うたことば歳時記

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啓蟄

2016-02-29 21:39:44 | 年中行事・節気・暦
 啓蟄は雨水の次の節気で、3月6日頃に当たります。「啓」は開くことを意味しています。(手紙の冒頭の「拝啓」の「啓」は「申し上げる」という意味)「蟄」は「虫が土に籠もる」という意味ですから、寒い冬に土の中で縮こまっていた虫が、陽気に誘われて這い出てくるという意味です。しかし二十四節気のことでいつも思うのですが、そんなことは生物や地域によってまちまちであり、杓子定規に決めつけること自体に無理があります。またネット上ではみな判で押したように、どこかから借りてきて貼り付けたような同じ解説ばかり。生活感や実感のないものが氾濫しています。そのこともいつも疑問に思っています。日本では「虫」と言えば昆虫の類の虫を思い浮かべますが、「虫」は本来は蛇の象形文字であり、中国では蛇などのは虫類も含んでいます。土の中から這い出してくるというなら、むしろ蛇や蛙などの方が啓蟄の実感がありますね。そもそも多くの虫は卵や蛹で冬を越し、土の中で成虫が冬越しする種類はむしろ少ないのではないでしょうか。虫に詳しい人なら、そんなことはないと言うかもしれませんが、普通の生活をしていると、成虫のまま土の中に籠もっている虫を見かけることはあまりありません。むしろ日溜まりでは立春前からテントウムシやクビキリギスを見かけました。
 立春を過ぎて初めて鳴る雷を、「虫出しの雷」と言います。「春雷」という歌があるそうですが、私は全く知りません。春先は一年の中で特に雷が多い季節ではありません。回数から言えば8月が多いのは当然ですが、回数を折れ線グラフにすると、3月が一つのピークになっているのは確かです。それは12~2月が最も少ない時期なのですが、3月になると急に増えるからです。ですから回数だけなら5~9月の方が3月より多いのに、急に増えるために3月の雷が印象に残り、「春雷」という言葉が意味を持ってくるわけです。「虫出しの雷」という言葉は、啓蟄の頃に鳴ることによる呼称でしょう。
 啓蟄も春雷も古歌には全く登場しません。まあ少し知られているところでは、次の一首くらいでしょうか。
   ○ちはやぶるかみなりけらし土に巣に籠もる虫も今は出でよと(六帖詠草拾遺   小沢蘆庵)
啓蟄の初候は「蟄虫啓戸」で、「すごもりむし とをひらく」と読みます。けれでは啓蟄と全く同じですから、敢えて七十二候に選ぶ意味はありませんね。