見ていない方はすぐに映画館へ!(映画の詳細を知りたい方は、私のサイト(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)の「Favorite Movies」の「Jacques Demy」をご覧ください。)